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AI新表現、過激な自動運転、そして日本勢の存在感も増すSXSW 2017

1000以上の中から識者が選ぶSXSW本当にスゴいセッション

 2017年3月21日に開催されたIoT/ハードウェアのスタートアップ・キーマンが集う体験展示+カンファレンスイベント「IoT&H/W BIZ DAY 3 by ASCII STARTUP」。当日最後のセッションEでは「サウスバイサウスウエストInteractive最速現地レポート」を実施。世界最大規模のスタートアップイベントの報告会として盛り上がったセッションをレポートする。

セッション登壇者。右からモデレーターの西村洋氏、500 Startups Japanの澤山陽平氏、KDDI総合研究所の帆足啓一郎氏、クラウドファンディング「きびだんご」の代表松崎良太氏、ASCII STARTUPの北島幹雄となる

人工知能の表情表現、りんなちゃんが映像ディレクション
SXSWで知る驚きのAIプロジェクト

 サウス・バイ・サウスウエストとは、3月にアメリカのオースティンで開催される大規模イベントだ。South by Southwestを略してSXSWと書かれることも多い。80年代に音楽祭(Music)としてスタートしたが、90年代は映画祭(Film)も巻き込み、さらに98年からはネット関連のスタートアップが参加(Interactive)するようになった。過去には、TwitterやPinterest、Airbnbも参加しており、注目度は抜群。現在では、期間中に数万人が集まるイベントになっており、オースティンの町中が会場となり、Interactiveの開催期間中は大規模な展示会であるトレードショーや膨大な数のセッション、ミートアップ、ピッチなどが各所で開催されている。

SXSWのウェブサイト。2017年は3月10日~19日に開催、2018年は3月9日~18日に開催予定だ

 SXSW Interactiveではセッションイベントが1000個以上開催されている。その中から、それぞれの参加者の印象に残ったものを紹介してもらった。まずは、KDDI総合研究所の帆足氏から。

 「SXSWへの参加の社内稟議は、AIなどのコア技術の今後の動向について調査しに行きます、という体で通しました。会社にも報告するので割とまじめなセッションを中心に聴講しましたが、そちらはあまり個人的に面白くなくて(笑)。やっぱり面白いのは、AI領域であっても自分のまったく知らないような世界ですね」(帆足氏)

 スライドに表示されたのは、赤ちゃんの写真。これ、実はCGのアバターで、ニュージーランドのSoul Machinesという企業のライブデモだと言う。このセッションでは、人工知能にリアルな表情を表現させるプロジェクトについて語られたそう。

Soul Machinesの赤ちゃんのアバター

 「医療系の研究機関からスピンアウトした企業で、リアルな表情をどう生成するかとか、顔の筋肉のモデルやその筋肉を動かす脳細胞のモデルをそれぞれニューラルネットワークでモデル化しているという講演なんです。実際に、ウェブカメラ越しにCGの赤ちゃんをあやすと笑い出して、カメラに映らなくなると寂しがってぐずり出すんです。リアルな反応で、すごいデモでした」(帆足氏)

 もうひとつ、紹介されたのが「Can a Film Made by a Machine Move You?」というスライド。これは、Zoic Studiosという制作者集団が手がけた、AIが映像コンテンツを人間の指示なしでどこまで作れるかという試みだ。ポップスの楽曲の解釈から、動画のコンセプトを作り、俳優を探して、撮影して、編集するといった過程をすべて機械任せにしているという。

Zoic Studiosの全自動動画作成プロジェクト

 歌詞はIBM WatsonのTone Analyzer(感情分析ツール)に入力して、喜怒哀楽の起伏をモデル化。歌っている歌手にも脳波センサーを付けてもらい、感情の推移を見る。次に、シーンごとに合わせてどういう映像を撮るべきかというのを、なんと日本マイクロソフトの女子高生AIりんなちゃんに聞く。「主人公は男性ですか女性ですか、どういうのを着てますか、好きな食べ物はなんですか」という質問をして返答を受け取る。続いては俳優のオーディション。俳優ひとりひとりに脳波センサーを付けて、歌ってる人と同じような感情のシンクロをする人を選ぶ。撮影もドローンにカメラを載せて行なう。

 「オーディションでは、機械と人間の監督が同じ判断をしたそうです。被写体との距離感も含めて自動で撮影して、動画を一晩で1000個生成して、1番いいやつを選んだのがこれ。制作者サイドでは5段階で3くらいの完成度と言っていましたが、素人目にはぜんぜんいけると感じました」(帆足氏)

住めるコンテナハウスのスタートアップ、刺激的なDIY自動運転Comma.ai

 続いて澤山氏が「SXSWのような場所でしか出会えないと思った」というのが、カシータ(KASITA)というベンチャーだ。

 「新しい家を作ってるベンチャーですね。コンテナというかトレーラーハウスっぽい感じなんですけど、一番大きなポイントは、あくまでレジデンシャルという点だと言います。従来、家っていうのを資産だっていう考えでしたが、ここのCEOは家はプロダクトであると位置づけています。トレーラーハウスではなくて、地面についていて電気ガス水道が通っている実居住用途での提案なんです。普通の家と違うのは、2~3日で設置できてしまう点。価格は14万ドルくらい」(澤山氏)

 帆足氏もこのセッションを聴講していた。通常、セッションは1時間程度なのだが、KASITAのCEOであるJeff Wilson氏は40分くらいで切り上げてしまい、「会場から10分くらいのところに家があるので見に行こう」と言い出したそう。そして、実際に興味のある人たちが、ぞろぞろとついて行ったのだ。これはちょっとほかのイベントでは聞かないユニークなエピソードと言える。

KASITAが提案する新しい家

 「私は5回目の参加なんですけど、セッションを選ぶときはいくつかの基準で選んでいます」と澤山氏。

 「1つは、僕がその時追いかけているテーマです。今はバイオが盛り上がっていますが、ニッチなカテゴリーでも、探せば絶対あるんです。たとえばこのスライドの人、元気そうに見えますが、2年半前くらいにステージ4の膵臓癌になりました」(澤山氏)

 スライドに映っているのはBRYCE OLSON氏。痩せてはいるが「Sequence Me」と書かれたTシャツを着た元気そうな男性だ。すい臓癌のステージ4は5年生存率が3~11%と、快復は非常に困難な病気の進行度となる。しかし、彼は自分の癌をフルゲノム解析した。そしてその結果から、そのタイプに効く薬がちょうど治験を行なっていることを調べ、試したところ、治ったという。

 「Precision Medicineと言って、自分の病気に対して完全に適合する抗がん剤だったり薬を利用する治療法です。彼はこうした治療を広めるための活動をしています。実際にそれで生き延びているという人が目の前にいるというのが驚きでした」(澤山氏)

ステージ4のすい臓癌から寛解したBRYCE OLSON氏

 もうひとつ、澤山氏が選ぶのが有名人、つまりその時もっともホットな人物だという。現在、大手自動車メーカーやテスラなどの企業は多額の資金を使って自動運転車の開発を進めている。そんな中、Comma.aiのGeorge Hotz氏はほぼ独力で自動運転車を開発してしまった。今年もっとも注目されている人物のひとりと言っていいだろう。

 「彼はほぼひとりでプログラムを書き、自分の車を自動運転車にしてしまったんです。超天才ハッカーですね。しゃべり口もハッカーというかギークというか、超早口でブラックジョークだらけ」(澤山氏)

George Hotz氏

 自動運転車が事故を起こしたらどうするのか、というのは議論になっているが、そこはスタートアップらしくばっさりと切ったのがGeorge Hotz氏だと言う。「それは保険の問題だ」と。また、交通事故ゼロは不可能だが、人間と同じ確率、つまり10万マイルごとに事故を起こすくらいを目指せば十分ではないか、という。

 「半分ジョークだと思うんですが、自動運転している時にタコベルのCMを流し、CMが終わったらタコベルに自動運転で行く、というボタンを表示するというビジネスモデルを発表していました。どこまで本気かはわかりませんが(笑)」(澤山氏)

Comma.aiのプランはシンプル。とにかくデータを集め(Get Big Data)、そのデータを元にいろんなネットワークを作り(Own the network)、金を稼ぐ(Be rich)

 クラウドファンディング「きびだんご」の代表松崎良太氏は、テクノロジー系だけでなく、ジャーナリズムやメディアのセッションも追いかけた。ビデオジャーナリスト達が、特ダネを撮影する際の画面の比率は縦長がいいのか、横長がいいのか。正解は正方形なのではないか、と言うような話をしていたという。

 「トランプ後の初めてのSXSWということで、SXSWらしいリベラルな議論いたるところで展開されていて面白かったです。トランプに記者会見からBANされたことで物議をかもしたニューヨークタイムズの編集長が、『自分たちはトランプと闘おうとしているのではなくて、真実を伝えようとしているだけだ』といった話をしていました」(松崎氏)

 昨年のSXSWではカーシェアサービスのUBERが大活躍した。しかし、今年はUBERもLyftもなくなっている。実は昨年、一悶着の末にオースティンの町から撤退したのだ。

 「UBERでいろいろ犯罪が起こり、ドライバーの指紋登録をしなければいけない、となったがUBER側が拒否。UBERは指紋登録の義務化を覆すべく法改正を提案、そこで多額の資金を投下しお涙ちょうだいのCMを打ったが、逆に市民は冷めて、こんな会社とは付き合えないとなりました。そして、UBERは正式に撤退したのですが、これを振り返りUBERなきあとのシェアリングエコノミーについて語ったのが面白かったです。UBERはユーザーとドライバーを味方にできたが、コミュニティーを味方にすることができなかった。コミュニティーという新しい視点がサービスを作る上で大事なんだよね、という論点が新鮮でした」(松崎氏)

UBERが撤退した後のライドシェアアプリのスタートアップ

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