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高校生が画像認識やディープラーニングも駆使する「モバイル部門」

アプリ作りはプログラミングより難しい? パソコン甲子園2016レポート(後篇)

2017年01月20日 09時00分更新

電脳高校生・高専生たちが静かだが熱い戦いを繰り広げた!

本選会場となる会津大学の外側には何本もの“のぼり”。快晴にめぐまれ例年よりかなり暖かいそうだ。

 国内のスマートフォンの普及率は、内閣府の消費動向調査によると67.4パーセント(平成28年3月調査)にのぼるという。しかし、アプリやネットサービスに関しては、LINEなど海外ヒットも出てきているが全体としては“輸入超過”といえる。モバイルでは、アプリを開発する技術力もさることながら“使いやすさ”や“ビジネスモデル”、さらには客や投資家に売り込んでいく“プロデュース力”も大きな要素となる。日本は、この部分が得意といえるだろうか?

 2016年11月12・13日の2日間、「パソコン甲子園2016」(全国高等学校パソコンコンクール)が福島県の会津大学で開催された。14回目となる今年は、「プログラミング部門」に43都道府県から642チーム1,284名、「モバイル部門」に15道府県から30チーム78名が応募、予選を勝ち抜いた合計32組70名が、今回の本選でグランプリを争った。

本選会場となった会津大学はコンピューター理工学専門の大学。

前回のプログラミング部門に続いて高校生たちをキッチリ取材する意気込みの筆者。

 前回の記事パソコン甲子園2016《プログラミング部門》レポート、今年の問題も大公開!/日本のITは“部活”が支えているでは、世界でもトップ水準だというプログラミング部門の高校生たちの熱い戦いのようすをお伝えした。今回は、2日目に行われた「モバイル部門」本選もようをお届けする。次代を担う高校生たちは、彼らにとっても生活のパートナーとなっているモバイルで、どんな作品を見せてくれたのか? ふだんアプリやサービスの開発に関わっている業界関係の方々も、そのできばえをご覧いただきたい。

モバイル部門の“競技”(?)がはじまった

 「モバイル部門」で“競技”と言われると想像しにくいかもしれないが、ひとことでいえばAndroidスマートフォンを使った、アプリやサービスの企画・開発のコンテストだ。予選は、全国15都道府県から応募された30チームの企画書を審査する形で行われ、それを通過した8チームに会津大学の学生チューターが付き作品を完成させる。本選では、そうして作られたシステムの内容を、高校生たちがプレゼンテーション、および、デモンストレーションすることで最終審査が行われる。

 毎年、その年の「テーマ」が決められそれに沿った作品を作ることになるが、今年のテーマは「家族」。高校生の視点から、“家族の絆を深める”ことを目的としたアプリが多く見られた。なお、評価項目は、技術力・デザイン・イノベーション・プレゼン力の4項目となっている。

 競技の進行は、午前中に正面のステージで1チームずつ順番にプレゼンテーションを行っていく。実際にアプリを使ったデモをステージ上で披露したり、事前に撮影した紹介ビデオを流したり、凝った演出が面白い。プレゼンテーションに関して、審査員は堂々としていることが特に高評価のようで、はきはきした喋り口の出場者が出てくると、審査員からは「いいねえ」と言う声が次々に聞こえていた。

プレゼンテーション会場の様子。会場の会津大学研究棟の1階には協賛企業の展示ブースも並び、一般見学者も来ていてちょっとしたお祭りのような感じだ。

審査員は手前から、矢沢久雄氏、檜山巽氏、林信行氏、高木敏光氏、筧捷彦氏、遠藤諭氏の6名。プログラミングやデザインなど、それぞれの立場から質問が投げかけられる。

 全チームのプレゼンテーションが終わると会場の左右に設けられたブースでのデモセッションに移る。審査員が各チームを回って、詳しくシステムの内容を聞いていく。生徒たちから直接話を聞くことになるので、指導教官や会津大学のチューターがついていても、どこまで自力で考え作り込んだかがわかるしくみといえる。また、審査員が回ってくるまでの間は、一般の参加者も自由に話を聞くことができる。どのチームも緊張感の高かったステージ上とは異なりリラックスした様子で終始和やかな雰囲気だった。

 さて、本選でグランプリを争った8チームだが、さすがにどれも興味深い作品だった。デモセッションのブースも見ていて楽しいものばかりだ。ここでは、そうした中でもとくに印象に残った4作品を紹介する。

部屋の“ちらかり”具合を定量化する『Clear-up!』/鈴鹿工業高等専門学校 HKT4.8

実際の部屋を使ったデモができないため模型を使った展示。画像認識の結果が分かる画面も面白かった。

 カメラが部屋を定期的に撮影し、部屋の“ちらかり”を管理してくれるというアプリ。初期状態からの比較で“ちらかり度”をパーセンテージで算出したり、部屋のモノの移動追跡まで残してくれる。ちらかり度はグラフでも見ることができて、数値が大きくなると家族全員に通知する機能もある。“ちらかり”という一見曖昧なものを、数値で表現しようとしているところが面白い。ちらかる前に掃除を促すこのアプリ、欲しいと思うお母さんもいるのではないだろうか?

お弁当の評価にディープラーニング!『FNS食おう菜!』/鈴鹿工業高等専門学校 FNSシステム管理委員会

お弁当の写真を撮るとアプリがおかず「玉子焼き」などと解析をしてくれる

 お弁当の中身を判別して、子どもがおかずに点数をつけることができるアプリ。おかずをひとつひとつ認識させて、食べる人がおかずに点数をつける。点数は、なんと無制限だ。クラスメイトのお弁当を大量に撮影してデータを集め、ディープラーニングによっておかずの自動認識を行ったそうだ。そこまでやる必要があるのか? とも思えるが最先端技術に触れる意気込みは買うべきだろう。親はお弁当のおかずを決めやすくなり、子どもは好きなおかずが食べられる。まさに一石二鳥なアプリといえる。

会場を笑いに包ませた! 『シュンカンリンク』/大阪府立淀川工科高等学校 Try“sa”il

手作りの旗がかわいい!

カメラを向けるとポーズを決めてくれる関係者のノリのよさ。

 一方は、スマートフォンアプリ、一方はロボットを持って、「いいね!」、「いい?」、「ヘルプ!」の3つのメッセージを送り合うという機能的にはとてもシンプルな内容だ。たとえば、一人暮らしの子どもがアプリで「いいね!」を送ると、実家の母親が持つロボットが「いいね!」と書かれた旗を挙げる。これにより遠くの家族の状況を知ることができる。

 使い方を解説した動画ではオレオレ詐欺の防止に役立つことを面白くアピールし、会場を沸かせていた。ロボットはレゴ製で、ユーザーの好きな形にできる点も評価された。スタンプだけのチャットのやりとりなど、いまは少ない情報量のコミュニケーションが注目されている。このアプリでは、ロボットが伝達役となることでなんとなく愛らしい感じがあり、スタンプとはまた違ったコミュニケーションに繋がりそうだ。

家族の居場所が分かる『ふぁみここ』/沖縄工業高等専門学校 ぱんぷきんたると

縫いぐるみに取り付けられた剥き出しの基盤がコンテストならではで面白い。

 「いえここ」、「そとここ」、「ペットここ」の3つの機能からなるこのアプリは、家族全員がiBeaconを持つことで家族が今どこにいるかわかるというもの。「いえここ」ではいま家にいる家族、「そとここ」では外にいる家族、また「ペットここ」はペットと家族がどれだけ一緒にいるかわかるのだという。家族が居場所を知ることで、子どもの迷子や高齢者の徘徊防止にもつながる。なんといってもデザインが綺麗で分かりやすく、大人が作ったものとも遜色ない仕上がりだった。

モバイル部門のグランプリは?

 ステージでのプレゼンテーション、ブースでのデモンストレーションと8チームの競技が終了。約1時間の審査員らによる審議の時間を経て、モバイル部門の“グランプリ”、“ベストアイデア賞”、“ベストデザイン賞”の3部門が決定され、表彰式での発表となった。なお、審査における詳細な評価点は公表されないが、納得感のある受賞ラインナップとなったと感じた。結果は、次のとおりだ。

グランプリ

三重県 鈴鹿工業高等専門学校 HKT4.8

ベストアイデア賞

大阪府 大阪府立淀川工科高等学校 Try“sa”il

ベストデザイン賞

沖縄県 沖縄工業高等専門学校 ぱんぷきんたると

 グランプリの鈴鹿工業高等専門学校、HKT4.8の樋口芳さん(高2)、立松諒也さん(高2)、弘部大知さん(高2)にお話を聞いた。家の“ちらかり度”をテーマにしたアプリだが、アイディアを思いついたのは、家族ならではの問題と考えたときに、メンバー全員が部屋の掃除が家族のなかで問題になっていると感じていたからだそうだ。というのも、ちらかった部屋を親に勝手に片付けられて「そこじゃなくてこっち!」と喧嘩になってしまうことがよくあるらしい。

 まさに高校生ならではの悩みといえる。そうした高校生ならではの着眼点をサービスとして作り込んだこと、そして、高い技術力が評価された。ちなみに、このアプリを作ると決めてから画像処理の勉強をはじめたとのこと。「もう画像処理はいいかな……」と、なかなか大変だったようすを伺えるコメントを聞かせてもらった。デモセッションでは、シルバニアのミニチュアの家を部屋として展示。高校生になってシルバニアを買いに行くことに、しかも、5000円したのだという。ぜひ奨学金で補填してもらいたい。

グランプリの鈴鹿工業高等専門学校チーム。学校の先輩がパソコン甲子園でいい結果を残していたので非常にプレッシャーがかかっていたとか。

世界はアプリが入り口になっているのにプロデュースを学ぶ場がない

 高校生たちの話を聞いていくと、彼らには「技術はあるけど何を作ったら良いか分からない」、「作りたいモノはあるけど技術がない」、そんな悩みがあるらしい。実際に、プログラミング部門で優秀な成績を残し、世界で活躍する高校生でも、「実はモノづくりが苦手だ」という話も耳にした。全国からの応募者数を見ても、プログラミング部門の1,284名に対して、モバイル部門は78名。技術的な水準は、プログラミング部門が非常に高いわけだが、モバイル部門のほうが高校生にはハードルが高いのかもしれない。

 そうした意味で、パソコン甲子園が、アプリ作成やプログラミングに興味のある高校生たちの交流の場になるとしたら楽しいと思った。また、予選通過者に対して会津大学の学生がチューターとして付いて指導されるというのも、貴重な機会になるはずである。世の中では、いまプログラミング教育やSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育は注目されているが、アプリのプロデュースのような総合的なことを学ぶチャンスは滅多にない。こうした機会がもっとあれば、世界に通用する素晴らしいアプリが彼らの手で作られる日もくるのではないか?

 本選に進んだ参加者を見ていると、スポーツと同じように本当に凄い電脳高校生・高専生がいる。若い才能がいちはやく花開くという点で、ネットやコンピューターというジャンルも共通しているからだ。2020年からは、昨年12月に答申が出た次期学習指導要領にそって、コンピューター教育が、ようやく日本の学校にも浸透してくると期待している(文末の“お知らせ”を参考)。パソコン甲子園2016は、今回も無事閉会したが、来年以降スポーツやアートに劣らない熱い戦いになっていくといいなと思った。

デモンストレーションセッションでの審査員との質疑応答の様子。

会場では郷土料理のこづゆと味噌おにぎりが振る舞われた。

表彰式の風景。グランプリには賞状及び副賞(奨学金として30万円)、他2賞には同10万円が贈呈。

お知らせ

 2016年12月21日、2020年以降の日本の幼稚園、小学校、中学校、高校の教育の中身を示す「学習指導要領」の答申が出された。この中で、プログラミング教育がどのように反映されるものになるのかが注目される。そこで、角川アスキー総研では、2月6日に「ついに見えてきた2020年の学校でのプログラミング教育」と題したセミナーを開催します。
【開催概要】
日時:2017年2月6日(月)18時00〜21時30分(受付開始/開場17時30分)
会場:角川第3本社ビル 3F(東京都千代田区富士見1-8-19)
 ■第一部「1時間で分かる次期学習指導要領」
 ■第二部「プログラミング教育、いまからやるべきことは?」
 講師:寺西隆行氏(ICT CONNECT 21事務局次長)
    豊福晋平氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授)
 ■懇親会
参加費:5,000円(税込)
※懇親会費用はセミナー費用に含まれています。
参加登録はコチラから!
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