クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報をお届けします。
第21回テーマ:電子カルテ x 電子処方箋
厚生労働省が発表している「電子処方せんの運用ガイドライン処方箋」によれば、処方箋は医療者から薬局への調剤の指示伝達だけでなく、交付されることで服薬の情報を知ることができる、患者にとって最も身近な医療情報の1つだという。
電子処方箋は、医療機関と薬局の連携や服薬管理の業務効率化などに寄与するだけでなく、電子お薬手帳との連携により、患者自らが服薬などの医療情報の履歴を管理し、健康増進への活用の第一歩になるなど、多くのメリットがあるのだ。
ここからはクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。最新トレンドをぜひチェックしてほしい。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。
調剤業務のスピードと正確性を実現
「院外処方」とは、診察を受けた医療機関ではなく外部の調剤薬局で薬剤を受け取る仕組みのことを指します。医療機関にとってみれば、わずらわしい薬剤の管理業務や調剤業務に労力を割く必要がなくなるため、その導入率が年々上昇しています。厚生労働省の報告によると、2015年の院外処方率は病院で76.3%、診療所で71.6%、全体では72.7%となっています。つまり、日本全国で多くの(7割以上の)患者さんが薬剤を受け取るために、医療機関から調剤薬局へ足を運んでいることを意味しています。
院外処方の場合、患者さんが処方箋を受け取ってから調剤薬局で薬剤を手にするまでの手順を整理してみます。(あくまで一般的なケースを想定しています)
- 医療機関で処方箋を受け取る(紙)
- 処方箋を調剤薬局に持参する(紙)
- 調剤薬局のシステムに処方箋の内容を入力する(手)
- 処方箋を見ながら薬剤師が薬剤を選択する(手)
- 3で入力した内容と照合する(目)
- 患者さんに薬剤を渡し、会計をする
調剤業務そのものは原本である処方箋を見ながら行なわれることが多いため、入力ミスが誤った薬剤を患者さんに提供してしまうことに直接結びつくというわけではありませんが、調剤業務のスピードと正確性を考えれば、上記「3」での処⽅箋データが直接取り込まれるほうが良いのでは? と考えるのは当然のことです。
2016年4月に解禁された電子処方箋システムが、調剤業務の効率化と正確性向上のカギを握っています。今回解禁となった電子処方箋は、地域医療連携ネットワークが運営主体となってサーバーを立ち上げ、そのサーバーを介して医療機関と薬局が処方箋データのやり取りをする仕組みです。
しかし、図をご覧いただければお分かりいただけるように、ネットワークへの加⼊はもちろん、日々の処方箋を処理する上でも煩雑な手続きが多く、現状のシステムでは大きな普及は望めないと考えられます。患者さんが薬局を選択するという原則は担保しつつ、医療機関の電子カルテから抽出されたデータがそのまま調剤薬局に送信されて、薬局側のシステムに取り込まれる仕組みが理想と言えるのではないでしょうか。
記事監修
裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長
1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。
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