マウス無線給電システム『POWERPLAY Wireless Charging System』が海外発表
ゲーミングマウスがワイヤレス充電可能に!? 衝撃の米Logitech新製品について開発者に聞く
PC周辺機器の世界的メーカーであるLogitech International(日本ではロジクール)は北米時間6月12日、ワイヤレスゲーミングマウスのワイヤレス充電システム『POWERPLAY Wireless Charging System』および、それに対応するゲーミングマウス2製品『G903 LIGHTSPEED Wireless Gaming Mouse(以下、G903)』『G703 LIGHTSPEED Wireless Gaming Mouse(以下、G703)』を発表した。現時点で、日本国内での取り扱い時期は未定だ。
価格は『POWERPLAY Wireless Charging System』が99.99ドルで、北米では今夏の発売を予定。『G903』はおよそ149.99ドル、『G703』はおよそ99.99ドルで、北米での発売時期はいずれも6月後半を予定している。
マウスのワイヤレス充電システムは世界初の試みということもあり、ほぼ完全な無線駆動を実現できることから、すでに大きな話題となっている。いずれも国内での製品発表はされていないものの、PCゲーマー大注目のプロダクトだ。
アスキー編集部では今回の発表に先立ち、開発中のマウス2製品やチャージングシステムのサンプルを実際に試しつつ、Logitech G(日本ではLogicool G)の製品ポートフォリオマネージャー・Chris Pate(クリス・ペイト)氏にインタビューできる機会をいただいた。注目の製品について興味深い話をうかがったので、ご紹介しよう。
なお、情報は開発時点のものなので、実際の製品版とは異なる場合があることには留意いただきたい。
ついにワイヤレスマウスでも『バッテリー駆動時間』から解き放たれる日が来た
――本日はよろしくお願いいたします。Chrisさんはこれまで、特にゲーミングマウスの開発に深く携わられていますね。
Chris Pate(以下Chris) その通りです。すでにご存じかもしれませんが、我々のゲーム部門はLogitech G(日本ではLogicool G)というグループ名で編成されており、全員がゲームに対する高い情熱をもって開発に取り組んでいます。メンバーの多くはすでに10年以上のキャリアを積んでおり、私自身、もう21年間もこの分野に関わっています。一度、上司に『mouse nerd(マウスオタク)』という正式な肩書を付けてくれとお願いしたのですが、断られました(笑)。我々がスポンサードしているプロゲーミングチームの選手なんかは、私のことを『bald mouse Jesus(ハゲのマウス神)』と呼んでいますね(笑)。
――今回の製品も、開発には直接関わられたんですか?
Chris はい、私が直接開発に携わった最後の製品です。いまは少し役割が変わって、プロダクト全体の管理を任されています。開発した製品の一貫性が保てるように、ということですね。
――さっそく本題に入ろうと思いますが、今回発表されるゲーミングマウス『G903』『G703』、そして新たなマウスチャージングシステム『POWERPLAY Wireless Charging System』の基本コンセプトについてお聞かせください。
Chris まずは少し、昨年度の話をさせて下さい。2016年度に発売したゲーミングワイヤレスマウス『G900』を通じて、我々はワイヤレスゲーミングに関わる3つの大きな懸念を解消したいと思っていました。ひとつは“接続性”、ふたつめは“遅延”、もうひとつが“駆動時間”です。このうち接続性と遅延の問題に関しては、『G900』で採用された“Light Speed Technology”(編注:『G900』から実装された低遅延を実現するテクノロジーの総称。今回の発表にあたり、正式な名称が付与されたとのこと)により、ユーザーの意識を大きく変えることができたと思っています。
バッテリーに関しても、重量や機能を犠牲にすることなく、数日間は充電なしで使うといったことはできました(編注:『G900』はLED非点灯状態で約32時間、点灯状態で約24時間連続駆動)。それでも、一週間に一度くらいはケーブルをつないで充電をしなければならない。「うっかり充電を忘れていたから有線で使わざるを得ない」といった事態がどうしても避けられなかったわけです。我々はここを何とかしようと考えました。そうして生み出されたのが、『POWERPLAY Wireless Charging System』です。
――さきほど『POWERPLAY Wireless Charging System』のビデオを見せていただきましたが(編注:インタビュー当時は製品未発表)、正直、想像もしていない製品だったので驚きました。
Chris 私自身、興奮しています(笑)。これによりユーザーは、バッテリー駆動時間やケーブルから解き放たれ、まったく新しい体験ができると思います。接続性や遅延といったパフォーマンスに関しても、我々はすでに『G900』で証明していますから、まったく懸念を持つ必要はありません。これは無限のパワー(Infinite Power)です。
――開発期間はどのぐらいだったのでしょうか。
Chris すべての期間を合わせると、およそ4年間ほどかかっていると思います。
究極のゲーミングデバイスを実現する『POWERPLAY Wireless Charging System』
――『POWERPLAY Wireless Charging System』の根本的な仕組みについて、聞かせてください。
Chris 基本的には3つの核となる要素から成り立っています。チャージングフィールドを内蔵したベース、本体との通信などを行なうユニット、それから同梱となるマウスパッドです。さらに、従来ダミーウェイトなどを装着していたマウス本体の底部に遠隔充電用の『PowerCore』モジュールを装着することで、通電中であれば常にマウスへ電力が供給される仕組みとなっています。マウスパッドとベース部分を分けることで、パッドが摩耗した場合も、取り換えれば繰り返し利用可能です。
――ワイヤレス充電の仕組み自体は、スマートフォンのワイヤレス充電で利用されている『Qi』のようなものだと考えればよろしいでしょうか。
Chris それに近いですが、まったく同じものではありません。『Qi』は基本的にスマートフォンを1ヵ所に置いておくことが前提のつくりですが、このシステムでは、マウスを動かした状態でも充電は止まりません。モジュールさえ装着していれば、ベースユニットの端を除くほとんどの位置でマウスへの充電は行なわれます。ベースユニットが限りなく薄いというのも大きな特徴ですが、これを実現するためにかなりの技術的な努力がありました。ユニット自体はいくつかの層から構成されているのですが、全体で約2ミリの厚さです。よくある充電用ユニットで見られるような10~12ミリといった厚さは、マウスを使うためには適していません。
――これだけ薄くできた一番の理由は何でしょう。
Chris PCBのような素材選びと、製造のプロセスですね。詳しくは言えません(笑)。
――では、ベースユニットの幅や奥行きがこのサイズになったのはどうしてですか?
Chris 弊社製のマウスパッドである『G440』『G240』(編注:どちらも幅およそ340×奥行き280mm)にマッチするサイズとなっています。より大きな『G640』という製品もラインアップにあるのですが、あまり大きすぎるとデスクのサイズという意味ではユーザーフレンドリーではないと判断しました。
――チャージングフィールドを内蔵するベースとマウスの間にマウスパッドを挟むわけですが、パッドの素材や厚みに制限はありますか?
Chris 我々のほうで、厚さ3ミリまでのマウスパッドはテストしました。たとえば5ミリ以上のパッドなどと組み合わせた場合、ベース内部のフィールドとの距離が遠くなりすぎ、給電の効果が薄れる可能性があります。それと、マウスパッドのテストは自社製品のクロスおよびハードタイプでのみ行なっておりますので、他メーカーの製品を利用した場合にしっかり使えるかどうかは分かりません。電磁場を遮るような素材でさえなければ、おそらく大丈夫とは思いますが。
――従来であれば、マウスとPCを接続するためにワイヤレスUSBレシーバーを利用していたと思うのですが、『POWERPLAY Wireless Charging System』をPCに接続した場合、レシーバーは別途必要になるのでしょうか。
Chris いいえ。『POWERPLAY Wireless Charging System』がUSBレシーバーの役割を果たすため、PCのUSBポートは1つあれば大丈夫です。レシーバーはLight Speed Technologyに対応しているため、従来機種のような接続性・低遅延は担保されています。
――「マウスを置いているあいだは充電され続ける」とのことですが、バッテリーの過充電を防ぐ仕組みなどはありますか?
Chris バッテリー残量が85~95%までで給電をストップするように調整しています。
――あまり現実的ではないかもしれませんが、バッテリー残量がゼロの状態から『POWERPLAY Wireless Charging System』を使用した場合、満充電まではどれぐらいの時間がかかるのでしょうか。
Chris それは、答えるのが簡単なようで難しい質問です(笑)。そもそも『POWERPLAY Wireless Charging System』による充電のスピードはそれほど速くありません。ですので、仮にマウスのバッテリー残量がゼロになっている場合、5分ほど有線ケーブルで直接給電してからワイヤレスチャージに移行した方がスムーズでしょう。ワイヤレスでゼロから100%まで充電するには、まったく触らなければ14時間ぐらい、使い続けた状態では4日間ほどかかると思います。不可能ではないのですが、マウスを充電するためのデバイスというよりは、使っている間もバッテリーを消費しないというのが我々のコンセプトであり目的です。
『G903』『G703』はワイヤレス給電に対応した新製品
――新製品のマウスについてもお話を聞かせてください。『G903』は『G900』の後継モデル、G703は『G403』の後継モデルとのことですが、これらは既存製品を『POWERPLAY Wireless Charging System』に対応させたモデルということでしょうか。
Chris その通りです。『POWERPLAY Wireless Charging System』の利用にあたっては、既存製品の改善が必要でした。特にフラッグシップの『G903』は、まさに究極のゲーミングデバイスと言えるでしょう。
――『POWERPLAY Wireless Charging System』への対応以外に改良点はあるのでしょうか。
Chris センサーなど基本部分は同じですが、細かな耐久性の向上を図っています。たとえばどちらの製品も、従来機種で公称2000万回までだったクリックボタンの耐久を、5000万回までアップさせました。仮にマウスのみを購入したとしても、従来製品からのアップグレードにはなっています。ちなみに『G903』だけは、今回のデザイン変更で3グラムだけ重量が増加しています。
――どちらの製品も、底部に『PowerCore』の装着部分が追加されましたが、従来のようにダミーウェイトを搭載することは可能ですか?
Chris ええ、製品には10グラムのダミーウェイトが付属します。『POWERPLAY Wireless Charging System』自体はマウスと別に販売されるものなので、マウスのみを購入した場合、ダミーウェイトを搭載するかどうかを選べますね。ちなみに、『PowerCore』モジュール自体はおよそ2~4グラム程度の重さがあります。若干重くはなりますが、極力無視できる程度に留めるよう努力しました。
――まだまだお聞きしたいことはあるのですが、時間がありません(笑)。最後に、日本の読者に向けてメッセージをお願いします。
Chris まったく新しい製品ですので、製品のリリースまでには多くの説明やドキュメンテーションが必要になってくると思います。ただし、実際に私も『POWERPLAY Wireless Charging System』のサンプルを仕事に使用しているのですが、毎日マウスを使っているのに、すでに3ヵ月間、有線でのチャージをしていません。この素晴らしさは言葉で表せるものではありませんから、ぜひ使ってみていただきたいと思います。
我々は2013年からワイヤレスのゲーミングデバイスを市場投入しており、スポンサード契約を結んでいるプロのeスポーツ選手たちも、ワイヤレスのプロダクトを利用して素晴らしい成績を残しています。ゲーミングデバイスメーカーからは、「ワイヤレスこそがゲーミングの未来だ」というメッセージも聞こえてきますが、我々にとってワイヤレスデバイスはすでに現在のものです。『POWERPLAY Wireless Charging System』と“Light Speed Technology”対応マウスを手に取っていただければ、すべての自由を獲得し、心穏やかにゲームに打ち込んでいただけるでしょう(笑)。
――ありがとうございました。製品の発売を楽しみにしています。
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