築地市場移転を控える13兆円の水産市場に参入したベンチャー
「魚の電子化」だけでは勝てない 水産プラットホームを目指すフーディソンの課題
刺し盛りが当たり前は、実はすごい
現在、農業、食、医療、不動産、などさまざまな業種でレガシーな産業を塗り替えるようなスタートアップの動きが盛んだ。だが、スタートアップでの新規参入となる各分野とは異なり、水産業はすでに全ての要素が出きっていると山本代表は説く。
たとえば、迫る超高齢化社会を見すえ介護事業を開始するといった場合とは別になる。フーディソン社外取締役の諸藤周平氏が創業し、山本代表もかつて取締役に就任していた株式会社SMSは、IPOを果たしたあとも、成長フェーズでさらにそれまでなかった事業を拡大していった。
2000年4月から施行された介護保険制度だが、それが始まっていくときにどこまで10年後、20年後の「業界の構造を含めた全体像」=ビジョンが見えているかが重要だった。制度の制定から、SMSの場合は人材・訪問介護・介護保険請求など、既存の業界をベースに参考にしつつニーズを探って発展していくことができる。
「日本の水産業に追加というのはほとんどない。あとは全体像を見て、ここを切ってつなぎ直す、という画を考えた人が勝つ。最初にすべてを出し切って、実行しながらさらに変えていく会社とならなければいけない。初期に考えていたのは、徐々にマーケットを取ればいいというものだったが、それはピースの1つでしかなかった」
国内水産業の特殊性については、エンドユーザーの志向が進みすぎている点も山本代表は指摘する。「日本全国の魚が1つのお皿に乗っている”刺し盛り”にしても、これが当たり前になっているというのは実はすごい話。北海道の北寄貝から九州のメジナまで、全国の魚が普通に飲食店まで届いている。特化した産直も当然強みはあるが、全国の生産地からありとあらゆるものを集めている市場そのもの機能というのはやはり特別なもの」
個別の産直プラットホームを変えるような試みでのマーケットはあり続けるだろうが、築地や大田市場レベルでの物流機能をどうにかしなければ事業規模での拡大は難しい。何の変哲のないブリだけ100尾送られてきても、処理できてしまう現在の市場の完成度はすごいのだという。
「九州産の地魚、氷見のブリ、といった特徴のある海産物があっても、普通は価値転換できない。海外に出れば、ブリはあくまでタンパク源であって美味しく食べるためのものとはならない。それに耐えるマーケットはごくわずか。世界的に見れば特別なことが当たり前になっている市場という点で、日本はかなり先に行っている。日本のブリはおいしいが、これは舌が肥えていないとわからない。ブリに価値を見出せる、日本の奥行きがあるからこそマーケット回収ができている」
フーディソンには海外進出の予定もある。今年夏には東南アジアでの鮮魚マーケットをにらんだ現地法人を立ち上げ予定だ。
「日本をよりよくするために、長期で考えると海外展開は必須。国内の人口自体は減っていくため、魚を価値づけする対象は日本だけではなくなる。刺し盛りの例にしても、日本は食べる側もつくる側もレベルが高すぎて、魚一つひとつが微細にカスタマイズされている状態。築地市場は雑然としすぎていると言われるが、中にあるノウハウはとんでもなく高いレベル。海外で同様なものを作るのはほぼ不可能。本当にいい状態で魚を食べられるようになるにはほど遠い。魚の輸出はやりようがあるが、実際全部もっていくのは現地から変えていくしかない」
水産業界にとって、
面白く一番いいものを提供できるベンチャーの自負
フーディソンについてはここまで、消費者にとって新しい魚屋という視点から、生産者・流通改善の視点まで、日本ならではの既存の仕組み全体を変えようという試みに注目して、ASCII注目のイチオシスタートアップとして、継続して取材を進めてきた。今現在リアルで進んでいる、新たな課題解決の答えが出るのはまだ先だ。
■関連記事
今後、フーディソンとして養殖や物流など、見なくてはならないところはまだまだあるという。「たとえば長距離物流の際の品質劣化の謎がある。福岡で獲れた魚を東京と福岡で食べ比べると、たった1日の差、冷凍技術やリードタイムも含めてそこまで違いがあるわけではないのに、東京側では劣化がある。このようなところは、当たり前で放置されているが、じつは誰も見えていない。本当に細かいところまで確認すべき」(山本代表)
温度劣化がどこで起きているのか、センサーで探査できれば、自社で流通のためのトラックを持つ価値があるかどうかがわかる。「あとはどの順番でやるのかだけ。すでに小規模の物流、加工センターをもっているが、さらにインフラ投資が必要になる。触っていない部分、出ている要素を整理した結果、今までやっていたことが(水産業界の将来像に)に合っていたとなればいい」
売り上げ規模は未公表だが、フーディソンとしてはここまで重ねた検証をふまえて、このままIPOを目指す予定だ。ここまで見てきたように、個別分野での実績は見え始めているが、ただそれだけでは足りていないのだという。
「うまくいっているように言われることに対しては、正直フィット感がない。実態は焦っている。もちろん水産業界にとって、今改めて面白い、おそらく一番いいものを提供できるベンチャーなのではないかという自負もある。10年後にみんながいい状態になっていることに全力で努力していきたい」と山本代表は語った。
●株式会社フーディソン
「孫の世代にも旬の美味しい秋刀魚が食べられるように」という思いから始まった、ITを活用して水産流通のプラットフォームを再構築することで業界活性化を狙うスタートアップ。
2013年4月1日創業の4期目。
2015年12月には、グローバル・ブレインをリードインベスターとして、総額約10億円の第三者割当増資が完了。
大田市場で流通を手掛ける関連会社のフーディソン大田も含め、スタッフは約100名。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります