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元フィリップスの技術者が開発したスイッチングアンプを採用

大型スピーカーをぐんぐん駆動する力を得た、マランツの「PM-10」

2017年01月17日 10時00分更新

立ち上がりが早く力強い低域の表現が新しい

 短時間ではあるが、SA-10とPM-10の組み合わせで試聴する時間があった。選ばれた曲はDeadmau5のEDM曲『while(1<2)』から「seeya」と、ゲルギエフ指揮の『展覧会の絵』冒頭のプロムナード~Gnomusのさわりまでだ。

 先にPM-11S3で聴き、その後PM-10に接続し直しての再生となった。聴き比べると、特に低域の制動能力や重量感が向上しているように感じた。ちなみに、PM-10とPM-11S3ではゲインが変更されていて同じ音量にするためにはボリューム位置を少し上げる必要があるとのこと。重量はアナログアンプのPM-11S3のほうが重い。

 組み合わせたのはB&Wのフロア型スピーカー「800 D3シリーズ」で、そのユニットをぐいっと歯切れよくドライブしている印象だ。Deadmau5の曲で、それを特に感じた。中低域の押し出し感やキレの良さなどが優れていて、ドラムやベースなどのリズム帯がより速く正確に立ち上がるため、ホールに立ったかのように気分が高揚してくる。オーディオの試聴用としてはちょっと珍しいダンスミュージックだが、相性は悪くない。SA-10はプリメインながら、こうした大型スピーカーとの組み合わせでも、十分余裕がある再生能力を持つと言えそうだ。

 比較したPM-11S3はアナログアンプで、空間表現を非常に重視したつくりだ。個人的には高域の繊細さや美しさがあるように思えた。一方で、PM-10は音像型というか、音が一歩前によりハッキリ出てくるような感想を持った。反面、音の位置関係や明瞭さ、奥行き感などは多少ぼやけている感じもするが、低域の支えが利いた音が、力づよく前に飛んでくるパワー感はいままでのマランツ製アンプにはなかったもののように思える。展覧会の絵も金管や弦の色彩感が鮮やかだ。はっきり爽快に鳴るのはデジタルアンプの持ち味だろう。

 個人的に過去何台かマランツのアンプを所有していたことがあるが、PM-11S3はその延長線にある印象だ。言ってしまえば聴きなれているので、PM-10のキャラクターをより強く意識したのかもしれない。

 例えば空間表現では、Deadmau5では、冒頭部分にノイズ的な電子音が空間の様々な位置で発生する。それが徐々にリズムを形作っていくのだが、その過程で音の位置関係はPM-11S3のほうが明確なように思える。後半に入ってくる女性ボーカルの声も中央にきゅっとフォーカスする印象だ。展覧会の絵でも、意識を集中して聴くと、音の明瞭感や分離感、各楽器の音が鳴る位置の再現などに差があった。

 数値上のS/NはSA-10のほうがだいぶ優れているため意外だったが、PM-11S3は音に透明感があり、高域の伸びやすっと抜ける残響の表現が美しかった。プロムナード冒頭のトランペット独奏から、徐々に楽器が追加され、オーケストラ全体の演奏に進んでいく流れでは、各楽器の音色の対比が鮮やかで、どの楽器がどの位置で鳴っているかが手に取るようにわかる。音色の華やかな描き分けや反響して消えていく残響の感じなどが優れていて一皮むけたようなリアルな感覚が味わえた。

 一方のPM-10はこうした繊細さや中高域の美しさに加えて、スケール感の大きさが信条。室内楽に対してオーケストラ、ピアノトリオに対してビックバンドなどをより壮大かつ爽やかに奏でてくれそうだ。

 ごく限られた時間での試聴のため、これだけで判断するのは危険だが、新旧のキャラクターの差を明確に感じたのは興味深い。逆に言えばPM-10は、この先の10年を切り開く音のスタート地点に立った製品とも言える。その端緒を開くPM-10がどんな世界を切り拓いていくかを考えながら、聴いてみるとまた新しい発見が得られるかもしれない。

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