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6年間の歴史に幕を下ろした最後の電王戦

Ponanza強すぎの第2期電王戦第2局裏話、川上会長が電王戦の成り立ちをぶっちゃける

2017年05月27日 12時00分更新

佐藤天彦叡王の終局直後インタビュー

――今日の対局を振り返って序盤から中盤にかけてジワジワと広がっていったと思いますが?


佐藤叡王:中盤あたりからは難しい状況なのかなと思ってはいたんですけれども、ちょっと具体的な原因がわからなかったと言いますか、それでちょっとどこが徹底的に悪かったのかわからないですけど、ちょっと形勢を損ねていったのかもしれないですね。


――この対局に望む前に、事前に準備ができない状況だと思いますが、どのような準備をされたのでしょうか?


佐藤叡王:第2局へ向けては、実戦練習をするよりも、サポート棋士の永瀬拓矢六段とたくさん対局をやってもらい、永瀬六段といろいろと作戦会議をしたりして、最終的にそういう素材を元に、自分で実践してみたり、研究をしたりして当日を迎えた感じですね。


――対局に臨む前にどのくらいの勝算があると思っていましたか?


佐藤叡王:そうですね、勝算というとなかなか難しいですが、相当勝つのは厳しいかなというぐらい思っていました。


――この2局を改めてどういう戦いだったかというのを総括していただけますか。


佐藤叡王:こちら側としては、普段から自分が指している将棋といいますか、自分が持っている将棋感の中で戦っていきました。それに対してPonanzaは、なかなか自分では思いつかないような手を指されたり、自分にはないような将棋感の構想をやられたり、それが非常に良いもので、結果的にはそのあたりに差が出てしまって、最終的にはこの結果になったと思います。


――現役の名人として、こういう結果になってしまった率直な気持ちは?


佐藤叡王:そうですね、現状のPonanzaの強さを考えると、先程も言いましたとおり、大変厳しい戦いになると思っていました。ただ、名人として指すということで、ファンの皆さんの期待や応援の声も大きかったと思いますし、そういった、気持ちに応えられなかったことは残念ですね。

山本一成氏の終局直後インタビュー

――今日の対局を振り返ってみてどのあたりで勝てるという評価が出たんですか?


山本氏:対局のレベルは、私の認識を大きく超えているレベルの戦いなので、あくまでPonanzaの認識ということになりますと、穴熊の金を角と交換したあたりから急速に評価値が上がってきた感じですね。ただ、あくまでもPonanzaの視点ですが、序盤はむしろちょっと苦しいかなという感じが長く続いていました。もちろん、そんなにすごい不利というわけではないのですが、多分人間の言葉に直すとちょっと指しづらい状態が50手ぐらいまで続いていました。


――どれくらいの確率で勝てると思っていましたか?


山本氏:ちょっと言いにくいこともありますが、推測される強さのレーティングという概念があるのですが、その数値から予想すると、かなり勝率が高いのではないかと思っていました。ただ、やはり勝負になると別物なので、そのへんはどうなのかというのは結構不安視していました。


――名人に勝つということはひとつの目標だとおっしゃってましたが、実際2勝してみての感想は?


山本氏:名人に勝つということは、前局でも述べましたが、私だけではなく、ほかのコンピューター将棋関係者全員がいままで願い祈ってきた未来です。もちろんそれだけでは対局できず、そこに佐藤名人が座ってくださるという、大変光栄な場を用意してくれた、スポンサーを含めたいろいろな関係者のみなさまのお陰であり、たまたまPonanzaが対局できたということです。コンピューター将棋というのは、別に私ひとりの知恵ではなく、多くの先人の知恵、あるいは将棋だけではなくてコンピューターチェスや人工知能に関するさまざまな研究・理論などが出てきて、それらの総合としてPonanzaはできているので、この場に立てたことをそういった人たちに感謝したいと思います。

終局後の記者会見

――勝利したPonanzaの開発者に現在の気持ちをお聞かせください。


下山氏:本局は後手ということもあり、序盤は結構評価値がマイナスの値が出てたようですが、その後は無事に着実に指せていたので良かったと思います。

山本氏:コンピューターが名人に勝つという、一昔前では信じられないようなことが達成できたことを本当にとても嬉しいことだと思います。人工知能ってこんなことができる、いろんなことができるって言うことを、ちょっと見せられたと思い、嬉しく思っています。

――佐藤天彦叡王、本局を振り返っていかがでしたか。

佐藤叡王:序盤は対Ponanza戦ということを考ると、良い部類というかいい面もあったかなと思いますが、中盤戦以降は非常に力強い指し方で徐々に悪くなっていってしまったと思います。最後は負けという結果になってしまい、大変残念ですね。

――立会人の東和男八段に本日の総括をお願いします。


東八段:この第2局は佐藤叡王が序盤から指しやすいという、ほかの研究しているプロ棋士たちも同じ感覚でした。さらに現代将棋の最先端の感覚であります穴熊に組みまして十分の態勢であったと思われましたが、そこからなかなか勝たしてもらえなかったというところで、コンピューターの強さをしみじみと味わっています。またコンピューターは序盤に△5一銀という人間ではちょっと抵抗のある指し手から、さらに△1五歩と端をのばして、今回の一局は、コンピューターのほうに懐の広さを感じた一局ではなかったかと思います。

立会人の東和男八段。

――佐藤康光会長、本局をご覧になった感想をお願いします。


佐藤会長:本局は先手番の佐藤叡王がうまく主導権を握っている展開に見えました。コンピューターソフトと言いますと、非常に終盤が正確で間違えないという印象が、すごく強いと思いますが、本局に関しまして私が強く印象に残ったのは、駒がぶつかるまでの非常に間合いのバランスの取り方が絶妙と言いますか、具体的には△5四歩と5筋を突く攻めですね。角交換に5筋を突くなと言う将棋の格言がございますので、それに反した手でありますが、それをあえて指されたというところ。それから、△6二飛車ですね。これも8筋にいる飛車は遠くにいる方がよく効いている、大駒というものは遠くから働きをする方がいいケースが多いのですが、それをあえて戦場に近づけるという意味で、かなり危険な一手だと私には見えました。

ところがその2手を指すことによって、うまく局面のバランスをとって、逆にうまく戦機というか戦いのチャンスをつかんで、優勢に持っていたということで、そのあたりの戦いが始まるまでの間合いというのが、非常に素晴らしかったのかなという印象を持ちました。佐藤叡王が本局は十二分な力が出せる展開だったと思うんですけども、そこを封じたPonanzaの強さを目の当たりにしたのかなという気がします。

日本将棋連盟の佐藤康光会長

――第2期電王戦を振り返っていかがでしたか?


佐藤叡王:そうですね。第1局、第2局と結果は連敗となってしまいました。内容的にはPonanzaに対して、僕自身が本来持っている感覚だったり価値観だったり、そういったものを正面からぶつかっていって敗れたという結果になったのかなと思います。より具体的な内容に関して言えば、そういった人間、私の価値観や感覚の外にあるようなPonanzaの独特の感覚、人間=私から見るということですが、そういう独特な感性と言いますか人間の言葉で言ってしまえば感覚と言えるようなものを見せられて、それによって上回られた、そんな2局だったかなと思います。


下山氏:名人との対局という素晴らしい機会に、コンピューター将棋の開発者として、この場に来ることができて、とてもありがたく思います。


山本氏:そうですね、先ほど佐藤叡王からお話があったように、Ponanzaを含めたトップレベルのコンピューター将棋は、自分でいろんな局面を調べて、そして自分で改良するという強化学習と専門的には言うんですけれど、そういったことが多くのプログラムで行なわれています。それによって今までは人類があまり見たことのなかった形や新しい感覚をつかんでいったことで、どんどん自律的に強くなっているという状況です。ただ、忘れてはいけないことは、ある程度強くなったからこそ、そういった自主的にどんどん自分たちで強くするということができるようになったんですね。

そして、どうやってコンピューター将棋がある程度強くなったのかというと、もちろんそれはプロの棋譜、連綿と続く何万ものプロの棋譜を元に学習、教師あり学習と言いますが、プロという教師から学習することによって、自分たちで学習するというレベルに到達することができたんですね。これは、ほかの多くの人工知能でも、今後同じような道筋をたどって、同じようにどんどん自分を強化していく流れになると思いますが、しかし最初は人間があくまでも、その種であった、始まりであったということが大事なことかなと思います。逆に、今コンピューターのいろんな知識あるいは戦法、あるいは感覚といったものをプロ棋士の人たちが勉強されているとうかがい、それについてはすごくよかったなと思います。


佐藤会長:本局の話は先ほどしましたので、第1局の話も含めてみたいと思います。前回と違うのは、非常に序盤戦術で驚きと言いますか、これが今の最先端を行くものなのかどうかは、私では判断がつきかねるんですが、将棋にはいろんな指し方があるということですね。(Ponanzaに)教えていただいているのかなという感じがしています。1局目は、個人的な見解としては佐藤叡王がちょっと力を出せないまま終わってしまったのかなと思います。ただ本局は非常にお互いが力を出し切っての戦いということだったのかな、というふうに思います。前期に続きまして、今季もPonanzaの開発者である山本様、下山様には、本当に一生懸命ご尽力、開発に携わっていただいて、このような素晴らしいソフトを作っていただいたということ。また、今回このような2局とも素晴らしい棋譜を残していただいたことで、大変感謝申し上げます。


――第2期電王戦とこれまでの電王戦を含めて感想をお願いします。

川上量生会長:本日は最後の電王戦ということで、私も感慨深く対局を見守っていました。私は将棋に関して詳しく語れる知識は持ち合わせておりませんが、解説によりますと午前中は人間優勢で、3時ぐらいまでは、なかなか戦いが始まらず、がっぷり四つを組んだという展開だったと思っています。思い起こせば6年前の米長会長(米長邦雄永世棋聖)が対局されました、一番最初の電王戦も似たような展開だったなぁと、昔を思い出した次第です。最後の電王戦にふさわしい、素晴らしい試合を見せていただきました、佐藤天彦叡王に感謝したいと思います。

ドワンゴの川上量生会長。

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