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未来のVR業界を左右しそうな取り組み

KDDIの「VRやるぜ!」表明から見える、通信とコミュニケーションの未来

2016年06月12日 10時00分更新

文● 広田 稔 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!

KDDIが、国内の通信キャリアでVRへの取り組みをいち早く表明しました

 どもども! VRおじさんことPANORAの広田です。毎回言ってる気がしますが、今週もVR業界は非常にニュースが多かった!

 PANORAの記事から引用すると、海外では、巨額の投資を受けているにもかかわらず、米特許商標庁がARスタートアップ「Magic Leap」のデザイン特許が受け付けられたことが明らかになったニュースが話題でした。というのも、Magic Leapは今までデモ映像しか出しておらず、ヘッドセット自体をまったく見せていなかったからです。デザイン特許なのでこれが最終製品ではないにしろ、製品の目指す方向がわかったのは大きいでしょう。

 国内では、東京お台場にあるジョイポリスが今夏、FPSの「ZERO LATENCY VR」とホラーの「VR生き人形の間」がオープンさせたり、カプセルホテルにGear VRが導入されたり、愛知県のテーマパーク「ラグナシア」でVRコースターが7月16日から始まったりと、店舗でのVR展開が広まった印象です。この辺、過去の連載でも取り上げましたね。

 それとは別に、今回は、未来のVR業界を左右しそうなKDDIのVRへの取り組みについてピックアップしていきます。


本日12日までau SHINJUKUでHTC Vive用のデモ

 KDDIは6日にプレス向けの発表会を実施して、同社のVRへの取り組みを明らかにしました。PANORAの記事でもまとめたように、具体的には3月に米国オースティンで開催されたクリエイティブ系展示会「SXSW 2016」に「Linked-door」(仮称)というデモを展示。

 Linked-doorが面白いのは、最大で5m四方ほどのの空間を歩けるVRヘッドマウントディスプレー「HTC Vive」を利用して、歩いて次の空間に移動するというコンセプトです。バーチャル空間でかかってきた電話に出て会話すると、次の空間のドアが出現。ハンドコントローラーでノブをつかんで開き、歩いて中に入ると別の空間に移動できるという流れです。6月11、12日、東京・新宿にある直営店「au SHINJUKU」にて体験会を開いて、デモを一般にお披露目します。そう、まさにこの記事を読んでいる今日、展示しているので、関東近県にいる方はぜひ新宿にいってみてください。



 もうひとつ、KDDIのオープンイノベーションファンドが出資しているハコスコについても紹介していました。ハコスコといえば、ダンボール製のスマートフォン向けビューワーとして有名な存在で、auとは2015年にコラボしてISETANで展示会を実施したこともあります(関連記事)。同社はVRビューワーだけでなく、視聴用のスマホアプリやいろいろな企業がチャンネルを出してるコンテンツもワンストップで揃えているのが特徴です。

ハード、配信プラットフォーム、コンテンツと自社で展開しているハコスコ

近いうちに発売するというプラスチック製の「ハコスコDX2」も展示していました

 KDDIとしては、未来のコミュニケーション手段のひとつとしてVRを想定しているとのこと。同社の商品・CS統括本部 商品企画部 部長の松田浩路氏は、「コミュニケーションは電話、テキスト、写真と移ってきて、今は動画になってますが、そうした『情報の共有』から『体験の共有』に移っていく。そのひとつの手段としてVRがあるのではないか。空間そのものが送れて、体験を共有できるようになるイメージ」と語っておりました。

VRは5Gのポテンシャルを活かせる要素

 同社がVRに取り組むメリットとしては、まず、将来的にVR機器はモバイルの方に向かうという予測があります。現在でも、先のハコスコやサムスン電子とOculus VRが共同開発した「Gear VR」を始めとするスマートフォンを差し込んで使う「モバイル型」のほうが圧倒的に数が出ています。

 一方で、体験の質としては、画質やコントローラーなどの周辺機器を使える点で、PC向けの「Oculus Rift」や「HTC Vive」、PlayStation 4向けの「PlayStation VR」といった「据え置き型」に軍配が上がります。より現実に近くみえるようにCGを描画したり、コントローラーを使ってCGのものに触ったり、というのはモバイル型では限界があります。

 ただ、これまでの歴史を見てきて、デスクトップPCがノートPCに、ノートPCがスマートフォンにと移ってきたように、ハードウェアの性能向上に従ってモバイル型に移行するのは明らかなところです。今から先行投資しておくことで、将来に備えるということですね。

スマートフォンを付ける手間すらなく、電源をいれてすぐにVRコンテンツが体験できるようになる一体型のVRヘッドマウントディスプレーも出てきています。写真は3月に発表されたカナダのスーロン・テクノロジーズが作っている一体型の「Sulon Q」

 もうひとつ、次世代移動通信システム「5G」を活用できるツールとしての側面もあると思います。4Gよりも大容量で、つながりやすく、遅延も少ないネットワークを手に入れたときに人々は何をするのか。その解のひとつとして、VRヘッドマウントディスプレーで実写の360度動画を見る、というニーズが出てくるでしょう。

 VRヘッドマウントディスプレーで360度動画を見る場合、現在、360度映像の主流である4Kの解像度でも、人によっては画質が荒く感じてしまいます。普通の方なら、「えっ、4Kってテレビだとスゴい高精彩だよね?」と感じるはずですが、実は360度動画は、画面比が2:1の状態で保存されていて、VRヘッドマウントディスプレーで見る場合は、ちょうど地図を地球儀に貼り付けるように、左右をつないだうえ、上下をすぼめて表示しています。つまり元動画が4K=3840×1920ドットあっても、頭の周りに展開されてしまうので、見える範囲はもっと狭いということです。しかもディスプレーが目のそばにあるので、アラも目立ちやすい。

 もちろんコンテンツの面白さは、本質的には解像度に左右されるものではありませんが、やはりキレイに見たいというニーズも大きいでしょう。今後は8K、16Kとより高画質化されていき、それを伝送するために5Gの必然性が出てきます。この辺、PANORAでもインタビューしたNokiaの担当者も5Gへの期待を語っていました。

YouTubeなどの動画視聴が4G LTEによって快適になったように、VRでも5Gが求められるでしょう

 そうなると通信だけでなく、もしかしたら4K、8Kと解像度を高めてきている放送業界でもVR熱が高まるかもしれません。今でもテレビを見ながらスマホで検索している人は多いですが、未来ではリビングにあるテレビからケーブルが伸びていて、「あっ、この映像を現場で見たい」と思ったときにVRヘッドマウントディスプレーをつないでかぶるとその場所に行ける、みたいなことが実現しているかもしれませんね。

 ちなみに来週は、米国ロサンゼルスで開催されるゲームの祭典「E3 2016」を取材してきます。来週の原稿のほか、6月24日開催する連続セミナーの第6回「Tokyo VR Meetup #06 E3報告会 & ここがスゴいよHoloLens」でも熱く語りますので、ぜひご来場ください!


広田 稔(VRおじさん)

 フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。


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