3月末に国内発売が行なわれ、わずか2時間で売り切れとなったHTCのVRヘッドマウントディスプレー(HMD)「VIVE」用の周辺機器「Viveトラッカー」。そのViveトラッカーをいち早く実用に向け利用されているカプコンのVRアーケードゲーム「特撮体感VR 大怪獣カプドン」(以下、カプドン)を開発しているディレクターの中井実氏、生産技術室 室長 高木健嗣氏にViveトラッカーの使用感などについてお聞きした。(以下、敬称略)
思わず童心に返る面白さ
カプドンは、両手両足を使って街を破壊し、子供怪獣を助け出すというVRアーケードゲーム。取材時は、両足のサンダルに今回話題に上がったViveトラッカーを取り付けた状態でプレイさせてもらった。また、ビジュアル面は、店舗で稼働していたモノからライティング処理が追加され、建物などに陰影が付き、リアリティーが増していた。
建物に近づき両手両足を繰り出して破壊、足踏みをすれば地面に衝撃波が走って凹み、ヘリコプターや戦闘機を掴んで投げ、火の玉を放ったりと、怪獣になっていろいろできるのが面白い。そうした、カプドンのように動き回れるVRのコンテンツは、非現実的な体験をダイレクトに感じられ、実に爽快だ。
※「特撮体験VR 大怪獣カプドン」は、2017年4月18日(火)を持ち稼動を終了している。
Viveトラッカーを使ったカプドンのデモ動画
©CAPCOM CO., LTD. 2016 ALL RIGHTS RESERVED.
VIVEは歩き回れるのでアーケードに向いている
編集部 まず始めに御社の「カプドン」についてお聞きしたいと思います。現在、VRHMDはVIVE以外に、Oculus RiftやPlayStation VRなどがありますが、VIVEを選んだ理由はどこにあるのでしょうか。
中井 そうですね、アーケードでVRゲームをつくろうとした際に、家庭ではできないモノをつくらないと意味がないということで「歩き回りたいよね」という話になりました。VIVEは、Lighthouseと呼ばれる技術を採用し、とても高い精度でVRHMDを追従するため、歩き回っても酔わないんです。
高木 センシングできる点数が多いのもいいですね。トラッカーが発売される前は、中井がVIVEのコントローラーを2つ追加して両足にも取り付けていました。しかし、今後たとえばマルチプレイに対応するなど、ゲームをもっと良くするためには、さらに多くの位置検出が必要になります。そういった意味でも、Viveトラッカーが利用できるVIVEは、アーケードにとても向いていると思っています。
中井 あと、開発中は何度も確認と調整を繰り返すため、HMDをしっかり被らず、顔の前に当てるだけで作業をしているのですが、VIVEは頭に固定するバンドが柔らかい素材のため、顔に当てやすく、とても使いやすいんですよ。
高木 映像のクオリティーが高いのもいいですね。
中井 他社もアーケードの場合、VIVEが多いですよね。やはり、そこは多くの人が使いやすいということで支持を得ているからだと思います。HTCさんは、サポートもしっかりしてくれるので、今後も安心して使い続けられます。
高木 海外のアーケードのイベントでも、印象的には9割がVIVEを使っていましたね。HTCさんは、アーケードに関してとても積極的に活動されていますよね。Steamとは別に、アーケード用のコンテンツをロケーション側で選べる「Viveport Arcade」のテスト運用も3月に行われていて、我々も参加させてもらいましたが、世界中で本運営に移行されようとしているようです。
編集部 それは御社の施設以外でもカプドンが遊べるようになるということでしょうか。
高木 そうですね、今我々のカプドンも参加させてもらえないかというお話をさせてもらっているので、そのうち世界中でカプドンを遊んでもらえる日が来るのではないでしょうか。
編集部 なるほど。VIVEがプレイできるスペースがあれば、いろんなメーカーのゲームが遊べてしまうんですね。それは、非常に魅力的ですね。では、Viveトラッカーについては、どのような印象を持たれていらっしゃいますか?
Viveトラッカーは小型&軽量で複数接続できてスゴイ!
中井 以前は、両足のトラッキングにコントローラーを使っていました。しかし、Viveトラッカーは、コントローラーと比べるとコンパクトで、軽く、精度も非常によく、電池の持ちもいいというのが素晴らしい。また、数もつなげばつなぐほど増やせるんです。
高木 アーケードの場合は、ゲームによって操作方法が変わるので、たとえば銃型のコントローラーに付けたり、ほかのデバイスに付けたりと、付け替えがし易いというのも利点として大きいですね。
中井 今後実施するかどうかはわかりませんが、カプドンは最初尻尾の動きもトラッキングしようという案がありました。そのため、たとえば自分で振り回せるような“しなる”モノの先にViveトラッカーを付けておけば、尻尾で街を破壊するといったことも簡単に実現できるのではないでしょうか。
高木 Viveトラッカーを使って、いろいろ試されている動画なんかも、たくさんウェブにアップされ、盛り上がっているようです。
中井 私は、戦車にViveトラッカーを付けて、プロジェクションマッピングで映像を重ねて対戦を行なうという動画を見たことがあるのですが、そういったVR以外のすごく面白い使い方を考えられている人もいますね。また、今後さらに小型化すれば、もっと便利になりそうです。
高木 位置だけでなく、速度や加速度、向きも計測できるので、バッティングの判定などにも使えそうですね。
中井 また3つのViveトラッカーを全身に付ければモーションキャプチャーができるようになります。
編集部 全身に取り付けるというのは、どこに取り付けるのですか?
中井 頭はHMD、両手はコントローラーがすでにあるので、あとは両足と腰にトラッカーを付ければ、体全体のキャプチャーができるようになります。
編集部 それはスゴイですね。以前、センサーをたくさん付けた全身スーツを着て、モーションキャプチャーを行なっている人がいましたが、そんな大仰なスーツを着なくても、Viveトラッカーを複数付けるだけで、VRでダンスゲームなんかもできそうですね。
中井 そうですね。小型で持ち運びもしやすく、かつ十分な精度があり、簡単に着脱できるというのがスゴイです。弊社で使っているようなモーションキャプチャーの機材だと高価で使うのも大変ですが、VIVEのシステムだと、とても楽ですね。
VIVEのシステムはアーケード用と考えると安い!
編集部 PCと一緒に家庭で使うと考えると、VRを快適に使えるパソコン(15万円以上)に加え、VIVE(実売10万7800円前後)が必要となり、“高い”という印象を与えてしまいがちですが、アーケード開発に使っていた業務用の機材として考えると、とてもリーズナブルなのですね。
高木 そうですね、何をするかにもよりますが、アーケードでマシンを制作する際のデバイスは、100万円以上から、高いものなら1000万円近いものなども全然あります。そうしたコストと比較すれば、VIVEを使うコンテンツのトータルコストはとてつもなく安いです。
編集部 アーケードなど外出先の施設でVRを楽しむメリットというのは、どこにあるとお考えですか?
中井 そうですね、時代の流れもあるでしょうが、現状ハイエンドなVRHMDを使うには、そこそこ初期コストも高いですし、配線も大変なので、さすがにOLの方などが自宅で気軽に楽しむまでには至っていません。いずれは、もっと小型で簡単に遊べる時代が来るでしょうが、それまではVRが楽しめる施設に行って、何100円かで遊んでもらうのがいいと思います。
また、VRは複数人でワイワイ遊ぶのが、すごく面白いんですよ。そういった楽しみ方は、アーケードの強みなので、そこからVRが社会に浸透していって、手頃なハードウェアが普及していくと、皆が個人で所持するようになると考えています。
高木 やはり、大事なのは、いかに簡単にマルチで遊べるかということだと思っています。HMDは、無線化も近いうちに実現しそうですし、Viveトラッカーのようにマルチで認識できるデバイスを使って、無線ですべてできるようになれば、できることが各段に向上するでしょう。
中井 あとはそうですね、VRがSNS映えするようになれば、もっと盛り上がるのではないかと思っています。海外では、VRHMDを被っている部分の映像を実際の顔と合成できるようにする、という研究が進められています。確かに、被っている姿はサイバーすぎるので、その姿の画像がアップされて、女の子たちが「かわいい」とはならないでしょうから。何かしらのきっかけで、SNS上で「VR体験したよ」、というコメントが増えれば、もっと盛り上がるんじゃないでしょうか。
編集部 女性はVRHMDを被って、髪が乱れるのを気にされる方が多いような印象がありますね。
中井 その点、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)さんの「きゃりーゴーグル」は、よく考えられているなぁ~と思いましたね。もっと小型化され、おしゃれになれば、幅広い層の人に受け入れられるような気がしますね。
以前読んだ記事には、中国だとすでに1万店舗ほどVR施設があり、そのうち60%が女性客と書かれていました。女性は、面白いと知ってさえいれば、VRもどんどん体験するのでしょう。そのうち、髪型の乱れや見た目などは、自分たちで解決策を見出されるかもしれないですね。
中井 VRゲームの「Job Simulator」などは、自分のプレイした動画をYouTubeにアップして盛り上がったりしているので、アーケードのVRコンテンツも動画をアップしたりして発信していくことが、今後の盛り上がりにつながっていくのではないでしょうか。
台湾のVR施設Vive Landでは、MRのゲームを遊んだ後、その場でFacebookにプレイ動画をアップできたり、動画データをUSBなどに入れてもらえるサービスを行なっています。
高木 その動画をスマホなどで、簡単に視聴できるようになれば、「私も行ってみたい」という意欲につながるかもしれませんね。
編集部 カプドン以外のVRコンテンツの制作については、どうお考えでしょうか。
中井 今回はカプドンを開発しましたが、次は全く別のVRゲームを開発するべきだと考えています。カプドンは両手両足を使ったVRゲームが、あまりなかったので開発しました。知見やノウハウを得るため、またユーザーの楽しみのために、次も全く新しいVRゲームを開発すべきと考えています。
編集部 カプドンでは、他のVRコンテンツにはない、シンプルながら爽快な体験をさせてもらいました。次に御社が考える、他社にはないVRコンテンツにも期待しています。本日はありがとうございました。
VRで認識し、正確に位置検出するデバイスは、従来はワンオフの製品のみだった。そんななか、Viveトラッカーがその位置検出を容易にし、簡略化できるようにした功績はとても大きい。Viveトラッカーは、複数認識させて使うことができるため、その利点を生かしたコンテンツが多数登場するものと思われる。今後、登場するVRコンテンツにも大いに期待したい。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう