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「なんとなく」の感性を見える化するカラフルボード

AIで好みがわかる 非ビッグデータのアプローチで事業化狙うSENSY

2016年12月02日 09時30分更新

大学など研究機関との協力による技術開発を実現

 営業職、コンサルタント業務に携わっている間も、学生時代に手がけていたディープラーニングに関する研究は個人で続けていた。

 「ビジネスをするのであれば、日本ではなくシリコンバレーにいた方が優位だと思う。ただ、最先端の情報を追いかけるのであれば、新しい論文は日本にいても読むことはできる。研究職から離れた後も、断続的に研究活動も進めていた」(渡辺氏)

 仕事というよりも、趣味に近い感覚で株価予測をAIで行ったりしていたが、2010年頃になるといよいよディープラーニングは大きな盛り上がりを見せはじめる。ちょうどそのとき、起業するアイデアとなったのがコンサルタントとして関わっていたアパレル業界の不良在庫を改善するためのAI技術活用だった。

 「アパレル業界は、在庫によって業績が大きく左右される。特に2000年以降、業界全体が厳しくなったことで在庫問題に真剣に取り組む企業が増えてきた」

 2011年11月、カラフル・ボードを創業。この時点ではAI技術が課題解決に即利用できる手応えがあったわけではない。ただ、ディープラーニングの技術進展が続いていくことは明らかだった。ジェフリー・ヒントン率いるトロント大学のチームがディープラーニングでの画期的な進展で脚光を浴びたのは2012年のできごとだ。「その時点では手応えがなくても、研究を続けていけば手応えが出てくるのではないかと考えていた」

 2013年頃から1年半をかけ、カラフル・ボードは本格的にAI技術開発に取り組む。特徴的なのは莫大な計算資源からの分析を志向する企業が多かった中で、カラフル・ボードは個人の嗜好を分析し、そこから産業への影響を測るというアプローチをとっていたことである。

 「ディープラーニング、AIに注目が集まる中で主流となっていたのはビッグデータ分析だったが、当社はビッグデータではなく、個人のデータ、行動、いろいろな履歴を含め、個人を理解するというアプローチ。そういう意味で、本当の意味で同じようなことをしているライバルはいない。人工知能+ファッションというサービスは他社からも出てきているが、最終的に目指しているビジョンは異なってくる」

 AIは技術革新が現在も続く分野であることから、大学と協力関係を結び、研究段階から取り組んでいる。

 「AIを使ってビジネスをするといっても、研究活動は自社では行わず実践のみという企業もあるが、深い研究と企業との提携による実ビジネスデータを活用した人工知能ビジネスを志向している」

伊勢丹新宿本店にて「AIソムリエ」サービスを期間限定で導入したこともある

 AIブームとあって人工知能関連の研究室にはさまざまな提案が寄せられている。その中でカラフル・ボードと協力関係を結ぶ大学があるのは、「企業の実ビジネスデータを活用したAI技術である点に価値を見いだしてもらっているのでは」と渡辺氏は分析する。

 アパレルと進めている在庫の改善は、在庫の無駄をゼロにすることは不可能といっていい。しかし、現状の10%の不良在庫を改善し、なおかつ在庫が足りないことによる機会損失を減らすことができれば、売上10%相当の利益改善につながることもあり得る。人工知能「SENSY」はBtoCでのアプリだけの展開ではなく、同社のビジネスコアはBtoBでの提携企業の価値創造にある。

 「従来はマーチャンダイザーの経験、勘に頼っていた部分をAIがサポートすることで不良在庫改善につながる。これが実証実験を行ってきたことで見えてきた。あと半年程度実験を繰り返し、今度はAIが提案した数値を活用するというフェーズに移行することになる予定。このビジネススキームは、そのままアパレル以外の業種に横展開できる。ライフスタイル全体の改善に人工知能が活用できると考えている。今後は食、エンターテイメント、出版など『需要と供給のミスマッチ』が起こっている分野全般で、当社のAI技術が活用できるのではないか」

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