日本のモノづくりのルールを根底から変えようとしているサービスがある。
A(エイス)が運営する「Wemake」は、企業の新規事業や新製品開発をユーザーと作り上げるサービス。オープンイノベーションプラットフォーム事業とうたっている。具体的にはメーカーが出すお題に対し、サービス内のコミュニティーにいるユーザーが、アイデア出しからプレゼン提案までする仕組みだ。
メーカーからのお題は「既存ブランドの新しい製品を作りたい」「自社の素材を活用して製品として販売したい」「近未来のソリューションコンセプト提案がほしい」など多岐にわたる。これまで文具メーカーのコクヨや、カメラでなじみ深いオリンパスなどがアイデアを募集している。
対してコミュニティーにいるユーザーは、フリーで活動する人や大学の講師、メーカーのデザイナーなど。なかには大手メーカーに勤める伝説的なデザイナーや、賞レースで勝ち続けた人もいるそうで、現在1万人ほどがコミュニティーに登録している。
エイスの代表取締役、山田 歩さんは「コミュニティーのレベルが非常に高いので、3DCGや試作品が高度で、かつ具体的なコンセプトアイデアが多い。数も1ヵ月で100~200案ほど出てくる」と話す。
人も技術もいいのに、素晴らしいプロダクトが出ない
エイスがWemakeを始めたのは、日本のモノづくりに疑問が出てきたからだという。
「日本でモノづくりに携わっている企業や人はたくさんいる。しかも、どれもいい技術で、優秀な方が多く素晴らしいと思う。でもそれが素晴らしいプロダクトになって結実しているかというと、自信を持って言える状況ではない」と山田さんは言う。
「リソースのひとつひとつは優秀なのに、それを生かすシステムがまったくできていない。また既存のメーカーのやり方だと難しいのではないかという問題意識があった。所属している企業にかかわらず、本当にいいものを作るということに注目して、プラットフォーム上で(技術や人を)募って支援活動できるようにしたい」という思いからサービスを始めたそうだ。
実際にサービスを運営し始めると、現状の商品開発プロセスに問題を感じているメーカーがたくさんいたようで、現在も問い合わせが多いという。中には執行役員から直接電話があり、「いますぐ始めたい」と言われることもあると話してくれた。
一方で、コミュニティーにいるクリエイターやデザイナー側にも問題意識があるようだ。
つくったモノが世に出るまで時間がかかるというジレンマ
先にも述べたが、コミュニティーには大手メーカーに勤める人もいるという。大手にいるならそこでモノづくりをすればいいのでは、と思うがそうもいかないらしい。
山田さんはコミュニティーに対して「まだあまり実現できていないが、(プロジェクトを)商品化して世の中に出してあげること」に注力しているという。
「商品化までのスパンが長いということは、コミュニティーにいる人たちも知っている。だが、そういう当たり前“以上のこと”を提供しないといけない。優れた作り手さんたちが定期的にWemakeに訪れて、いろいろなメーカーのプロジェクトに参加してもらえないと意味がない。Wemakeに投稿して次2年後でいいやとなってしまわないようにするためにも、たくさんのプロジェクトを動かして商品化の機会を増やすことが重要」と話す。
裏を返せば、メーカーでのモノづくりは商品化まで時間がかかるのが、当たり前になっているということになる。もしかしたら商品化されないこともあるかもしれない。そこに思うところがある人が、コミュニティーにいるのではないか。
つまり、商品を作るクリエイターやデザイナー側でも現状の開発プロセスに問題を感じており、そうした人たちにとって、お題があってモノを作り、短期間で実物が出てくるWemakeは理想の環境に近いのかもしれない。
もうひとつコミュニティーにとってアドバンテージになるのは、コンセプトが採用されたユーザーにはしっかりと収益分配がされること。プロジェクトごとに固定報酬かロイヤリティー報酬が最初に設定されており、ユーザーはWemakeが定めるプロジェクトの「貢献度」に沿った報酬を受け取れる。
コミュニティーのアイデアやコンセプトを、使い捨てにさせないシステムも好感度が高いのだろう。
では、実際Wemakeでどのようなプロジェクトが結実しているのだろうか。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります