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トヨタも挑むオープンイノベーション その背後にある強い危機感

2016年12月08日 09時00分更新

 トヨタ自動車は12月7日より、日本国内向けのオープンイノベーションプログラム「TOYOTA NEXT(トヨタネクスト)」を開始する。

 発表会の冒頭、壇上に立ったトヨタ自動車の国内販売事業本部 副本部長で常務執行役員の村上秀一氏は、トヨタネクストの取り組みについて「トヨタのアセットを活用していただき、お客様を中心に考えられたアイデア、ヒト中心のサービス開発に取り組んでいく企業やパートナー様を選定していきたい」と説明。
 これまでこだわってきた、自社とグループで技術開発をまかなう自前主義を今回の取り組みではリセットし、外部の個人やベンチャー企業との共創によって、自動車メーカーの中に新たなイノベーションを起こしていこうという考えだ。

 トヨタネクストを支援するパートナー企業には、運営事務局/選考サポートとして、シリコンバレーなど国内外でスタートアップへの積極的な投資を行ってきたデジタルガレージ/DGインキュベーション、そしてクリエイティブ統括、選考サポートでクリエイティブディレクターのレイ・イナモト氏によるInamoto&Coが加わって運営していく。

左から、トヨタ自動車 国内販売事業本部デジタルマーケティング部 部長 浦出高史氏、同国内販売事業本部 副本部長 常務執行役員 村上秀一氏、Inamoto&Co クリエイティブディレクター レイ・イナモト氏、デジタルガレージ執行役員SVPの佐々木智也氏。

トークセッションで佐々木氏から説明されたデジタルガレージの投資先のポートフォリオ。成功した日系の企業例として、日本のスマート車椅子のベンチャー「WHILL」、先ごろ楽天に買収されたCtoCサービスの「FRIL」、シリコンバレーで一番有名な日本人起業家とも言われる福山太郎氏による福利厚生プラットフォーム「AnyPerk」を挙げた。この選球眼がTOYOTA NEXTにどこまで大きな影響を与えるのだろうか。

 トヨタネクストの参画企画の募集は12月7日より開始し、募集締め切りは2017年2月20日。そこから約半年の選考期間を経て、7月下旬には選定企業を決定、その後、開発とサービス化が行われることになる。

自前主義だけではビジネスの変化に取り残される、というトヨタの危機感

 トヨタ自動車は、最近様々な発表の場で「創業以来の変革の時を迎えている」というメッセージを発信してきた。私も、トヨタのある研究開発現場の人物から、既存のメーカーとは異なるIT企業による自動運転技術の隆盛によって、このままではクルマがコモディティ化してしまう、という危機感があるとの言葉を実際に聞いたことがある。

 「良い製品を作ればどんどん売れ、事業も発展する」という20世紀型のものづくりが岐路を迎えている--これは多くの製造業の現場が直面している問題で、トヨタ自動車を始め、自動車産業の発展とともに成長してきた既存メーカーの危機感もそこにある。

 特に自動運転車技術や、自動車をプラットフォームにしたサービス開発(Uberなどのライドシェア分野はその代表格)などに対応していくには、これまでの自動車業界が培ってきた、積み上げ型の技術構築とは全く異なるスピード感とアプローチが必要になってくる。

 トヨタが2015年末に人工知能研究の新会社、TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)を設立し、米国防高等研究計画局でロボット開発の指揮をとったギル・プラット博士を筆頭に、世界中の著名研究者・開発者からなるシリコンバレー流組織を作ったのは、こうした流れに対応していくためだ。

 トヨタネクストの取り組みにおいてトヨタが提供するアセットが広範囲に及ぶのも、同社の取り組む姿勢の本気度が現れているように感じる。提供を表明しているアセットは以下のとおり。

提供するアセット
(1)ビッグデータ
 ・インターネット接続を内蔵した「コネクテッドカー」から取得可能な情報を中心としたもの。今冬発売の新プリウスPHVから対応していく。データは匿名化した上で、位置情報、走行距離、速度情報、車両状態(部品劣化・故障警告)、車両利用状況(安全運転技術・各種機能作動回数等)、エンジン回転数、アクセル開度などを提供する。
(2)タッチポイント
・全国約5200店舗のディーラー(新車・中古車含む)、及び約1200店舗のトヨタレンタリース店。公式サイトでは”FACE TO FACEでのサービス提供拠点になり得るアセット”と表現。
・月間1000万UUのtoyota.jp、2500万人の友達登録を持つ公式LINEアカウント、メルマガ。
(3)製品/サービス
・スマホでのドアロック開閉などができる法人向けの装置「スマートキーボックス」
・法人向けに車両の危険挙動記録や危険運転警告、車両位置・走行軌跡などを提供するサービス「トランスログ」
・パーソナルモビリティ「i-ROAD」
・テレマティクス「T-Connect」や、渋滞情報(プローブ情報)などを無料提供するスマホナビアプリ「TCスマホナビアプリ」

 中でも興味深いのは、プリウスを基軸にいよいよ日本でも本格化が始まるコネクテッドカーからの取得情報だ。匿名化されてはいるものの、複数のデータを組み合わせた利用ができるため、会見では一例として、特定地域の車両のワイパーが動いていると雨だと判断する(匿名で個別化されたワイパーの動作情報、位置情報の複合利用)、といった使い方を紹介していた。

 一方で、トヨタネクストへの参加条件の中で「提出資料やプレゼンテーション等は日本語を使用すること」など、極めてドメスティックな取り組みにしている点は、少々違和感がある。会見でもその点を指摘する声が上がった。

 これについては、会見の後半の質疑応答の中で「日本が直面して、深刻化している社会問題(高齢化、地方の過疎化による交通難民、若者の車離れなど)は今後先進各国に起こってくる。いちばん先にこの問題に直面しているマザーカントリーである日本でまずこういうサービスをチャレンジしていきたい。」(村上常務執行役員)と説明する。
 オープンイノベーションでの開発は、むしろ日本よりアメリカの方が積極的だとは思うものの、自動車に関しては各国で法令や規制の事情が違いすぎるため、こういう枠組みでまず始めようということなのかもしれない。

 なお、トヨタ自動車は投資額については公開していないが、最終的に絞り込むアイデア数の規模感としては、5項目の各テーマそれぞれに対応するボリューム感を期待しているという。

募集期間は約2ヶ月。個人やベンチャーだけでなく、大企業からの申し出も検討からは外さないとのこと。

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