クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。
第1回テーマ:電子カルテ x 医療者のメリット
医療関係者であれば、当たり前のように使っている「紙のカルテ」。紙であるが故の不便さは、実は患者側にも見えない影響がある。院内で直接カルテが回ってこなければ情報共有できず診察自体がスムーズにいかなかったり、大量の紙の資料の保管には気を遣ううえ、確認するにはわざわざ倉庫へ行かなければならないケースもあるという。また事務的な作業などもスムーズにいかず、受け付けで患者を待たせてしまうといった効率の悪さも、身に覚えがある医療者もいるかと思われる。
これら諸問題を解決するために注目されているのが「電子カルテ」だ。デジタルデータ化された診療記録には、一体どんなメリットがあるのだろうか。
第一に医療機関内の情報共有が容易になる点が挙げられる。Googleのように検索するだけで、見たいカルテをすぐ表示することが可能だ。別の誰かから受け取りにいったり、遠くの倉庫へ取りに行くなどの面倒を省くことができる。
物理的な管理も不要となるため、収納スペースの確保や、万が一の紛失も防ぐことができる。手書きではありがちな「読めない」といったトラブルがなくなるのも魅力的な特徴だ。
また患者ごとの処方箋入力も楽になるほか、事務作業、予約・受け付け業務もスムーズになるため、患者の待ち時間の短縮にもつながる。
現在は大病院をのぞいて、一般的にはまだまだ紙が主流だという。電子カルテを導入してしまえば、紙ベースでは絶対実現し得ない、大幅な効率化が望めるのだ。
以上が基本的な部分だが、ここからは病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による専門家の声も交えてより深く解説を行なう。最新トレンドをぜひチェックしてほしい。
ICT化のキモは保存されたデータをどう活用するか
診療所での導入率がようやく30%を超えた電子カルテ。無料のものから何百万円もするものまで、多種多様な製品がありますが、そもそも医療機関はなぜ電子カルテシステムを導入するのでしょうか?導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
一般的には、
・省スペース(書庫がいらない!)
・スタッフ間の情報共有(複数人が同時に閲覧できる!)
・受付・会計の効率化(棚から探す手間がない!)
・正確な点数計算(電子カルテからレセコンへのデータ連携!)
・文字が読みやすい(手書きは読めない!)
・検索できる(紙カルテではできない!)
などのメリットがあるとされています。
しかし、ビジネスシーンでのICT活用の常識に照らし合わせてみれば、ここで挙げたメリットは、ICT化の真のメリットとは言えません。ICT化のキモはアナログをデジタルにすることにとどまらず、保存されたデータをどう活用するかにあります。つまり、
・診療データや処方データを分析して、診療活動に活かす!
・患者データを分析して、患者管理に活かす!
・診療材料データを分析して、在庫管理や発注業務に活かす!
・経営データを分析して、経営改善に活かす!
といった活用が求められます。そして、これを実現できる電子カルテこそ、これからの診療所経営に求められる電子カルテと言えます。
裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長
1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります