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シャープさん、8K時代はぶっちゃけどうなりますか? 評論家2名が聞いてみた

2017年07月18日 11時00分更新

スーパーハイビジョンの試験放送用チューナー

折原 「スーパーハイビジョンの試験放送用チューナーはすごく大きいですが、なぜでしょう。また、小型化することは可能なのでしょうか?」

高吉 「一つは端子の数です。背面を見ていただくと、HDMI出力が7系統あります。現在の規格では1本のHDMIケーブルで8Kの映像を伝送できないため、映像用だけで4本のケーブルが必要です、さらに最大22.2chの出力に対応するため、音声用に3本使っています。これも規格がなくて、受信側からは、信号をストレートに8chごと出す仕組みになっています。逆に言えば、既存のAVアンプを3台用意して、各チャンネルのスピーカーに割り振るだけで22.2chが実現できる仕組みです。

 あとは電源ですね。映像処理と8K放送のデコードが機能の中心ですが、そのための回路がまだ小型化できていません。基板としては複数枚あり、サイズも大きい。ここを来年に向けてシュリンクしていくことになります。デコーダーをどこまで小さくできるかがカギでしょう。ただし、テレビの筐体にはスペースを空けてあるので、70型クラスのテレビであれば、十分内蔵できる見込みです。チューナーの消費電力は130Wあり、テレビの消費電力は470Wあるため、単純計算で8Kのシステムを動かすために600W必要となります。

 べらぼうに高いというわけではないですが、家庭用の機器と考えると500W以下に抑えたいと考えています。省電力設計を詰める必要がありますが、実現のめどは立ってきています」

デジタル情報家電事業本部 栃木開発センター 第2開発部 係長の下田裕紀氏

下田 「85型のモニターは1500Wとこれと比べて非常に高い消費電力でした。これを比較すれば数年で、省電力性がかなり高まったという手ごたえもあります」

鳥居 「UIに関しては、民生用テレビの技術を採用しているようです。チューナーさえ入れば、すぐにでも展開できそうですね」

下田 「70型のモニターは、今後出すコンシューマー向けモデルへの展開を意識しており、バックライトの構造も民生の4Kテレビから展開しているものと同等です。薄さ軽さなども現行の4Kモデルと大差ないものになっています」

鳥居 「形だけみればそのままリビングにおいても違和感なさそうです」

本体の奥行きがかなり減った

高吉 「実機を見て70型で一番評価されているポイントがそこです。このサイズや薄さなら『家に置けるな』『使ってみたいな』と思えるサイズのようですね」

折原 「民生用の大型は日本でも65型までは普通だから、70型なら大差ないと言えるかもしれません」

高吉 「実感のわくサイズという評価をもらいます」

折原 「シャープの8Kモニターを実際に導入しているのは、やはりスーパーハイビジョン向けのコンテンツを制作もしくは検討しているスタジオになるのでしょうか?」

高吉 「そうですね……。いま一番大きなお客様と言えばNHK。パブリックビューイング用として全国に入れてくれました」

下田 「まずはそこですね」

高吉 「あとは8Kに関する研究機関ですね。今回の70型であれば試験放送の検討用とパブリックビューイングの2つを兼ねることができます。普段は放送局に設置しておいて、イベントがあれば外に持ち出すことができますから、コンスタントな導入をしてもらえると考えています」

折原 「70型をつくった理由はなんでしょう」

高吉 「1枚のガラス基板から、何枚のパネルを取れるかという効率のよさもありますが、大画面で8K映像を表示したいというとき、フルハイビジョンモニターを16面利用したり、プロジェクターで8Kを実現するといった手段がとれます。一方で85型でも大きすぎて、編集室に入らないとか、エレベーターに載せられないといった意見をいただきました。イベントで設置する際、100kgの本体では4人じゃないと厳しいといった問題もあります。我々がPR用途で搬入する際にも、それは感じていました。70型であれば、家庭での利用イメージも付きやすいと考え、70型を製品化しました」

折原 「スーパーハイビジョン中継車などにも導入予定ですか?」

高吉 「現状では、もう少し小さな50インチ程度のサイズで、他社の特注品だと聞いています。撮影現場では、逆に27型ぐらい小型のサイズが欲しいと言われています。8K映像ではピントやボケがよりシビアになりますが、現場でそれを確認できる機材がないと、持ち帰った際に映像がボケていて使えないといった声もあるようです。20インチクラスで足りるのかどうかは分かりませんが、ある程度コンパクトなサイズを持ち運んで使いたいという声も、特定の用途ではありますね」

折原 「8Kコンテンツは、今後NHK以外も作ることになると思いますか?」

高吉 「ここは各社のロードマップ次第ですね、民放は4K放送から始めます。ただ左旋の電波にはまだ空いているチャンネルがあるそうなので、やろうと思えばできるでしょう。8K映像の伝送には、100Mbpsの帯域が必要になりますが、5Gの時代が来れば、8K映像をYouTubeで再生することも可能になるかもしれません。NTTドコモやKDDIが、ほぼ同じタイミングで5Gの回線を使い、8K映像の配信をテストしたと発表しました。通信データを途切れず配信することができる5G活用テーマとして8K配信を考えているのでしょう。日本のインターネットの速度は、アメリカや海外よりも速いですが、5Gの時代がくれば、ネットから8K映像を楽しむという流れがいきなり出てくるかもしれません。

折原 「過去の取材では時期尚早と答えていましたが、Netflixのような資金力のあるコンテンツ配信サービスも有望かもしれませんね」

鳥居 「映像処理に関して、アップコンバート処理は必須だと思いますが、4K映像へのコンバートとはまた違う考え方が必要なのでしょうか?」

下田 「より解像度を上げる必要があるので、処理は難しくなります。ただし我々は4K NEXTで疑似8Kのアップコンバートをやっているのでそのノウハウを生かせると考えています」

高吉 「4K NEXTでは、一度8Kにアップコンバートして、4Kに落とす2段構えの処理でしたから、応用がしやすいはずです」

下田 「2018年に新規開発するチップでも、バージョンアップした形で入れていきます」

折原 「来年には放送が始まります。実際のところ、ネイティブ8Kのコンテンツはどのぐらい出てくるのでしょうか?」

高吉 「NHKは4K/8K両方の番組制作に手を挙げています。ライブラリーも増やしているし、日本ではNHK以外にもすでに数社が8K用の編集室を持っていますので、すでに編集環境は整ってきています」

どんなコンテンツをどのように増やすか

──放送の開始によってコンテンツも増えると思いますが、特に期待したいのはどんな番組ですか?

折原 「定時ニュースなどで決まったタイミングでこつこつと8K映像が増えていけば、それだけで喜ぶユーザーもいるかもしれません」

高吉 「ライブ放送ではすでに大相撲が8KHDR放送になっています。センバツの大阪予選も準決勝か決勝は8Kで配信されていました。スポーツ放送のためのノウハウもたまっているはずで、今後増えていくことが期待できます」

折原 「日本のユーザーとして外せないのは、アニメの8K化でしょうか」

高吉 「実はCGではすでに8Kが採用されています。試験放送が始まる10時と終了する18時のタイミングで、こだわりのあるエンディングロールが作られていますね」

折原 「つまり3D系のアニメなら可能性があるということですね」

高吉 「制作者によると、レンダリング時間が問題だと言っていました。NHKでは教育系の番組で宇宙や恐竜のシーンを8KのCGで作っています。その延長線としてアニメーションに行く可能性もありそうですね。昨年当社は3DCGアーティストTELYUKA(テルユカ)さんと一緒に女子高生『Saya』の8Kコンテンツを作りましたが、1分程度の尺でデータを作るのでも、レンダリング時間がかかり、そこがネックに感じました。しかしハードもありますから、ディープラーニングなどに使う高精度なパソコンが増えている現状を考えれば、8Kデータをレンダリングするのも難しくないはずだと、考えている企業もあるようです」

8Kで観るライブは、まさに異次元の映像体験(折原一也氏)

 NHKスーパーハイビジョン試験放送の番組『チック・コリア & ハービー・ハンコック ライブ・イン・ニューヨーク』を観た。8Kの臨場感まさしく”ライブ”だ。チック・コリア、ハービー・ハンコックの巨匠のセッションはまるで一眼レフ写真のような解像感で、撮影したブルーノート・ニューヨークに集う観客達の姿も克明に描き出される。8K、そしてシャープの70型8KモニターLV-70002のみが到達できる、まさに異次元の映像体験だった。

鳥居 「8K放送の録画に関してはいかがでしょうか? 禁止になるのか制限付きになるのか、答えは来年のタイミングで回答が出るんですよね?」

高吉 「私の理解では、放送局側が設定した条件で配信できることになったようです。コンテンツを提供する放送局の考え方次第でしょう」

鳥居 「いままでのようなタイムシフト視聴ができなくなってしまうことは『ない』という理解でいいでしょうか」

高吉 「機能としてなくならないと思いますし、われわれもそういう機能が必要だと思っています。一部、映画などを配信する際には権利者側も神経質になると思いますが、ネットを通じてどんどん高画質なコンテンツが配信されているのに、放送だけに制限がかかるというのは少し理解が得られにくいように思います」

鳥居 「少し安心しました。テレビでは見られるけれど、録画ができないのであれば、ショックですから」

高吉 「ここは機器メーカーではなく、コンテンツメーカーの判断となるので、われわれも受け身の立場ではありますが」

鳥居 「私の捉え方としては、8K受像機は「テレビ」というより「ニューメディア」に合わせた機器です。果たして8Kのパッケージが出るかは分からないですが、業界の足並みを揃えてもらい、放送の品質がグレードアップする点に期待したいですね」

折原 「そこは期待したいところですよね」

鳥居 「CMや権利者の都合優先で、高品質放送にブレーキがかからないことを願います」

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