日本オープンイノベーション最前線~eiiconがお伝えするオープンイノベーションルーキーの罠と実践ノウハウ~
オープンイノベーション疲れの日本企業に贈る20の提言
2017年8月28日、IoTスタートアップが集まる展示会「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」がベルサール飯田橋ファーストで開催された。いくつものビジネスカンファレンスが行なわれたが、その中から今回はセッションD「日本オープンイノベーション最前線~eiiconがお伝えするオープンイノベーションルーキーの罠と実践ノウハウ~」のレポートをお伝えする。
登壇者はオープンイノベーションのプラットフォーム「eiicon」のファウンダーである中村亜由子氏。eiiconはパーソルキャリア株式会社の社内ベンチャーとしてスタートしたプロジェクトだ。中村さんは、2008年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒で入社し、リーマンショックを経験。2014年に産休に入り、その期間中に起案し、2016年に復職のタイミングで動き出した。eiiconは3月にリリースされ、現在は半年を経過したところにある。
なぜ、いまオープンイノベーションが必要なのか
最初のテーマは、「なぜ、いまオープンイノベーションが必要なのか」という問いだ。これに対して中村氏は、日本の新規事業創出が出遅れている現状を説明した。日本企業の新規事業売り上げは米国・中国と比べても半分しかなく、新規事業創出における満足度アンケートでは企業の75%が低い満足度しか得られていない。
また、1990年以降に時価総額1000億円以下から5000億円以上に拡大した企業数では、米国が721社で日本が77社、そのうち1990年以降に設立された企業数で言えば、米国が595社、日本が5社と大きく差を付けられている。
オープンイノベーションの定義としては、ヘンリー・W・チェスブロウが提唱する「企業内部と外部のアイディア・技術を組み合わせることで革新的で新しい価値を創り出すこと」と提示。新規事業を推進する効果としては、開発コストを圧縮でき、収益が上がる点が挙げられている。
率直に言えば、今の日本ではオープンイノベーションがうまくいっていない。
企業は危機感を持っており、昨年と比べると3倍以上のアクセラレータプログラムが動いている。それなのにきちんと走り出せてない企業がとても多いのだ。国内の民間企業手許資金は229兆円と言われ、資金の用意はある。この現状をeiiconは、共創すべきパートナーに出会えていないため、と分析している。
経済産業省の資料によると、オープンイノベーションを推進していることを告知していない企業が83%もある。これが、共創相手と出会えない原因の1つとなっている。そこでeiiconが提供しているのが、オープンイノベーションのマッチングプラットフォームだ。企業間の出会いとコミュニケーションの場をウェブ上で提供している。ユーザー企業が自社のホームページを持ち、共創パートナーを探し、コンタクトできるサービスだ。しかも、ここまでは無料で提供。PR支援やマッチング支援やイベントを実施するといった内容ごとに有料プランを用意している。
サービスリリースから半年が経過し、法人登録は1700社を突破。企業同士のコンタクト数は400社を超えた。ビジネスマッチングの成果は30件ほど出ているという。有料プランを利用する企業も20社を超え、継続率は100%となっており、関心度の高さがうかがえる。
会ってみるとか、幅広く、というのはNG
ここから本編となる「オープンイノベーションルーキーが必ずハマる20の罠」についてだが、今回は主に大企業とスタートアップによる取り組みで陥りやすい課題が取り上げられた。
まずは1つ目、「『まずは幅広く募集』による悲劇」を中村氏は詳しく紹介してくれた。
ふわっとスタートして、興味を持ってくれた企業と片っ端から面談や会食、打ち合わせを連発し、半年くらい経ってみると何も結果につながらないまま疲れてしまうという事例が増加しているそうだ。
さらにeiiconが取ったアンケートも紹介された。大企業側では、多数のスタートアップと面談したが、経営陣から「ちょっと違うんだよね……」と言われて疲れている、という声。一方のスタートアップ側では、大企業と会えると言っても決裁者でもないし、新規事業にも素人、「何回ミーティングしても決裁者に会えない」という声が。また、いざ「やりましょう!」となっても、「スタートは半年後で」というようなお互いのスピードをまったく計算に入れないようなケースもあり、スタートアップからは「とても信用できない」といった生の声が挙がっていた。
特に大企業側には、対外的なリソースを求める目的と背景、ターゲットの絞り込みをしっかりする必要があると中村氏は言う。まずは会ってみるとか、幅広く、というのはNGなのだ。
続いては、70万円のPRプランを利用したコニカミノルタ株式会社の事例をもとに、具体的な流れを紹介。
コニカミノルタでのゴールは、「既存事業部の新システム開発が目的」とした。同社の産業光学事業部における新規事業を社内のみの技術では時間がかかるので、社外のパートナーと共同研究してスピードアップさせるというものだ。ターゲットは「自社にはない映像の情報を切り出すAI技術を持つ企業」と明確化。加えて、自社の開発部隊と共同開発してくれるのも条件とした。訴求ポイントは、自社が保有しているセンシング技術の提供と、スタートアップが得にくい大手顧客との接点提供だ。
続いてeiiconの企業ページを表示。中村氏によると、「オープンイノベーションのPRでこんなに文字の多いページは我々以外にはないと思います」という。タイトルや本文に、あらかじめ絞り込んだ条件や訴求ポイントを細かく明記し、担当者の肩書や実名に加えて写真まで掲載した。その結果を受けて、コニカミノルタの担当である山口さんの「当時は偶発的に応募が来るということに重要性を感じていなかったが、eiiconを利用したところ有力なスタートアップからお声がけをいただき、今では情報発信の大切さを理解しています」という声が紹介された。
スタートアップが注意すべきポイントは?
中村氏は残りの19の罠についても駆け足で解説。以下、駆け足でピックアップしていく。
罠その2は「横文字のオープンイノベーションに踊らされる罠」。そもそもオープンイノベーションの定義ができておらず、成功の基準も決まっていないので成功か失敗かの判断がつかないことがある。あらかじめ、きちんとした基準を決めておく必要があるという。
罠その3は「やったことのない方法も『秘密主義』かつ『自前主義』の罠」。前述したように、オープンイノベーションを推進しているのに告知しない企業が多いのだが、その言い訳が「まずは社内で体制構築してから」とか「少し感覚をつかんでから」というケースがあるという。日本企業でこれをしているとすぐに5年はかかってしまうし、その間に外部の手を借りているところは先に進んでしまう。最初はプロに頼んで、対外的に情報を発信し続けるスキームを構築する必要があるという。
罠その4は「リアルイベントの罠」。無意味な出会い方をしても、人脈にならず、ビジネスにもつながらない。月100枚年間1200枚の名刺を交換しても、相手のことをよく知らず、相手も自分のことをわかっていなければ意味がないのだ。イベントに行く時には、会う人をあらかじめ決めて行くことが重要。名乗り方も「〇〇会社の××です」ではなく、「〇〇を活かした××の立ち上げ責任者をしています」のように情報を正確に伝えた方がいいという。
罠その5は「アクセラレータプログラムの罠」。アクセラレータプログラムに事業化前までにお金をかけすぎると、提携がスタートしてもプロジェクトにはそのお金のプレッシャーが乗ることになる。そのため、あらかじめ提携後の走り出し資金を確保しておくことが重要となる。
罠その6は「無意識の「上から目線の罠」。社内で話し合って共創パートナーに自社用のカスタムを依頼するケース。これではただの受諾依頼になっているのに気が付いていないというのだ。また、社内で話し合った結果、共創パートナーに「再提案ください」と依頼するケース。本来は一緒に考えるべきなのに、大企業は受発注に慣れてしまって、このような上から目線になっているという。これは、推進する事業部とオープンイノベーションの担当と共創パートナーの3者でコミュニケーションすれば解決することが多いそうだ。
罠その7は「サラリーマン根性の罠」。上司にダメ出しをされると、上司の考えを忖度しすぎて、可能性を自分のところで潰してしまうことがある。担当者が「今回はやめておきます」と言い出したら、もう末期症状で新規事業は生まれないという。
罠その8は「浦島太郎感覚の罠」。大企業にとっては、事業化にこぎつけても予算化が難しいので来年度からね、というのが普通とのこと。しかし、スタートアップにとっては、「来年から」なんて言われたらその関係は破綻必至。根本的に時間感覚が異なることを理解しておかねばならない。
罠その9は「釣り合ってる?『シーズすぎないか?』の罠」。最先端のイノベーションに触れたいということで、誰も投資していないシーズのスタートアップと出会ったはいいが、人事がいなかったり販売ラインがないとか、最後になってプロトタイプをこれから作るとか、会社のフェーズがあまりにも異なるとそもそもの協業が難しくなるケースも。
罠その10は「アイディアに価値はナイ 秘匿主義の罠」。最初からNDAを求めて動きを遅くするよりは、まずは共創をスタートさせて、スピードを重視すべきという。
ここまでは、主に大企業側が陥る罠だったが、ここからはスタートアップが注意すべきポイント10を紹介。
その1は「反対意見に振り回されるな」。いろいろな人がいろいろ言ってくるが、そもそも最初の「課題」が事実なので、必ずそこに立ち戻って決定すべき、という根本の部分だ。
その2は「書面にないことは、『無い』ことになる」。大企業との連携開始の際は、書面の締結が必須ということ。一緒に頑張ろうとなっても、すぐに異動になるのが大企業だ。
その3は「自社のサービス説明だけで終わるな」。大企業と出会えても、スタートアップが自分の会社の説明をしまくると、大企業は自分のところにどんなメリットがあるのかがわからなくなり、うまくいかなくなってしまうというもの。
その4は「目先の事業提携にとらわれるな」。大企業のオープンイノベーション担当は上から指示を受けており、一方スタートアップは日々サバイブして目先の利益を求めている。ここが、よくない形で利害が合致することがあり、まず事業提携しませんか、となってしまうとうまくいかない。きちんと課題に向き合わないと、大きいインパクトは生まれないという。
その5は「誰がキーマンであるか」。オープンイノベーション担当と打ち合わせが盛り上がって、スタートアップが作り始めてしまったのに、その後「すいません、予算が通りませんでした」と言われるケース。担当が決裁権を持っているか、決裁者を握っているかは必ず確認すべしという。
その6は「相手のブランドや規模だけで共創先を探すと失敗する」。規模やブランドより何を為すかを見据えることが重要だという。まず出資ありきでスタートしてしまうと、すれ違いが起きた時に双方のストレスがマックスになってしまうためだ。カルチャーが合うかどうかをないがしろにしてはいけないという。
その7は「無理のないスケジュールを組む」。インパクトが大きな取り組みは、実現まで時間がかかるので、スタートアップサイドもその体力を持ちましょうということだ。
セッションではこの辺りで時間が押してきたので、その8「アクセラレーションプログラムは担当者の顔が見えているものを選べ」、その9「相手を自社のファンにする」、その10「ターゲットを明確にする」と駆け足で紹介。最後に、質疑応答が行なわれた。
最初の質問は、「オープンイノベーションのゴールには、定性的なものと定量的なもののどちらを設定するのがよいのか?」だった。
「お勧めするのは定性的な、ビックインパクトを市場に残すようなマインドで設定することです。何を目指すかを、両サイドがきちんと持っておくことが大切です。一方で、定量的で短期的でもいいと思います。定量的なものを達成するためにオープンイノベーションという方法を使うのだ、と社内のみんなが共通で認識していれば、ですが」(中村氏)
次の質問は「eiiconに掲載されてからの反応はどのくらい?」というもの。
「eiiconは3ヵ月掲載なんですが、最初の2ヵ月で10社くらいから連絡があるケースが多いです。ターゲットをかなり絞っているので、平均で10社から、多くても20社くらいです」(中村さん)
最後に告知も行なわれた。eiiconは2017年10月13日、大手町SPACESにて「JAPAN OPEN INNOVATION DES 2017」を開催するという。多数の企業が参加し、オープンイノベーションの実現のためのヒントとなる場を提供するという。
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