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転換期の飲食店ビジネスモデル「紙に勝つ」変革志すトレタ

2017年03月03日 09時00分更新

現状維持バイアスが抵抗を続ける業界

 海外での展開も含めて、高い需要があるトレタだが、記事冒頭の中村氏の発言にもあるように、じつは9割の飲食店はアナログなままだ。その原因は、仕事の仕方を変えたくないという「現状維持バイアス」にあると中村氏は語る。

 「変えたくないという現状維持バイアスはトップと現場、それぞれにあるので4つのパターンに分けられる。"トップが変えたい、現場が変わりたくない"。逆に"トップが変わりたくない、現場は変わりたい"パターン。"トップ、現場ともに変わりたくない"、"トップ、現場ともに変わりたい"。しかし両方とも、やろうやろうと進むのはまれ。これらはまずない。いまだにもっとも多いのがトップも現場も変わりたくないというパターン。

 これらを突破するには、トップと現場への別々のメッセージが必要。トップには売上アップやコストダウンなどの経営メリットを伝えれば良いのでわかりやすいが、現場はそれでは動かない。会社が儲かっても必ずしも自分たちの給与が増えるわけでもないと考えるからだ。そこで大切にしているのが『トレタを入れると仕事が楽になりますよ』『トレタを入れると仕事が楽しくなりますよ』というメッセージだ。いままで毎日3時間かけていた予約管理が15分にできる。現実的に終電で帰れていないような環境であったとしても、トレタを使えば作業時間を圧縮して終電で帰れる。お客様の情報がきちんと管理されていれば、もっとお客様に喜んでもらえる接客ができるようになって、それはお客様からの「ありがとう」という言葉を増やすことにもなる。こういう現場メリットを具体的に伝えることが必要だと考えている」(中村氏)

 トレタは、2015年からテクノロジーの進化と外食産業が今後とるべき進路について考える『FOODiT TOKYO(フーディット東京 )』というイベントを主催している。「外食産業の未来が生まれる場所を作ろう」という趣旨で、中村氏の主導で始められたものだ。

 「私たちの業界には啓蒙が必要。だからフーディットを開いている。フーディットに来るようなITに前向きなリテラシーが高い経営者に接すると、来場者全体にそれが波及していって、業界の目線も変わるはず」

 テクノロジーの話をすると『いやぁ、うちはアナログな会社なんで、こういうの全然ダメなんですよ』と笑いながら言う経営者がいるが、それではこの先は厳しくなるだけだと中村氏は重く指摘する。「アナログだから、というのはある種のエクスキューズ。自虐的な言い方をして笑い話にしているけれど、それは結局、経営者自身が現状維持バイアスにとらわれて変化に消極的であることの表明である場合が多い。そしてそれが80年代から30年間続いてきたことで、今のアナログ一辺倒の飲食業界が形成されてしまった。でもそれが通用していたのは2~3年前までで、飲食業界の現状や将来を考えれば、今後もITから逃げていたら本当に大変なことになる。人口減少、労働人口減少、過当競争、そしてブラック企業化への批判。これらの課題を根本から解決するには、一つ一つの店舗、一人ひとりの経営者が変わっていかなければならない」

 圧倒的に人材不足と言われる飲食業界。2017年初頭、24時間営業を掲げていたファミレスチェーンは、その多くが営業時間帯変更をすでに発表している。大量の人材を安価に長時間使うことでどうにか維持できていたビジネスモデルが、いま曲がり角に来ていると中村氏は言う。

 「いまだに取引先との連絡や発注はFAX、納品書は紙伝票、原価計算は電卓。シフトは紙に書いていて、当然予約台帳も紙のまま。唯一機械化されているのはレジだけ。30年前とまったく変わってない。ところが飲食店の外に一歩出ると、世の中の環境は情報化され、ネットやスマホも普及し、どんどんスピードが上がっている。そのスピードが上がったなかで飲食店に絶えず予約が入ってくる――。外で起きているスピードの変化に対して、30年前のやり方で追随していこうとしたらより大量のスタッフを採用し、より安価により長時間働いてもらわなければ成立しない。しかしそれでは飲食業界で働きたいという人はますますいなくなり、優秀な人材も集まらなくなってしまう」

 飲食業界はこれまでは大量かつ安価に労働者を確保できるという前提で組み立てられてきたが、今後は人が減っても事業が継続できるようにしなければいけない。それも、飲食店としての魅力を高めながら、だ。選択肢として見えるのは機械、ITの利用だ。

 「実際、お店のオペレーションを見ると、人間じゃなきゃできない仕事というのはごく一部で、ほとんどは機械でできる。それに機械のほうがもっと上手にできることが多い。そのとき従業員は、『お客様との会話』『おもてなし』『心配り』など、人間しかできないことに注力すべきで、そういうクリエイティブな部分で人間がその価値を発揮できるようにすることが大切」(中村氏)

紙というコンペティターにいかに勝つか

 トレタの現状を見ていると、システムの完成度は高く、継続利用率も99%と申し分ない。しかし、現在、導入店舗の6割は東京に集中している。であれば、あとは地方に横展開していき、シェアを伸ばしていくだけのように思われる。コンペティター=競合他社より有利な点を強調して営業を進めることに尽きるのではなかろうか。

 「予約台帳としてみればトレタは8~9割近くの完成度になっている。同じように飲食店向けのシステムを作っているところは20くらいはあるが、我々は競合を意識してサービス展開をしてはいけないと心がけている。飲食業界全体への貢献を考えたら、競合と小競り合いしているよりも、まずは一店舗でも多くのお店で紙の台帳を追放していくことのほうがはるかに重要」(中村氏)

 中村氏いわくトレタ最大の競合、最大の敵は紙だという。

 「既存の飲食店にとって、紙からITへ乗りかえるには『いままで無料でできているのにどうして金を払うのか』というハードルがある。紙だったらトレーニングなしに誰でも使えるのに、月に1万2000円も払っても使いこなせないリスクもある。我々は、そういった疑問に対して、一つずつ丁寧に答えていかなければ」(中村氏)

 現在トレタが進めるのは、トレタにしかできない価値提供だ。2月に発表された新サービスである「トレタお見舞い金サービス」もその1つといえる。

 飲食店の予約被害として、予約したお客様が当日になっても現れないという問題は、SNSでもよく話題に挙げられる。電話連絡もなく現れない、飲食業界で言うところの「ノーショー(No Show)」である。キャンセルすらしてこないので「ドタキャン」ですらない。予約があれば、飲食店は材料を仕入れてきちんと仕込みをして「客」を待つわけだ。仕込んでしまってしているので、その材料をほかに使うわけもいかずにすべて処分しなければならない。売上機会がゼロになるだけでなく、直接飲食店に赤字被害を与えるのがこのノーショーだ。

 「いまノーショー、いわゆる無断キャンセルが問題になっており、実際損害が出ている。そこに私たちの仕組みを使うと証拠がちゃんと残るので、それを元にお見舞金をお支払いしようと思っている。これができるのは、単に台帳サービスを提供しているだけではダメで、台帳がきちんと各店舗で運用に乗っていることが前提となる。それができるのは、契約後もしっかりと運用に乗せるように手厚いサポート体制を敷いている当社だけだと考えている」(中村氏)

 サービスを使うと自動的に付帯される、トレタイニシアチブを標榜する彼ららしいサービスだ。今年はそのほか、忘年会での幹事に向け「劇的にお店探しが楽になるサービス」も年末に向けて用意するそうだ。こちらはBtoBtoCの流れで、「三方よし」の世界が構築できる。

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