総務大臣が認定する登録修理業者
まず、街の修理業者との決定的な違いは、国のお墨付きを受けるために修理可能な端末と修理を行う箇所、修理方法などを詳細に記した申請書を総務省に提出して、認定を受けている事業者であること。スマホはWi-FiやLTE、3Gなどの無線通信機能を備えており、無線設備(装置)の修理には総務大臣の許可が必要です。割れたガラスの修理だけなら未登録でも電波法に抵触しない可能性もありますが、アンテナ一体型のパーツも多く、法的に結構グレーな状態でした。そのような状況の中、総務省では2015年4月より特別特定無線設備について修理方法、修理体制、修理の結果が電波法令および電気通信事業法令の技術基準への適合性維持が確認できる事業者を登録することで、技術基準を明確にするようになりました。
なお、総務省への事業者登録を支援する団体として、携帯端末登録修理協議会があります。同協議会にも、登録修理業者が増えている理由などについて質問してみました。
携帯電話端末の修理をする場合、通信事業者のショップ経由で製造業者に修理を依頼することが一般的でしたが、スマートフォンの急速な普及に伴い、製造業者以外の第三者である修理業者が修理を行う事例が見られるようになりました。
その一方で、その第三者が携帯電話端末を修理することによって、修理後の携帯電話端末の性能が電波法や電気通信事業法で規定している技術基準に適合するかどうか不明確になるなどの点が懸念されていました。 このような背景を受け、修理の箇所及び修理の方法が適正で修理後の携帯電話端末が法令で定める技術基準に適合していることを第三者である修理業者自らが確認できる等電波法及び電気通信事業法で定める登録の基準に適合する場合には、総務大臣の登録を受けることを可能とする登録修理業者制度が導入されました。
なお、この制度は平成26年4月23日法律第26号による電波法改正および平成26年6月11日法律第63号の電気通信事業法改正により創設され、平成27年4月1日より施行することが決まりました。また、登録修理業者制度を実施するために、電波法に基づき、新たに登録修理業者規則(平成26年省令第8号)が制定され、電気通信事業法に基づき、端末機器の技術基準適合認定等に関する規則(平成16年省令第15号)が改正されました(ともに平成27年2月27日公布、平成27年4月1日より施行)。
当修理事業者協議会は、この新しい修理事業者制度を業界に普及させ、一般ユーザーへの便益拡大を目的に、2015年5月に発足しました。総務省、通信事業者3社も、オブザーバーや特別会員のかたちで参画をお願いしています。
2.登録修理業者の特長(ユーザーからみたメリット)はありますか?ユーザーが修理を依頼する際の選択枝が増えます。修理費用は比較的高いが購入から一定期間の瑕疵担保を有する製造業者による修理を選ぶか、修理実施後に製造業者の修理を受けられない可能性はあるものの、省令の要件を満たし比較的安価で即日修理が可能な登録修理業者による修理を選ぶかは、ユーザー自身で決めることができます。
ユーザーが製造業者以外の修理業者(登録修理業者を含む)に修理を依頼した場合、その後に製造業者の修理を受けられない可能性はあるものの、通信事業者のショップ経由で製造業者に修理を依頼した場合、1週間程度の期間がかかるうえ、ユーザーが保存した情報(写真、メールなど)が消去されてしまうことが多いです。一方、製造業者以外の修理業者(編集部注:登録修理業者を含む)による修理では即時修理が基本でユーザーが保存した情報も保持されます(編集部注:製造業者の修理を受けられない可能性はある)。しかも登録修理業者であれば、省令で定める要件を満たしていることからユーザーから見た安心度が向上すると考えられます。
3.登録修理業者が増えている理由などがわかれば教えてください登録修理業者制度が施行された平成27年4月1日以降、平成27年12月までに登録を済ませた修理業者は3社、平成28年6月から現在までに11社が登録を済ませ、現時点で計14社が登録修理業者となっています(編集部注:2月下旬時点では16社)。
平成28年6月以降で登録数が増えている理由の1つとして、平成28年7月に総務省が「登録修理業者の申請手続きについて」というマニュアルをホームページに掲載、修理業者が平易に登録申請できる工夫をしたことが挙げられます。当協議会では、総務省の主管部署の方々と定期的に打合せをさせていただく中で、当該マニュアルの内容について意見や要望を述べさせていただきました。また、当協議会の月例部会で総務省からマニュアルの説明会を開催いただくなどの機会を得て、当該マニュアルに基づいた登録申請書や修理方法書の記載例を作成し、修理業者会員に対して登録申請に係る書類の作成方法を周知することができました。
また、これまでフランチャイズ型修理業者の登録申請の在り方についても総務省と議論してきました。総務省から平成28年12月に、申請者が自ら修理することと同様、ほかの法人などを含め、実施体制・管理体制等が要件を満たしているものと確認できる場合は、申請者以外のほかの法人などであっても事務所を設置することを可能とする旨の方向性が示されました。当該内容は、フランチャイズの運営本部を営む修理業者にとって、フランチャイズ加盟店を含めた一括登録が可能になるので、登録に際しての費用や申請書類作成工数の低減によって参入へのハードルが下がり、今後さらなる登録修理業者数の増加が期待できると思います。
iPhoneの場合、前面のガラスパーツの取り替え程度は部品さえあれば簡単な作業なので、ここ数年未登録の修理業者が激増しており、中には修理スキルの伴わない業者もあります。しかし、一般ユーザーからすると業者の善し悪しを判断する基準がありません。そこで登場したのが「登録修理業者制度」というわけです。
一方、Appleの正規サービスプロバイダーとの最も大きな違いは、登録修理業者で修理した場合は街の修理業者と同様に、Appleの保証が受けられなくなるということ。iPhoneの製品保証は、Apple Careに未加入の場合で1年、加入している場合は2年ですが、この間にAppleの正規サービスプロバイダー以外で修理した場合は、Appleからは改造と見なされて保証がなくなってしまう可能性があるのです。
ここまで読んで、「じゃあ、登録修理業者なんて意味ないのでは?」と感じた読者が多いかもしれません。そういう方はおそらくApple直営店や家電量販店が身近にある方だと思います。各社がこぞって登録修理業者の登録を急いでいる理由は、Apple直営店や家電量販店などがカバーできない郊外や地方で、法的にもクリアで技術も伴った修理店である、登録修理業者が必要とされているからです。
また、都市部であってもApple直営店のGenius BarやApple正規サービスプロバイダーはユーザー数に対して圧倒的に数が少ないので大混雑していることが多く、よほどラッキーでなければその日のうちに修理完了とはなりません。Android端末の場合、即日修理はほぼ不可能ですし、代替機を使えるとしても修理に1週間程度かかることもザラです。
いまやスマホには、取引先や家族、友人の電話番号やメールアドレス、写真、業務で使う資料などが保存されており、生活必需品となっている人も多いでしょう。それほど大事な機器が壊れてしまうと仕事の効率が悪化してパニックになってしまう人も多いはず。そういった場合の駆け込み寺的な存在として登録修理業者制度が整備されたのです。
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