週刊アスキー電子版では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくにウェブ読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。
読み・書き・プログラミング。私も、誰もがプログラミングすべきだと思うが、原動力は「ハッピーハッキング」。つまり、楽しさだ。
夏休みに楽しもう! プログラミング
小中学生向けのプログラミングコンテストを開催することになった。7月1日から募集告知した“全国小中学生プログラミング大会”である。株式会社UEIの清水亮社長と、NPO法人CANVASの石戸奈々子さんと一緒に、実行委員長には東京大学の稲見昌彦教授に就任していただいた。総務省(予定)と朝日新聞、そして、秋葉原タウンマネジメントの後援で、協賛企業も絶賛受付中だ。
プログラミングのコンテストには、いくつかの形式があって「ACM」(米国計算機学会)の「CPC」(国際大学対抗プログラミングコンテスト)などは、一定時間でどれだけの問題が解けるかを競う。私が、毎年審査員をやらせてもらっている「パソコン甲子園」(全国高等学校パソコンコンクール)も、プログラミング部門はこの形式で行なわれる。もうひとつは、あらかじめ自分たちでつくったプログラム作品を応募するもので、パソコン甲子園ではモバイル部門がその形式といえる。今回の全国小中学生プログラミング大会は、後者の作品応募型のコンテストだ。
政府は、小中学校でプログラミング教育を必修とするとしているが、それがどのような形で実施されるかの全体像はまだ議論の最中である。6歳から15歳までのプログラミング教育について、どんなやり方が答えなのか? 乗り越えるべき課題も多いはずで、かなり大変な作業だろう。そういう中では、プログラミングの体験教室に出た子どもに、次の目標が目に見えるとよいというわけなのだ。そこで、夏休みの自由研究でプログラミングをやって、それをもとに応募してくれたらいいなどとも思っている(応募〆切は9月15日)。
プログラミングの入門といえば、かつてパソコン雑誌では定番記事のひとつだった。私が「月刊アスキー」編集部に入った1985年頃は、ちょうど「C言語」が注目されていて「これはやるしかないだろう!」と入門連載をやった。もっとも、それ以前の月刊アスキーのほうが、米「Computer Langage Magazine」誌の提携記事を載せたり、さらに前は「TL/I」や「GAME言語」といったオリジナル言語を紹介していたりしていたわけだが。それが、私がプログラミング入門記事をやりはじめたころというのは、パソコン通信で発表の場ができるなど、「道具としてのプログラミング言語」を習得したい人が増えた時期だったのだ。
私としては、アスキーに入社する前に仕事でプログラムを書いていて、そのときに感じていた。プログラミング以外では絶対に味わえない「魅力」を伝えたいと思っていた。
無機質なコンピューターという機械を思いどおりに動かす。あるいは、それによってちょっと新しい世界を生み出す「ちいさな神さま」になったような快感がある。誰かが「プログラミングというのは自己複製本能に通ずるものがある」と言っていたが、本当にそうではないかと思う。つまり、生命的な生殖活動にも似た衝動というのが関係している気もする。なにしろ、自分がつくったプログラムというのは、自分の分身として一定の仕事をやってくれるカワイイ存在である。
昔は、仕事でプログラムを書く場合は名前が出ることもあまりなかったが、いまは作者やプロジェクトの参加者の名前があきらかになるようになってきた。つまり、プログラミングは「著作行為」でもある。というのも、アスキー入社後、「AMSCLS.INC」というx86系アセンブラのためのマクロセットをつくって公開した。それを有名な圧縮解凍ソフトの「LHA」(吉崎栄泰氏による)が使ってくれていて、LHAが海外まで広がったので、私のマクロセットも世界中に配布されることになった(LHAは速さも売りにしていたのでコードの大半がこのマクロを全面的に使ったアセンブラで書かれていたのだ)。あるとき、米国からPC用の「RAMPART」というゲームを通販で取り寄せたら、フロッピーディスクの中にマクロに関する自分のクレジットや説明文(ある人が英訳してくれた)が入っていて、ちょっぴり感動したのはいまも忘れない。
果たして、全国の小中学生からどんなプログラム作品が届くのか楽しみだ。なにしろ、小学生の創造性というのは全国規模となるとあなどれない。あるときディスカバリーチャンネルを見ていたら、その子の父親らしい人物が「この子、本当にスゴいんですよ」などとしゃべっている。自分の子供をテレビで褒める親って? と思って見ていたら、その子のつくった「四角い車輪」のクルマが出てきた。車体の中央に上向きに取り付けられたモーターがあり、そいつが先端に重りのついた針金を投げ縄のようにグルングルンと回している。それによって、車体はガタンガタンと揺れ、初期位置のズレた四角い車輪が次々に前に倒れることで前進するのだった。
これは、もはや別格の創造性というべきだろう。ひょっとしたらナノマシンや宇宙空間で応用可能な技術かもしない。プログラミングのほうは、これに比べると誰にでも手が届く創造性からはじめられる。そう、たぶん「プログラミング民主主義」みたいなものがあると私は思うのだ。「誰にでもチャレンジ」でき、「自分なりの成長を実感」できるとともに、ここが大切なのだが「誰かのためになれる」。もちろん、モノをつくりあげるまでには葛藤がある。しかし、それをやりとげたときに得られる達成感。それを、みんなと一緒に「協調しながら作業できる」のがいまのプログラミングでもある。ということで、小中学生のみなさまプログラミングの世界へようこそ!
全国小中学生プログラミング大会の概要
主催:全国小中学生プログラミング大会実行委員会(株式会社角川アスキー総合研究所、株式会社UEI、NPO法人CANVAS)
後援:総務省(予定)、株式会社朝日新聞社、秋葉原タウンマネジメント株式会社
大会実行委員長:稲見昌彦(東京大学 先端科学技術研究センター教授)
審査委員長:河口洋一郎(CGアーティスト、東京大学大学院情報学環 教授)
テーマスーパーアドバイザー:高橋智隆(株式会社ロボ・ガレージ 代表取締役社長、東大先端科学技術研究所特任准教授)
募集テーマ:「ロボットとわたしたち」
募集内容:PC、スマートフォン、タブレットや、『Raspberry Pi』などのマイコンボードで動作するオリジナルのプログラム(ハードウェアと連携するプログラム、ゲームなど純粋にソフトウェアだけの作品も募集対象)
審査基準:「アイデア」「プログラミング技術」「完成度」
応募資格:日本国在住の、6歳以上15歳以下(2016年4月1日時点)の小学生・中学生(グループで応募する場合は3人以下。応募は1人何作品でも可能)
応募費:無料(応募までにかかる費用は自己負担)
表彰:賞状および副賞(「MacBook Pro」ほか)
応募開始:2016年8月20日(土)
応募締切:2016年9月15日(木)
ウェブサイト:http://www.lab-kadokawa.com/jjpc
協賛のお問い合わせ:角川アスキー総合研究所(渡部)
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