VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!
どもども!VRおじさんことPANORAの広田です。今週のニュースといえば、お台場にあるVRエンターテインメント施設「VR ZONE Project i Can」に新アトラクションとして「ガンダムVR」が追加されたことが注目です。また、来週24〜26日に控えたVR系のセッションも多く含むゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2016」のスケジュールが発表された点も見逃せません。
しかし、それ以上に見逃せないのは、インテルとマイクロソフトの発表でしょう。インテルはWindowsベースの一体型VRヘッドマウントディスプレー「Project Alloy」を明らかにし、マイクロソフトはHoloLensでも採用している「Windows Holographic」の動作に適したHMDとPCの仕様をインテルと策定中というニュースでした。
PC業界の覇者が強力タッグを組んで盛り上がりつつあるHMDに切り込んでくる、という図式が容易に見て取れます。というわけで今回は、このインテルが参入を表明した一体型VRHMDについて、その位置付けと可能性を深掘りしていきましょう。ちなみにProject Alloyについては、ジサトライッペイさんの記事が詳しいですよ!!
「電源ON! あとは遊ぶだけ」の魅力
現状、市場に出回っているVRHMDは、据え置き型とモバイル型に大きく分けられます。
据え置き型は、PCやゲーム機に接続して使うタイプで、Oculus RiftやHTC Vive、PlayStation VRといった製品が該当します。PCやゲーム機の高い処理性能をフル活用して美麗なグラフィックを実現したり、外部センサーを活用してプレイヤーの位置を測定して、バーチャル空間を歩いたり、キャラクターに顔を近づけるといった行動を可能にしてくれます。また、両手に持ったモーションコントローラーを使って、CGをつかんで投げたりと、よりリッチな体験を実現してくれるのがメリットになります。
一方、モバイル型は、スマートフォンをはめて使うタイプです。ダンボール製のHMDは1000円台から購入できて安価な上、手持ちのスマートフォンを使えれば、PCやゲーム機などを追加購入する必要がないので初期投資が少なくて済みます。加えて持ち運びやすく、ケーブルレスで使えるという実用的なメリットもあります。スマートフォンなので表示能力は限られるものの、例えば、実写の360度映像を見せたいといった用途にはよく使われています。
それらと並んで、今年に入って存在感が増してきたのが、別のハードウェアをつなぐことなく単体で動作する一体型のVRHMDです。
今年3月には、カナダのSulon TechnologiesがAMDのAPUを採用した一体型HMD「Sulon Q」を発表。さらに中国のアイデアレンズが「IDEALENS K2」を9月15日に中国にて発売開始することを明らかにしています。そこにインテルのProject Alloyが加わることで、ひとつな大きなジャンルに広がっていくでしょう。
一体型のメリットは、ケーブルレスということに加えて、運用のしやすさにあります。VRコンテンツの体験時、PC向けの据え置き型ならまずWindowsのデスクトップ、モバイル型ならAndroidやiOSのホーム画面を表示することになります。ここからHMD向けのホーム画面を表示することになるわけですが、ユーザーは遊びたいVRコンテンツを1秒でも早く選べればいいわけで、別に各OSの画面を見たいわけではありません。
実のところProject AlloyとSulon QはWindowsベース、IDEALENSはAndroidベースなわけですが、一体型でやるからにはバーチャル空間だけで完結するホーム画面を投入してくるはず。そもそもの話、普通の人はPCにHMDをつないで設定したり、スマートフォンをHMDにセットしたりといったことだけで、「なんだか難しそう……」と感じてしまうものです。OSやドライバー、アプリのアップデートでソフトの不具合が起こったり、ハードが認識しなくなったりといったトラブルも容易に予見されるでしょう。
そうしたわずらわしさを極力排除して、「電源ON! あとは遊ぶだけ」と簡略化できるのが魅力です。
逆にデメリットは、ハードウェアをアップグレードするときに、丸ごと買い替える必要がある点です。将来的にVRHMDで一体型が主流になったときには、パーツの交換でアップグレードできる機種が出てくるかもしれませんが……。
一体型は、VRHMDの存在が知られてくるようになったあとに、今はモバイル型が支えている中〜低価格帯での存在感を増していくでしょう。より拡張性が高く、周辺機器も追加しやすくて、よりリッチな体験を提供してくれる高価格帯はPCやゲーム機が支えて、そこまでの性能を必要としてない、例えば、手軽に360度映画が見たいといった用途にハマっていくものと思われます。
もちろんそのハードの普及のためには、膨大なコンテンツのカタログ数や、手軽に買える配信プラットフォームも必要となるでしょう。WindowsやAndroidの配信プラットフォームが、どこまで魅力的なVRコンテンツを集められるのか。それとも一体型のハードウェアメーカーが、VRコンテンツ配信で先行するSteamなどと提携するのか。もしかしたらゲームではなく、「Hulu」や「Netflix」のように360度映画の配信プラットフォームが立ち上がってVRHMDの普及を進めるかもしれません。
広田 稔(VRおじさん)
フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。
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