コンピューター解析とカット&トライで最高の音質を
開発着手は2008年。8年の年月をかけてようやく量産にこぎつけた製品だ。
ZYLONを使用したユニット以外にも、“アコースティック・アブソーバー”を使った独自の定在波対策、特許出願中の“R.S.チャンバー”(R.S.はレゾナンス・サスペンションの略)による共鳴音の調整、ユニットをスムーズに動かすためのベンチレーションといった技術を積極的に取り入れている。
開発期間の長さだけでなく、完成に至るまでのプロセスも新しいという。9月の発表以降、一般向けの試聴イベントを通じて全国を行脚。その反応も積極的に取り入れながら、音質のブラッシュアップに取り組んできた。ネットワーク回路の改良など、その後手を加えた部分がある。
こうした取り組みは「私の知る限り初めて」(ヤマハミュージックジャパン AV・流通営業本部の岡田豊本部長)だという。
箱鳴りを抑制し、エンクロージャーの構造を決めるためには、FEM解析やレーザー測定器を使うなど、最新のコンピューター解析を取り入れた。振動の影響を把握し、7本の補強桟や、バッフル面に置いた2本の隅木などを通じて共振を防いだ。微細な振動が再生音に干渉しないようにするためだ。
箱型の筐体の意味、敢えて定在波を発生させる逆転の発想
実は筐体を箱形にした点にも秘密がある。そこにはヤマハならではの逆転の発想があった。スピーカーではエンクロージャー内で音が反射することによって、定在波が発生してしまう。海外のハイエンドスピーカーではそれを嫌って、筐体を複雑な曲面とし、内部で音を拡散させている。一方ヤマハは、敢えて特定の帯域に定在波が出るようにして、そこを徹底的に吸音するようにした。
この吸音に使うのが、“J”の形をした新型共鳴管「アコースティックアブソーバー」だ。これを左右に配置して定在波のピークを吸収。最小限の吸音材で最大の効果が得られるよう工夫している。1次の周波数だけでなく、2次、3次、5次、6次……の共鳴にも効果がある(4次に関しては抑制できないが、偶数倍音は音の響きを汚さないため、問題ないとのこと)。
また、ユニットの背面に配置した複雑な形状の「R.S.チャンバー」も特徴。位相差によって背面に逃げる共鳴を抑制するもの。直管タイプを採用する他社製品もあるが、これと比較して、吸音材を最小限に抑えらえる点が特徴だという。周波数特性としては差が出ないが、エネルギーロスが少なく、音がこもらず明瞭となる。
ネットワーク回路でも情報量の欠落を防ぐため、基板の両面に銅箔パターンを配置し、配線を最短化した。さらに厚みを140μmと、一般的な厚さの35μmの4倍としている。内部線材は3.4SqのPC-Triple C線材を使用。ウーファー用のコイルは底部にネジ止め。ムンドルフ製のコンデンサーとコイルを使用している。
エンクロージャーは一般的なMDFではなく、北海道産(北見木材)の白樺材積層合板を採用。いわゆるベニア板だが、バッフル用には19層で29.5mm厚。ほかの5面は13層で20mmの厚さがある。これを三方留めで固定することで接合部の強度を強くした。
表面はヤマハのグランドピアノと同じピアノ専用塗料を使用。工程は下地材の上に、研磨工程を施して磨き、表面にコート剤を塗布した2度塗りとなる。ちなみに、ピアノフィニッシュかどうかは塗装の回数ではなく、平面性が確保できているかによるのだという。塗装面は1mm以上の厚みがあるそうだが、突板に加えて塗膜が厚く、表面強度も高いため、箱鳴きが少なくなるそうだ。
背面のバスレフポートは風切り音を抑えるため、アサガオ型(ツイステッド・フレア形状)とし、中にフェルト二重巻きの吸音材を入れている。なおこのポートは、バスレフ効果を狙うためというよりは、主に背圧を逃がすために使用する。同じ素材で全ユニットを統一し、音色、音速を揃えるなど全体的な調整を実施していることもあり、スピーカーターミナルも真鍮製のシングルワイヤリング対応端子とした。ここも技術者のこだわりだという。
なお、バッフルなどに反射した音の干渉を防ぐため、NS-5000ではユニット周囲のリングパーツの取り付け位置の微調整(前に出すか、後ろに入れるか)や、ウーファーとミッドレンジ、ツィーターの中心を一直線上ではなく、少しずらして配置するなど細かな調整が施されている。これらもコンピューターシミュレーションで導き出されたものだ。
またユニットの縁を固定するために使う接着剤の多寡も音質に影響が出る。少ないほうがいいが、少なすぎると接着できない。こうしたせめぎあいの結果最適なものを選択している。そのため、生産ロット数は限定されるが、こうした部分もハイエンドスピーカーならではのこだわりのようだ。
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