週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

失敗経験者こそ、日本における未活用資源 再チャレンジ特化型ファンド

2017年03月30日 07時00分更新

 こんにちは、一般社団法人MAKOTOの竹井です。今回は、私たちが取り組んでいる経営者の再チャレンジ支援について、ご紹介します。

 日本は、1度でも会社経営に失敗すると再チャレンジが難しい社会だと言われてしまっています。起業に対する注目度が上がり、国内の起業環境は急速に整備されつつありますが、倒産などをした起業家の置かれている状況は未だ厳しい! 銀行借入が困難なため、再チャレンジすることが非常に難しく、生活再建さえ支障のあるケースもあります。「事業再挑戦に関する実態調査」※1は、再チャレンジ時の資金調達の難しさを示しています。

※1 (社)中小企業研究所「事業再挑戦に関する実態調査」(2002年)

 親族からの出資・借入41.3%、友人・知人などからの借入30%に対し、金融機関からの借入は政府系および民間金融機関を合わせてもわずか1.3%です。仮に、自力での再チャレンジが成功しても、軌道に乗り始めた新しい事業に対し、過去の失敗経験や残債があることが原因で融資を得られず、成長資金の獲得に苦労しているケースもあります。

 日本では“経営者保証”のために個人が負う責任も非常に重く、再起業を困難にする要因となっているのが現状です。実際、米国では再起業希望者の約50%が再起を果たしていますが、日本はその半分にも満たない水準に留まっています。日本における起業率はただでさえ低く、経営を担える人材が少ない状況ですので、再チャレンジの仕組みを日本につくることは重要です。

日本初の失敗経験者特化ファンド

 このような考えから、私たちは福島銀行とともに経営者の再チャレンジ支援に特化した“日本初”のファンドをつくりました! その名も“福活ファンド”。「失敗経験者こそ、日本における未活用資源」だと捉え、全国から再チャレンジしたい起業家を福島県に誘致し、その中からレベルの高い起業家を支援することで、強い事業を創出することを目指しています。

倒産時の経営者は孤立している

 スタート時には、このファンドに本当に応募が来るのか不安もありましたが、2015年8月にファンドを設立して以来、全国から100人を超える再起を目指す経営者の方々から応募をいただきました。

 私たちは、応募者の方々とお会いし、経営危機や倒産や自己破産をした状況についてお話を伺っています。ある応募者A氏は、「もう終わりだと思ったとき、どこに相談に行ったらいいかもわからない。清算手続きをするにもお金が必要だと言われても払えない人もいる。創業時に会社のつくり方を教えてくれるところは沢山あるが、会社の倒産時に相談できるところは本当に少ない」とおっしゃっていました。また別の応募者B氏からは「経営に失敗すると周囲から人格否定的な責めも受け、自分の存在意義を見いだせない、どん底の状態だった。このファンドの存在は、涙が出るほど嬉しい。ここで終わりではない。次がある。という希望を感じた! ありがとう」という言葉も頂きました。

 倒産時の経営者は、本当に孤立状態になってしまいます。私たちとしては、このファンドを通じて再チャレンジを目指す方々の希望となれれば、こんなうれしい事はないと思っています。

二度目の起業経験が持つ強み

 再チャレンジ経営者には素晴らしい面があります。私たちは「福活ファンド」の投資活動を通して、再チャレンジ経営者が持つ強さを実感しています。それは「事業分野に関する経験とノウハウ」「人脈」「失敗経験を踏まえた分析・事業戦略」そして「必死の覚悟」です。お会いする経営者が必ず口にすることは、「失敗者のままでは終わりたくない」という強い意志です。

 実際に、福活ファンドの第1号投資先である株式会社とことん 代表取締役の荒井氏も、家族や知人の支援を受けて再起を図り、会社経営の傍らタクシーの運転手をしながら粘り強く製品の研究開発を続けていました。再チャレンジ経営者は、むしろ業績が良いというデータもあります。金融機関が実施した再起業に関する実態調査※2では、3ヵ月以内で黒字基調になった企業は、新規企業では全体の34.1%に対し、2度目の起業では54.4%と事業の立ち上がりの早さが伺えます。適正に経営者や事業に対する評価を行ない、ハンズオン型で経営者をサポートし、事業進捗に応じた資金提供や調達支援を行なっていくことで、1度目、2度目に関わらず起業家が事業成長できると私たちは考えています。

※2 国民生活金融公庫研究所「『2度目の開業』に関する実態調査」(2001年11月)

 アメリカでは失敗した起業家には、「ナイストライ!」と声を掛けるそうですが、日本でも、過去の失敗を前向きに評価し、再チャレンジしやすい環境や文化を創っていきたいと思っています。そうすれば、勇気をもって1度目の起業にチャレンジする人自体もどんどん増えていくのではないでしょうか。失敗を怖れずチャレンジができる社会をつくることによって、日本全体の雰囲気も前向きに変えて行くことができる。そう私たちは信じています。

■関連サイト

竹井智宏(一般社団法人MAKOTO代表理事)

著者近影 竹井智宏

1974年生まれ。東北大学生命科学研究科博士課程卒。2011年7月東日本大震災を契機に一般社団法人MAKOTOを設立。同月、米国カウフマン財団のカウフマンフェローに選出される。東北の起業家支援に力を入れ、日本初の再チャレンジ特化型ファンド「福活ファンド」を組成し、起業家の投資育成活動を展開。起業環境作りとしては、世界の若手起業家約12000人でつくる「EO(アントレプレナーズ・オーガニゼーション)」の東北支部「EO東北」の立上げに尽力。2015年、日本ベンチャーキャピタル協会より「地方創生賞」を受賞。2016年、日本財団より、日本で10人の「ソーシャルイノベーター」に選出。東北大学特任准教授(客員)。

●お知らせ
 失敗を経験した経営者の再起支援に特化した“福活ファンド”では、福島県で再チャレンジしたい経営者を募集中です。これから再起業を目指す方、既に再起済みで事業成長を目指す方を対象としています。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事