チャネル拡大の目的でアクセラレータプログラムに参加
秘めたアイデアと大企業のリソース活用し新たなソリューションを創造:スタディスト
スタートアップと大企業である富士通をつなぐ富士通アクセラレータプログラム。富士通の持つリソースとスタートアップが持つ知見はどのようにミックスされていくのだろうか。かつて、プログラムに参加し、現在も事業化のための実証実験を続けているというベンチャーに話を伺った。
大企業とのコラボレーションはうまくいかないと思っていた
スタディストは画像・動画ベースでのマニュアル作成・共有ができるソリューション「Teachme Biz」を提供するベンチャーだ。事業に最適な企業マニュアルを作成することで、事業の効率化や業務改善ができることで、高い評価を集めている。
同社は目下、「ありがたいことに本業である『Teachme Biz』の開発の手が足りていない状況」だと、代表取締役の鈴木悟史氏は語る。そのようなグロースフェーズにあるスタディストだが、どうして富士通アクセラレータプログラムに参加したのだろうか。
「元々、VCの方に『出てみませんか』って紹介されたのです。実は、初めは大手の企業とのコラボレーションって、うまくいかないから断ろうと思っていました。ただ、富士通さんが持っている、IoTプラットフォームやセンサー技術について調べてみるとちょっとおもしろい。私たちが作っているマニュアルも、単なる静的なツールで終わるつもりはなかったので、それらと連動させることで、何か新しい価値をお客様に提供できないかと考えたのがきっかけです」
じつはこれまでも、Beaconなどと、Teachme Bizを連動させるといったソフトウェアだけでない分野に同社は取り組んでいた。Beaconにタブレットなどをかざしたら、機器の取扱説明書が出てくる仕組みなどだ。しかし、富士通の持つプラットフォームやテクノロジーと組めば、さらにその先に行けるような気がしたという。
当初はそんなぼんやりしたイメージを持って、まずは話を聞いてみようと1次面接に赴いた鈴木氏。そのときは、富士通の製品の取扱説明書を、Teachme Bizなどのスタディストのサービスに載せたらいろんなことができるのでは……といった、プログラム参加というより営業的な意識をもっていたと鈴木氏は回想する。しかし、面接で出会った富士通の担当部長と馬が合った。
「最初の面接では、IoT部門の部長さんとお会いして話したのです。こんなこともできるし、あんなこともできますねって。こちらからもいろいろ提案しましたが、富士通さんからも『こんなことできるよ』だったり、『あそこの事業部を連れてきたらできるな』って、ポジティブな話ができました。そのときに『この人とだったら、けっこうおもしろいことができるんじゃないか』と感じたので、では話を進めましょうか、と参加することにしました」
そして参加した第2期富士通アクセラレータプログラム。スタディストは富士通のIoT関連の事業部と組み、対象機器にスマートフォンをかざすだけで、必要なマニュアルが表示される「かざしてトリセツ」を提案。プログラム最後に開催されるピッチコンテストで優秀賞を得た。
「私たちはマニュアルに特化しています。それだけに集中しているのです。富士通さんは総合力がある。特化しているものと総合力が組むことで、新しい価値が作れたと考えています」
事業部との協業がスタート
アクセラレータプログラムで開発した「かざしてトリセツ」は優秀賞を授与されるなど、高く評価された。そこで協業検討から、実際の事業化に向けた開発に向かう。鈴木氏によると、現在はある程度の開発が進み、実証実験を進めているところだという。しかし、ここまでにもいくつもの課題があった。その1つが開発のリソースだ。
スタディストは、自社製品であるTeachme Bizのセールスが順調に伸びており、富士通との協業に割けるリソースが限られる状況が続いた。
協業検討のなかで、富士通のシステムとTeachme Biz連携させることは決まっており、連動用のAPIの開発やインターフェースを増やす必要があった。これらは富士通側ではできず、スタディスト側が開発する必要がある案件だ。
「僕も夢を考えるのが好きなのでやりたい。しかし、開発部門としては目の前にある課題を解決して、売り上げにつながるものに投資したいという思いがある。そのせめぎ合いはありました」
やりくりの難しさを意識しつつも、ベンチャーと大企業の壁を乗り越え、新事業の開発は進んでいる。
そして現在、スタディストでは富士通とさらにもう一社と組み、3社で事業化に向けた実証実験をスタートしているという。この事業提案も、鈴木氏によるアイデアだ。
「今、3社で実験を始めています。もう1社というのは、ある老舗の大きな会社です。富士通さんとわれわれというのは、ソリューションを持っている会社。その組んでいる1社は、ある業界では、いろんなお客様とつながりを持って、運営を委託されている会社です」
未発表の案件なので現段階では詳しくは語れないが、富士通のIoTプラットフォームと、スタディストの持つマニュアルを組み合わせ、ある企業と組んでテストを実施しているという。「現在、慎重に慎重を重ねて実証試験をやっている段階です。すでに5ヵ月以上テストしていますね」
この実証実験の段階でも、鈴木氏は富士通と組んだことによるメリットを感じているという。たとえば、同様のシステムを富士通以外と組んだ場合、センサーやシステムなど、マニュアル以外の部分にもリソースが必要となる。しかし、ベンチャーにはそこまでの体力はない。しかし富士通なら、ハードウェアからシステムまで、スタートアップが不得意とするところはすべて手がけられるのだ。
「現場の設置やセンサーのアップデートなど、私たちはセンサーやマニュアル以外のシステムなどはいっさい手を出していません。そこはおまかせしています。そして、保守の部分のところももう1社に任せています。そもそもが私たちと富士通さんだけでもダメなのです。販売チャネルを持っているところと組むことで、みんながWinになる」
3社目の協力会社はTeachme Bizを導入している企業で、鈴木氏は以前よりさまざまな助言をもらっていたという。しかし、だからといって簡単に実証試験ができるわけではない。富士通という信頼性もそこにはあると鈴木氏は語る。
現在開発中のシステムについては、まだ、販売価格や戦略については最終的な詰めには至っていないという。鈴木氏としては、販売は第三者に任せ、スタディストのTeachme Bizも富士通のセンサーやシステムも一緒に売れていくような、そんな仕組み作りを考えているという。
顧客を持ち、販売できる協業パートナーの助力を得た形での3社協業を自ら提案するなど、スタートアップ側が富士通をリードする形で協業の形を模索している。それがスタディストの協業成功に近づいている理由といえそうだ。
「スタディスト×富士通アクセラレータプログラム」のケースまとめ
・スタートアップ創業者が持っていた第2次展開のアイデアを昇華させるプラットホームが大手側にあった
・スタートアップの事業コアを一方的に大手が受けるわけではない、スタートアップから第三者企業を巻き込んでの逆提案型ビジネス拡張を実現
・スタートアップが持たない部分を大手がサポートすることでメリットやスピード感が合致した
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