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「なんとなく」の感性を見える化するカラフルボード

AIで好みがわかる 非ビッグデータのアプローチで事業化狙うSENSY

2016年12月02日 09時30分更新

 「好きな食事を教えてください」

SENSY bot

 11月30日に発表されたばかりの「SENSY bot」は、対話情報から好みのレストラン案内をしてくれるサービスだ。人工知能(AI)による自然言語処理対話ができるチャットボットは流行りだが、対話をするだけでなく、そこから個人の好みをAIが学習してオススメ提案してくれる機能を備えている。

 このような人の好みがわかる人工知能「SENSY」を軸にビジネスを展開するのが、カラフル・ボード株式会社だ。同社はAI技術を活用し、アパレル、食など人間の生活に関わる分野における課題解決を行っていくことを目指したスタートアップ。創業者で、代表取締役CEOである渡辺祐樹氏は、学生時代から現在のようなAIでの扱いになる以前のディープラーニングを研究していた。もはや流行ともいえるAIを標榜する企業は決して珍しくないが、同社のビジネスへのAI採用は独特だ。

 渡辺氏は同社のAI技術について、「たとえばアパレル業界では、従来はマーチャンダイザーの勘、経験などに頼っていた部分をAIがサポートすることで、不良在庫軽減につながる可能性がある。現在は実証実験を行っているが、半年くらいすれば実ビジネスにもAIを活用する試みが始まるはず。うまくいけば、売上の10%程度の利益改善も可能になる」とビジネスを改善する大きな武器になると指摘する。では、同社が進めているAIを活用したビジネスはどういったものなのだろうか。

カラフル・ボード株式会社の渡辺祐樹代表取締役CEO

ファッション、食品などの分野で複数の企業と提携

 現在、カラフル・ボードでは、コンシューマ向けサービスとして、ファッションアプリ「SENSY」やパーソナルチャットボット「SENSY bot」、さらにBtoB向け事業として、ファッション分野では伊勢丹、はるやま商事株式会社など百貨店やアパレルメーカーなどに「SENSY」を活用したサービスの提供、食分野では三菱食品と提携して事業を展開している。

 いずれも同社が開発した人工知能「SENSY」ブランドを活用。人工知能『SENSY』を通して自分の好みにあった商品を提案する。ファッション分野では自分が持っている洋服、販売されている洋服からその日の気分、目的などに応じたコーディネートを提案する。利用者の感性を可視化することを目指したものだ。

 2014年11月にリリースされたファッション人工知能アプリ『SENSY』は、個人の好みを把握するパーソナルな人工知能サービスとして話題となり、リアル店舗を中心に実証実験が行われている。渡辺氏自身も、国内のAI系スタートアップの1社として、各種AI・ファッション関連のイベントやセミナーに招かれる忙しい日々だという。

 現在SENSYが展開する「感性プラットホーム」は、さまざまなジャンルでの展望が見えている。冒頭に紹介したチャットボット「SENSY bot」β版も、その活用の1つだ。IBM Watsonエコシステムプログラムのパートナーとして、「IBM Watson 日本語版」を活用したチャットボットで、LINEまたはFacebookで相談すると、個人の嗜好性や話し方を学び日々成長する仕組みがあり、β版では東京のレストランを案内してくれる。

 特にBtoBのビジネスでは、SENSYをマーケティングに活用し、顧客にあった内容のダイレクトメールを送付するサービスや、在庫の無駄をなくすことを目的とした導入が始まっている。

 「人工知能を事業化するにあたっては、研究フェーズ、実証実験フェーズ、本格展開という三つのフェーズがある。すでに発表しているもの以外も含め、実証実験フェーズが最も多く、2017年以降は本格展開が増える予定」だと渡辺氏は説明する。

 人工知能は流行りだが、昨今の人工知能ブームにのって同社は誕生したわけではなく、ビジネスのための技術としての人工知能開発に長く携わっている。

ライフスタイルを変えていける技術開発をしたかった

 渡辺氏が自身で起業することを決意したのは大学4年生の時だった。

 「大学4年生になったときには、大学院に進み、研究者となる将来を想定していた。研究することが楽しかった」

 しかし、一転して起業することを決意したのは、「研究は楽しかったが、現実のビジネスでの活用ではなく、研究だけで終わってしまうと、まるでゲームをやっているようだと思ってしまった。そのような感覚だけで人生を終えたくないと考え、起業を決意した」と振り返る。

 特に研究者として取り組んでいたのは、機械学習の最適化であり基礎研究だった。当時は現在のようなブームとも言える注目がまったくない、将来も見えにくい状況。自分が開発したものは要素技術として実ビジネスに活用されるものだという思いはあったが、渡辺氏は現実との間に距離感を感じた。

 「それまでは研究者として社会問題を解決できないかと思っていたが、研究者が開発したものは要素技術として活用されるとしても、ビジネスと直結したものではない。自ら企業を作って開発を行うことで、本当にライフスタイルを変えていけるのではないかと考えた」

 現在のカラフル・ボードが目指しているテクノロジーを使ったライフスタイル改善という考え方は、研究職から起業を志した渡辺氏自身の強い思いに端を発している。そのためには実際のビジネスを識る必要があった。実際のビジネスとはどんなものなのか、まず就職して仕事を識ろう!と、大学4年生からの就職活動が始まった。

 活動を始める時期としては大幅に遅く、「当時の自分を振り返ると、コミュニケーション能力もなかったし、就職活動を始めたのが遅かったため、苦戦した」と渡辺氏は苦笑する。

 ようやく入社したのは通信機器、コピー機などを法人向けに販売する企業。入社してから3か月の間に新規顧客を2件獲得することができないと正式に入社できないという厳しい条件だった。

 「幸い、運だけで最初の2件の顧客を獲得することができた。しかし、その後はがむしゃらに営業をしているだけでは成果はあがらない。自分達が扱っている商材の強みはどこにあるのか? 商材に当てはまりやすいクライアントはどういうところなのか? 彼らはどこにいるのか? を徹底的に研究した。法務局で新しく誕生した企業のリストを手に、効率の良い営業を行ってみた」

 この戦略を立てて営業活動を行うことは見事に成功し、1年後にはトップセールスとなり、同期のスタッフを組織化してチームでマーケティング活動を行うまでになった。苦手だったコミュニケーションも場数を踏み、ビジネスとして話すべき内容を磨き上げた。

 「仕事に慣れてきたころには、がむしゃらに営業をした経験と、適切な説明をすることで営業がうまくいくという経験の二つを紐付け、理論と経験を結びつけた戦略的なコンサルティングを体験したいと考えた。そこで、戦略コンサル企業に転職し、理論に基づいたコンサルティングとはどんなものかを体感する機会を得た」

 転職先のIBMビジネスコンサルティングサービスでコンサルティング業を体験していた時代には、企業財務を理解するために会計士の資格も取得。大学を卒業してから7年間の間に、営業の現場から戦略コンサル、会計までを体験し、学んでいった。

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