東大ベンチャーH2Lに直撃
腕がハックされる!体感がヤバい触感型ゲームコントローラー「UnlimitedHand」
「作りたかったものはすでに売っていたものだった」
2015年9月のKickstarter発表から、2016年5月のキット発売と、順調な推移を見せているが、そもそも発表した時点でハードウェアの原型は完成しており、そこからは量産に向けて動いた形だ。コンシューマー向けをやりたい思いがあったと岩崎氏は語るが、そもそもの始まりはいつなのか。
「2013年くらいにMYO(Thalmic Labs社によるアームバンド型のジェスチャコントローラー)が出て話題になっていた。こちらはジェスチャーによる入力のみだが、さらにすごいものが作れるのではという思いがあった」(岩崎氏)
生まれてくるであろうVR市場をにらんで、2014年にプロジェクトが始動する。だが、当時のH2Lは岩崎氏・玉城氏2人だけの研究者向けの受託開発を行うスタートアップだった。専門家だったため本体の基盤はすぐにできたが、苦労したのはプロダクトデザインだ。
ハード面での開発でこだわった部分は、個人個人の腕の湾曲率が違いをカバーできるもの、ぴったり肌につくものにしたいということだった。2015年1月にはゴムを素材とした試作をしたが、しっくりくるものは生み出せなかった。そんなとき、大手家電量販店をうろついていた岩崎氏は、ある製品を発見する。「我々が作りたかったものはすでに売っていたものだった」と語るのは、某社の低周波治療器だった。
医療用パッドを使って腹筋や二の腕などに電気刺激を与える低周波治療器はヘルスケア分野ではすでにメジャーだ。さっそく国内でOEMをやっていたメーカーに依頼をして、工場との仲介をしてもらった。工場は台湾で電気治療機器をつくっているISO(国際標準化機構)規格取得の中小メーカーだ。独特な翼型のデザインはH2L社内である程度作り、最終的には工場側とともに進めていった。「結論となったのは、『自分たちでやらないほうがいい、できる人に頼んでみよう』ということ。必要なコア技術は自社の外にそろっていた」と岩崎氏は語る。
VRゲーム開発者に向け、Oculusなどとともに合わせればいけるという確信は最初からあった。ただし、ゲームという新分野に参入するのであれば、ある程度完成度が高くなければ受け入れてもらえない。発表に向けてこだわったのは、入出力のレイテンシー(遅延)や手首の動きのセンシングだったという。
試作が完成後、クラウドファンディングを始めるにあたり、米テッククランチに連絡してみたところ返事があった。2015年9月20日のイベントに合わせて公開しないかという提案だ。そしてUnlimitedHandは、サンフランシスコで開かれた世界最大級のスタートアップイベント「Tech Crunch Disrupt 2015」でデビューを飾った。
狙いはタイトル特化のコントローラー
現在H2Lには、研究者向けに開発していたときとは比べものにならないくらいさまざまな声が集まっているという。今後はさらに、UnlimitedHandの開発者コミュニティを巻き込んだ動きも求められてくる。
まずはモノの販売から、開発者へのUnlimitedHand普及が第1段となったが、今後のビジネスの方向性として、自社でのゲーム作りをするつもりはない。あくまでミドルウェア提供と体験サンプルを出す程度だ。
「将来的にはライセンシングが狙い。ホラーアクション、アクションロールプレイングなど、ゲームごとに目指すインタラクションは異なるため、汎用性を優先し過ぎて没入感を下げてしまってはその魅力が半減する。タイトルに特化したコントローラーが必要になってくると考えている」と岩崎氏。開発キットの初回ロットは数百という単位だが、仮に世界中で数百万本単位の販売となるソフトに同梱されれば、話はまったく異なってくる。
さらに、狙いはゲームだけにとどまらない。「ちょうどリハビリとVRの分野、それぞれが1つの大きな市場として注目されている。医療施設と関わっているためわかるが、ゲーム性がないものがほとんどで、患者からは絶対的に需要がある。リアルでのインセンティブがあるおかげでリハビリ効果が出るという研究もある。ゲーム業界はそちらの可能性にも目を向けるべき」だと語る。
触感型コントローラーの最初の一歩は踏み出されたばかり。この先は、開発キットを通じてできたプラットホームで、”UnlimitedHandでしかできないゲーム体験”ができたときが1つの転換点となるだろう。医療という別ジャンルからもたらされたものだからこそ、これまでなかったものに期待をしたい。また既存のゲームIPを持つ企業とのアライアンスによって、どのようなものが生み出されるかも気になるところだ。
一個人のゲームプレーヤーとしては、自分の手が意識とは別に動かされるシーンをホラーゲームなどに使ったら相当に怖いのではと思う。あとはFPSのようなものであっても、個人的にはレトロゲームを別角度で遊ぶような視点がほしい。また一方では、銃を撃つといった疑似的な衝撃だけで終わってしまうことも心配される。より複合的な遊びの要素があるゲーム体験でなければ、プレイヤーからは早々に飽きられてしまう懸念もあるだろう。
”触る”感覚はどこまで進化できるのか
さらに、体験デモで感じたのは、今後の”触る”感覚がどこまで進化できるのかというところだ。
現状、ハプティクスの分野として、UnlimitedHandが扱えるのは重さや衝撃といった運動感覚(kinesthetic)のみ。”触れる”という点を完全にするならば、温度や手触りといった触感(tactile)も求められるが、岩崎氏らはさらなる”触感”デバイスの対象として、指の研究も進めている。
「現時点では、銃の反動や重力、体性感覚といった骨や筋肉で感じられるものがせいぜいで、つるつるやざらざらといった材質での触感に近いものが出せない。試作として進めているのは、爪に装着して電磁誘導で動くデバイス。振動のパターンによって触感が変わり、仮想の感触が装着者に伝わってくる」と岩崎氏は今後を語る。
ちなみに、かつてH2Lでは電子マネー支払い時にLEDが光るというスマートネイルをAmazonで実験的に販売をしたこともあった。この場合は、歯医者向けのUVジェルを固着させるテクノロジーが、ギャル目線の付爪という視点でハックするとウェアラブルデバイスになっていた。ゲームコントローラーという日常に医療デバイスの技術を加えてUnlimitedHandが生まれたように、日常の中でデバイスを付ける文脈自体を変えるような未来をH2Lが生み出してくれることにも期待したい。
●H2L株式会社
2012年設立。東大の研究室に在籍していた玉城絵美氏と岩崎健一郎氏、エンジェル投資家の鎌田富久氏により設立。H2Lの由来は、「Happy Hacking Life」。
電気刺激装置「PossessedHand」事業、医療サービス・リハビリ支援事業のかたわら、2015年9月にVRゲームコントローラーUnlimitedHandをKickstarterで発表。大反響とともに迎えられ、2016年5月より開発キットの販売を開始した。
社員数は2016年5月時点で5名。
触感型ゲームコントローラー UnlimitedHand 開発者向けキットをアスキーストアで購入
Image from Amazon.co.jp |
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