組むなら大手か、ベンチャーか? 障壁を乗り超えるには?
泥臭いで一致?パナソニック、村田製作所、三井不動産の新規事業開発
8月26日に行なわれたIoT&ハードウェアビジネスの祭典「IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP」の4本目セッションは、協業型ものづくりを語るパネルディスカッション。イノベーションを目指すパナソニック、村田製作所、三井不動産の三者が新規事業を生み出す苦労やそこで生まれたメリット、体験を語った。
登壇者は新規事業とこう関わっている
「日本企業だからできる製造大手が進めるイノベーション新手法」と題したセッションは、パナソニックの中村雄志氏と村田製作所の牛尾隆一氏が自社の協業事例を披露し、モデレーターのASCII STARTUPガチ鈴木と数多くのオープンイノベーションを手がける三井不動産の光村圭一郎氏が、事例について分析するという形で展開。パネルディスカッションは、自己紹介と会社での立ち位置の説明からスタートした。
パナソニックの中村氏は、B2B向けの車載・産業デバイスを製造・販売を展開するオートモーティブ&システムズ社にあるメカトロニクス事業部で新規事業開発を担当している。「新規事業というと社長直轄というところも多いが、私は現場に一番近いところで新規事業開発をやっている」と中村氏は語る。
村田製作所の牛尾氏は今年の1月に設立された新規事業推進部に所属し、外部とのコラボレーションを手がけている。オープンイノベーションを目的にしているわけではなく、あくまで新規事業を作り出すためにオープンイノベーションを手法として選んでいるという。
中村氏、牛尾氏のようなメーカーと異なり、三井不動産の光村氏は同社の新規事業を担当すると共に、イノベーションや新規事業が生まれやすい仕組みを街に持ち込むかが大きなテーマだという。そのため、三井不動産が手がける新規事業のフレームを他のテナントなどに横展開していくという役割も持っているとのことだ。
個人の思いから事業部発で新規事業を生みだしたパナソニック
次に実際の新規事業の具体的な事例を披露した。中村氏が手がけたのは、家中の家電などをボタン1つでオンオフできる「eny」というIoTサービス。博報堂グループのスタートアップであるQUANTUM(クアンタム)と協業でコンセプトを錬ったというプロジェクトだが、きっかけは「綿密な計画を立てて進めたわけではなく、プライベートで私がハッカソンに出た時に、彼らが審査員とメンターだった。彼らの魅力に引かれ、意気投合した」(中村氏)ということでスタートした。
当時、経営企画室にいた中村氏の中には「サービスやソリューションに近い新規事業をデバイスメーカーがやるのは無理だと思った」という思いがあった。こうした背景からまずは個人でフレームを作り、技術が強いパナソニックと、クリエイティブやコンセプトメイキングが強いQUANTUMとの協業がスタートしたという。その後、新規事業部門に移り、上司の承認と予算、開発期間を得た中村氏は、QUANTUMとともにenyのコンセプト作りから始め、事業部の巻き込み、動画の制作、プロトタイプの立ち上げ、そして米国のスタートアップイベントである「SXSW」に出展するところまで約半年でこぎつけた。
中村氏によると、ポイントは2つ。1つは小さく始めたこと。「こうした組み方は初めてだったので事業部もアレルギーがあったが、スモールスタートしたことで、段階的に理解が得られるようになった」と中村氏は語る。もう1つは、コーポレートのR&Dやスタートアップ支援とは別に、事業部で新規事業プロジェクトが立ち上げられたこと。「ハードルは高いけど、事業開発と組織変革をセットでやらないと、結局イベントで終わってしまうし、中村がいなくったら続かなくなる」と語る。
話を聞いたガチ鈴木は、「途中から会社や事業部を巻き込んだ。大手メーカーでそういうことはできるのか?」と質問すると、中村氏は「泥臭いけど、コンセプトの資料を持っていろいろなところに話に行った。あとは実際に会う場を設けて、短時間で意気投合できる演出はした」と語る。また、コーポレートで展開している「Wonder Lab Osaka」を使い、enyのコンセプトを他の事業部にも見せていった。
NDA締結に1年!大手メーカーと新価値創造を進める村田製作所
続いて牛尾氏の事例に移ったが、現時点で新規事業として外に公開できるものはないという。その上で、牛尾氏は「最近、オープンイノベーションってバズっているじゃないですか。でも、オープンイノベーションの捉え方をきちんと説明しないと、最後に食い違うのではないか」と語り、社内でオープンイノベーションをどう伝えているかを説明した。
新規事業を生み出すオープンイノベーションは、従来の概念とやや違うと牛尾氏は指摘する。従来のオープンイノベーションは課題解決型で、研究開発の効率化や事業化スピードアップに足りないピースを埋めるためにM&A、ライセンシング、業務委託など外部のリソースを使う手法を指すという。もう1つは新規価値創造型のオープンイノベーションは、社内では生まれない新しい価値を創造するため、いろんな人たちを巻き込んでコンセプトメイキングや事業開発するというもの。「足かけ5年くらいかけてやっているのは、後者の新規創造型の方。相手先は日本の大手企業がほとんどで、包括NDAを結んで、ブレインストーミングからやっている」という。
しかし、4年前に10社と進めたプロジェクトだが、うまく行けば来年に商品化できるかもというものが1つだけ。そのため、「やり方としてよいのか、確信がない」と語る牛尾氏だが、このプロジェクトがなければ生み出せない製品であり、かつ世界初でいける可能性もあるという。
こうした新規事業の苗床として、村田製作所は昨年5月に「オープンイノベーションセンター」を設立したが、「よく言われるけど、全然オープンじゃない。どうググっても出てこない」という。しかし、これには意図があり、「オープンイノベーションやります」が先行すると、見学対応などに時間が割かれてしまうのが目に見えていたからだという。「私が呼びたい企業だけ呼んで、週1回くらいでプロジェクトをやっている。単にディスカッションをしてもしょうがないので、リアルなプロトライピングをやってみたり、うちのセンサーの実物を使っている」(牛尾氏)。
ガチ鈴木は、「大手同士のオープンイノベーションで気をつけなければならないことはなにかあるか?」と質問を投げると、牛尾氏は「たくさんありますね」と即答。牛尾氏が、「お互い腹を割って話したいけど、NDAを結んだんですけど、それってやることが決まってないのにNDAを結ぶということ。でも、普通の法務の人からいったら、そんなの考えられない。だから、NDAの締結に1年かかった会社もありました。やりましょうと話して、契約書が仕上がったのが1年後です」と実話を披露すると、横にいた中村氏も大きくうなずく。「一方で、1回進むと前例ができるので、次はやりやすくなるというのも気づき。2件目からは1週間でできました」と牛尾氏が語ると、会場は笑いに包まれる。
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