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これからどうなる?(2)

ICBMより怖いのは常識を超えた24gの親指ドローンではないか?

2017年08月25日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

驚異的な安定感で飛ぶ「CX-OF」

デジタルではイノベーションは下から来ることに注意せよ

 1カ月ほど前、JDL(ジャパンドローンリーグ)理事で自身ドローンレーサーでもある高橋亨さんに「ついに超小型のトイドローンなのに安定飛行するものが出ますね」と教えていただいた。ここで、「安定飛行」というのは、人がコントローラから手を離しても中空で安定してホバリングしているということである。

 それが、次のビデオをまず見ていただくのがよいかもしれない。重量24g、サイズも40×40×35mmしかない「Cheerson CX-OF」というドローンの映像だが、専用のコントローラーやスマートフォンアプリには一切手を触れていない状態でこうなるのである。



 
コントローラーを操作せずにこの安定飛行。プロペラにも触れてしまっているがほとんど痛くない(真似はしないように)。

 本体下向きにカメラが装備されており、いわゆる光学式フロー制御が行われるために水平位置が保たれている(フロー制御用のカメラの性能の関係で安定して位置をキープできるのは高度3~4mまでだそうだ)。高さの保持はすでにこのクラスでもかなりよくなっているが、手で掴んで引っ張ってもゴム紐でもついているかのように元の位置戻るようすが分かる(逆に伸ばした手をフロー制御のカメラがとらえて流れたと思われる部分もある)。

 CX-OFの操作は、スマートフォンとプロポを組み合わせて「FPV」(ドローンの視点)で見たりしながらも行えるようになっている。本体前面に30万画素のカメラを搭載しており、静止画と動画の撮影が可能。解像度680×320で15フレーム/秒の映像はブレもありお遊びの程度だが、静止画は案外綺麗に撮れるようだ。

専用プロポはいわゆるモード1、モード2の切り替えが可能。個人的にはモード1で左のスティックで前後と旋回しながらFPVするのがお勧めだ。

本体下面には水平位置安定のためのカメラ。紐ののように見えるのは無線のアンテナで感度を上げるためには下に垂らして飛ばすとよいとマニュアルにある。

 これで、1回の飛行時間は5分(実質は4分程度)だが、FPVのほかに宙返りや旋回しながらの上昇下降などさまざまなアクションを順番に再生する「ダンスモード」ともいうべき機能もある。顔認識こそないもののリアルタイムで映像をスマートフォンに送っていることを考えれば、やれることは無限といってもあながち大げさではない。

 こうなると、007シリーズばりに、ビルのダクトの中を通って部屋に入り込んでしかるべき資料を撮影するようになるのも時間の問題のように思える。また、近年の軍事用ドローンは小型大量発射型になってきているが、ここまで小さいものが多数窓から入ってくるのはたまらないだろう。



 
さすがに6~7万円以上の製品と同等の安定度とはいわないが壁にあたる心配一切なく飛行できる。

 前回、「ドローンの次は多脚AR対戦ロボットの《メカモン》(MekaMon)と仲間たちだ」と書いた。ソフトウェアによって従来とさほど変わらないように見える多脚ロボットが急速に進化しそうだと思ったからだ(たとえば生物のようにある機能のための構造を持ったロボットが全身をスイングさせて車輪よりも効率的に動くなど)。

 しかし、「ドローンのほうもやはり進化していたのだ」と言い訳のようなつもりでこれを書いている。そしてもちろんだが、ドローンが小型化して危険だから航空法の200gの規制ラインはどうなのかなんて話をするつもりもない。むしろ、新しい技術の肌合いを知らずに暮らしていることのほうがより危険だからだ。

 ドローンの本質はスマートフォンの普及によって高性能低価格化したセンサー類によるコモディティ化なのだ。いままで安定飛行可能なホビードローンは6万円程度はするのが常識だった(ハイテック ウィングスランドS6など)。「PARROT Mambo」は1万円台で安定飛行するが撮影用・FPV用カメラを搭載しない。それに対して、CX-OFの価格は約5,000円前後である。

 デジタルの領域では、しばしば下からイノベーションがやってくる。音楽プレイヤーのiPodをやったからこそ、アップルはiPhoneを生み出せたと見てよいと思う。これは、トイドローンが1つ上のホビードローンを食おうとしているのだろうか?

DJIの定番「Phantom 4」(左)と今年6月に発売されて私のいまいちばんのお勧めホビードローン「DJI Spark」(右)。

 私のいまのお勧めのホビードローンは、DJIの「Spark」というモデルである。これは、同社の主力モデルである「Phantom」シリーズとほぼ同じ最新機能を含んで約300グラムしかない。顔認識や自動追尾をはじめとする先進機能に加えて、絶対的な安定性とカメラ品質だ。今回のCX-OFは、これと比べられるレベルのものにはもちろんなっていないが、なにしろほとんど重さも感じない24gである。

 これだけ小さく安いものが繊細に制御され、IoT(モノのインターネット)によってこれからはネットワーク化もされてくる。なにかまったく別なものが生まれたというほうが近いのだろう。


※著者および編集部は、技術基準適合証明(技適)を受けていない通信機器の利用を勧めるものではございません。通信機器は各国の法律に基づいて利用してください。各国の法律に反して利用しても、著者および編集部は一切責任を負いません。


遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。また、2016年よりASCII.JP内で「プログラミング+」を担当。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジャネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『NHK ITホワイトボックス 世界一やさしいネット力養成講座』(講談社)など。

Twitter:@hortense667
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