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男の育休 意外な失敗

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

 水曜の朝ですね、おはようございます。家電アスキーの盛田 諒(34)です。育休コラム連載「男子育休に入る」、1〜2回は出産話で育休に入りませんでしたが、ついに休業の話を始めます。テーマは失敗とケンカ。いきなりダークサイドですね。

 もちろん「妻と子と毎日ずっと一緒にいられるので楽しいです!育休取って本当によかった!」といったライトサイドもあるのですが、裏を返せばかつてないほど家族と一緒にいる時間が長いわけで、そのぶんケンカの理由も増えるわけです。鬼門は初めの一週間でした。赤ちゃんが理由のわからない”夕方泣き”をはじめる生後三週目は「魔の三週目」と呼ばれるそうですが、育休においては「魔の一週目」でした。ケンカの理由となった失敗は、自分では予想していなかったところに発端がありました。いい夫であろうとしたことです。自分の中にいるいい夫が完璧な家事を求めるほど目の光が消え、殺気が放たれ、みるみるダークサイドへと落ちていきました。

●頭の中の産科医がささやく

 育休を取った男に何ができるかというと、授乳以外のすべてです。

 産後6〜8週間の女性は産褥期に入り、体力が落ち、感染症や病気にかかりやすくなります。家事・外出を控えるのはもちろん、1ヵ月間はお風呂にも入れなくなります。そこで掃除・洗濯・買物・料理などハウスキーピングが男性の主な業務となります。赤ちゃんのおむつ替え・ミルク・お風呂といった赤ちゃん関係の仕事も加わりますがここは妻と協業できます。代わりに夜間の授乳とおむつ替えは妻におまかせでした。(たまに泣き声で起きておむつ替え・ミルクなどの仕事もしていましたが)

 家事がそれなりに好きなこともあり、掃除・洗濯・料理くらいなら簡単ですねと甘く見ていたのが当時のわたしでした。実際いつもどおりにやっていれば何も問題はなかったのだと思います。しかし産後という特別なシチュエーションでわたしのネジは飛んでいきました。きっかけは人気産科医が監修したレシピ本「産後ごはん」です(現在は絶版)。実際に産院の食堂で出される料理をもとにしたもので、本そのものは何も問題ありません。しかし友達から本をもらってきた妻が何気なく送ってくれた「ごはん革命だね!」という他愛もないLINEが呪文となり、わたしは革命の徒と化しました。

 育休初日の午後、洗濯・掃除を終えたあと、レシピ本を鵜呑みにしたわたしはスーパーで2日分の食材を買いました。さわらのような旬の高級魚がさらりと入っていたこともあり合計金額は8000円超に。レジの数字を見て一瞬目を疑いましたが、頭の中の産科医が「迷わず買いなさい!母親はたくさんの食材を少しずつとるのが大事なんです!母子の健康が一番!」と言ってくるので、ためらいなく1万円札をとりだしました(※レシピ集の名誉のために言いますが、監修者の先生と頭の中の産科医は無関係です)。この時点であきらかに何かが狂っているのですが、当時のわたしは「母子の健康が一番!母子の健康が一番!」とひたすらくりかえす頭の中の産科医を盲信。巨額すぎる出費は「革命に必要な投資」という言葉にすりかえられました。両腕がもげそうなほど重いビニール袋はわたしを反省させるどころかむしろ高揚させ「これぞ夫の役割!」と中身のない充実感を抱かせるに至ります。家に着くころには両手の感覚も失われ、店でもひらくのかというほど山ほどの食材は冷蔵庫におさまりきらずあふれますが、わたしは幸福の頂点に立っています。いっそ「キン肉マン」アシュラマン戦のテリーマンのように両腕をもがれてしまいたい。そうなればわたしは母子の健康に献身的に振る舞った革命家として栄誉に預かれる!

 夕食前には沐浴、お風呂の時間がありますが、頭の中の産科医は「早く健康食を!早く健康食を!」と急かします。「そうですね!」とわたしも応じます。息を整える間もなく「さあさあ沐浴しましょうね!」と妻を急かし、赤ちゃんをバッ!と取りあげるようにしてお風呂に入れます。赤ちゃんは家に来てから初めてのお風呂なので怖がってオニャー!と号泣。妻もたまらなく不安そうにしていますが、わたしはそれより早く健康食を作らなければならない。食器を洗う勢いで全身の洗浄を終えオニャー!と泣いているまま短肌着・コンビ肌着・カバーオールを着せたら処置終了!「初めての沐浴が終わっちゃった……」と妻がさみしそうに言っていますが気にしません。「ごはんすぐできますよ!」とはりきります。レシピそのものはとても簡単ですが品数が多いため狭いキッチンはごちゃごちゃになり、ザルやボウルがたびたびぶつかりガンガン高い音を立てはじめます。

 「バタバタしないで!」「こわい!」

 妻が怖がって悲鳴をあげますが、わたしはアハハハと高らかに笑い、「大丈夫!もうちょっとで革命が起きるから!」と言って取り合いません。

 結果、90分程度で夕食、朝食、昼食、3食分の準備を終えました。数日分のつくりおきもできました。テーブルにちょこちょこたくさん小皿で並んでいる食事を見ると充実感がありました。味はいかにも病院食という感じでしたが、なにより「妻が自分のつくった健康食を食べている」という事実がわたしを高揚させます。革命だ!これで母子ともに健康でいられる!頭の中の産科医も「いいですね!食材をひとつでも多く使いなさい!」と満足そうにうなずきます。その後わたしは食べ終えた食器が一皿でも出ればすぐ片づけをはじめ、まだ妻はシャワーしか浴びられないのにお風呂のタイルをごしごし洗い、猛烈な勢いで家事をこなしていきました。

●ハウスキーパーはいらない

 万事がそんな調子でした。反復横飛びをくりかえすような勢いで家事をこなし、合間に赤ちゃんを観察し、においをかぎ、フランスの発達心理学者ジャック・ヴォークレールの著書『乳幼児の発達─運動・知覚・認知』をもとに軽い刺激を与えて反応を見るなど簡単なスキンシップをとる日々が続きます。一方、自分に課す家事のルールは日に日に厳しくなっていきました。料理は三食かならず一汁三菜!なるべく前の食事とかぶらないように!掃除するときは床の隅まできれいに!布団や洗濯物は赤ちゃんが鼻づまりを起こさないようハウスダストを除去して!ルールに追いつめられていくわたしの姿に妻が「こわい!」「いつもどおりでいてほしい!」としくしく泣いているのを見ても反省することはありません。「ああ〜脳内物質やホルモンの分泌量が変わることで産後に感情の起伏が大きくなるというのはこれか〜」と感心し、日記に泣き方の詳細を記録。わたしは「いまはまだ革命が始まったばかりだから……」などと答えていましたが、当然というべきか妻は「わたしがLINEで言ったからっていうわけ!?イヤミ!?」と泣きながら怒っていました。

 革命が終わりを迎えたのは一週間後です。きっかけはささいなことでした。おむつの変え方だったか、泣いている赤ちゃんのあやし方だったか、何かがきっかけでわたしは妻に厳しくあたられることに悲しくなり、不条理に感じてケンカになりました。どうしてこんなにがんばっているのにわたしはつらく当たられなければならないのか。本気でそう思っていました。

 「ハウスキーパーはいらないの、わたしはパートナーがほしいの!」

 妻の言葉がすべてをあらわしていたと思います。

 その後二日間まったく会話をしなくなったあと、三日目から少しずつ仲直りをしました。妻にわたしのよかったところは何かたずねてみると、

 「赤ちゃんに話しかけてくれていたところ」

 という答えが返ってきました。まったく予想していなかったので驚かされました。

 たしかにわたしは「はるさんおむつ変えますね」「はるさんおもしろい顔ですね」「はるさんそろそろお風呂の時間ですよ」など赤ちゃん(はるさん)にこまめに声をかけるようにしています。それは以前に妻が「介護士のママさんが赤ちゃんに話しかけながらおむつを替えてたんだけど、話しかけてから行動するとびっくりしないんだって」と教えてくれたことに感心してならっていただけです。それでも実際、赤ちゃんに話しかけているときはわたしも気分がよく、妻も機嫌よく笑っていてくれた気がします。

 そこからわたしは少しずつ家事の手抜きをはじめ、自分の異常さに少しずつ気づきはじめました。最初の一週間で食費の3分の2を使ってしまっていたことに気づき愕然としました。目が曇っていたため何も見えていなかったと言うべきです。

●本当の革命は生活態度をあらためること

 あらためて、育休でいちばん大事にすべきは家族でともにすごせる時間です。

 当時わたしが目指していたのはいい夫ではなく、完璧なメイドロボットであり家事ができるPepperでした。しかし本来家事なんて優先順位は二の次、三の次です。もちろんできるに越したことはないですが、やりすぎた努力はお菓子の過剰包装のようなものです。望まれない自己犠牲は自信のなさを覆い隠すための自己満足でしかありません。

 育休をとられる男性の中には、わたしのように「妻のために」という言い分を盾にいらない努力をしてしまう人もいるのではないかと思います。特にふだん家事をしていない男性ほどがんばりすぎてしまいそうな気がします。特に料理には苦労させられると思います。毎日献立を考え、予算どおりに買い物をして、短時間でおいしい料理を作るには経験が必要です。しかし家事育児でいちばん大切なのは経験よりも、等身大の生活だと今では思います。いかに手抜きするかを考え、やらなくてもいい家事を決めていく。一汁一菜でも一品に食材をたくさん入れればいい、毎回きれいにテーブルを拭かなくてもいいと考えることこそが本当の革命だと思います。

 頭の中の産科医や、頭の中のいい夫が言ってくることは自分が勝手につくりだした幻にすぎません。雑誌やウェブ、ママ友などから聞こえてくる話もおなじことだと思います。目の前にいる家族の顔を見て幸せになれる方法を考えるのが一番なのではないかと思います。自らの総括に学び、革命の徒として心をあらためてがんばっていきたい所存です。

 次回は家電アスキーらしく「産後に本気で役立った家電」をご紹介します。お楽しみに。

★育休男子・1日の流れ(例)
07:00 起床、洗濯、ゴミ出し、食器片づけ
08:00 朝食準備
09:00 朝食、食器洗い、洗濯物干し
10:00 掃除
11:00 昼食準備
12:00 昼食、食器洗い
13:00-14:00 自由時間
15:00 買い出し
16:00 沐浴(赤ちゃんのお風呂)、沐浴片づけ
17:00 洗濯物取り込み、食器片づけ、夕食準備
18:00 夕食、食器洗い
19:00 お風呂準備
20:00 お風呂
21:00-23:00 自由時間
24:00 就寝



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味のカジメン。パパに進化しました。3月1日から4月26日まで育休中。Facebookでおたより募集中

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