週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

築地市場移転を控える13兆円の水産市場に参入したベンチャー

「魚の電子化」だけでは勝てない 水産プラットホームを目指すフーディソンの課題

2016年04月15日 07時00分更新

貝の6秒動画で過去最高の売り上げ

 ここまでシステム、流通と見てきたが、肝心となる消費者とのタッチポイントでもフーディソンの独自性は高い。

カフェと見まがうような作りのSakanabacca 武蔵小山

 フーディソンが目指すところの魚食の増加という点で、サカナバッカが果たす役割も強くなってきている。通常このような小売店は毎月伸びていくモデルではないが、地域での認知は増えており、11月比で約2倍近い売り上げの伸びとなっている店舗や前月比で120%伸びているところもある。総体としての売り上げは立地次第ではあるが、固定客の層は確実につかめてきているという。

 店舗側から、食べたくなるものをつくってマーケティングを展開する取り組みも動いている。直近では、店舗での実験として週末の土日に「貝祭り」を実施。

 「当初はチラシを模索していたが、今は完全にデジタルに切り替えている。FacebookとLINEでマーケティングしつつ、動画を掛け合わせている。結果、通常の店舗との比較でいえば、3.5倍の規模となり、全店舗のなかで土日での過去最高の売り上げとなった。こういうことができるのは差別化の1つ。コモディティーでないものをいかに売るかという点で、どう食べたい状態にしていくか、工夫のしどころがある」

 ただ、拡大についてはまだ課題もある。2015年8月5日、フーディソンは独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインから約5億円の資金調達実施を発表。昨年12月には10億円の調達を完了しており、その用途は新規の店舗出店が主ということだったが、4月時点で鮮魚小売店サカナバッカは5店舗の展開にとどまっている。

 「店舗を広げるうえで、鮮魚を加工できる人材が少ないというオペレーション上の問題がある」と山本代表。これまでは鮮魚店としてフルスペックの体制で駅近くに出店をしていたが、それだけでない形でのマーケット獲得を模索中だ。 衛星店舗や基幹店という形で、小規模なセントラルキッチン、生鮮品の鮮度が落ちないレベル商圏の形成を目指す。商圏内でBtoBとBtoCのニーズをどう物流とITを活用していくかはこれまでと変わらず継続する形だ。

 消費量がダウントレンドにある水産業では、従事者も高齢化しており、魚を店頭でさばく技術をはじめ、知識不足など課題がある。人が少なくてできる店舗の可能性の模索、店舗の増やし方の最適解は見えていないという。

水産業界のあるべき姿はまだ見えていない

 フーディソンの原点は、水産業経験ゼロの山本代表がスーパーの一角から試験的に始めた直売所だ。

■関連記事

 何もないところから組みあがったものが、それぞれ着実に進んでいるように見える。水産業界における、水揚げから流通を経て、消費に至るという流れの強化の実感は山本代表に果たしてあるのか。

 「今、1個1個やっていて、改めて感じるのは、”魚は手堅い”ということ。おいしいものはちゃんと売れるという感じはある。だが、スピードの点ではやりたいことに対してできている感じはない。業界の俯瞰した画を理屈から紡ぎだす、片方だけでなく、両側面から見て、バージョンアップしながら実行していかないといけない。経営のスピードでいえば、3年目で至れるところまで、あと1年以上は縮められたのではないか」

 当初からフーディソンが見ていたのは、生産者と消費サイドをつなぐ最適化されたプラットホームとしての機能そのものだった。データや現場感覚での理解、客の反応から類推してきたが、10年後の業界像はおぼろけながらあるかどうか、理屈で詰め切るのがまだ難しいと山本代表は苦い表情を見せる。

 「この先もいけるという感覚はあるが、水産業界の最終であるべき姿はまだ見えていない。社外取締役であるボードメンバーとは経営者視点のコミュニケーションを定期的に行っているが、課題感を常にもっている。まさに井の中の蛙だった。もともと戦略はあると思っており、業界内の情報、手にできる情報は並べられているが、最適な戦略が練れているかというと、そうではなく、十分ではない」

 以前よりIT化は進み、流通での課題も今後市場での機能を中心に最適化の動きがあり、精度はそれぞれ上がっている。自社の持つべきビジョンを認識していないわけではない。だが、要素を区分けしきれていなかったことがわかったという。長期視点を持って業界内での動きを突き詰め続けることで、もっと効用を提供できたのではないかと山本代表は語る。現状のフーディソンは、じつは小売店と飲食店を起点にした学びでしかない点が問題となっている。

 「参入戦略としてはよかった。ウェブだけを見て勘所はここだ、という練り上げは実態をつかめていないから不可能だったため、実際に鮮魚を取り扱ってみた。ただし、そうしたあとで、関係する飲食店の数を増やせばいい、店舗を増やせばいいという話ではない。参入をしたあとの世界を、正しく戦略を描ける構造が重要。たとえばこのまま進んでいっても、水産業のなかに大きく存在する”養殖”にはたどりつかない。全流通の2割をにぎっている養殖だが、現時点のままだとそこは課題が残ったままになってしまう。もし10年後に気づくようなことになると、きちんとそこまでの地図を描いたほかの企業には負けてしまう」

 フーディソンはそもそも、現状の業界構造破壊による入り込みを目的としてはいない。すでにプラットホームとしてできあがった日本を代表する文化の1つとも言える水産業を現在に最適化させるビジョンを持つ。マーケティングでの売り上げ増、IT化での効率化、流通の最適化などそれぞれを推進させるだけでは、ピースがまだ足りないというわけだ。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事