平成27年度の採択者と技術課題
・名前:青砥 隆仁さん
・技術課題名:物体の弾性力や粘性力を撮影可能な次世代カメラの開発
・内容:コンピュータが発達することによって、カメラは新たなステージへと進化しようとしている。従来、カメラはシーンの映像を単に記録するだけのモノであった。しかし、今、コンピュータで後処理することを前提に撮像系を一から見直すことにより、カメラは、物体の温度・物体の形状・物体の材質を撮影可能となった。本プロジェクトでは、カメラの歴史の中において未踏の地である物体の感触「粘性・弾性」を撮影可能なカメラを開発する。これにより、医療分野における触診の定量化、内視鏡手術時など人の手で直接触診できない患部の触診、一般家庭における生鮮食品の鮮度や熟成度の簡易測定などが可能となる未来を目指す。
・名前:伊藤 祐司さん
・技術課題名:PROCESS WARP分散処理システムの開発
・内容:既存のウェブサービスを含むオンラインシステムのほとんどは、クライアント/サーバーシステムであり、サーバが不可欠だった。本研究では特定のサーバーを持たず、既存システムでのクライアントを含む任意のデバイスが持つ処理能力を統合したプログラム実行環境の実現を目指す。 それにより、オンラインシステム利用者の計算資源を利用してサービスプロバイダーの計算資源を補い維持コストを低減したり、耐故障性を高めるなど、柔軟な計算資源の活用が行えるようになる。 オンラインシステム以外にも、特定のリーダーの計算資源に依存せずにロボット群の制御するなど、様々な分野での活用が期待できる。
・名前:宇田 道信さん
・技術課題名:電子楽器ウダーの次世代フラグシップモデル開発
・内容:ウダーは単純なインターフェースを持ち、バイオリンのような無段階音程とピアノのような和音演奏性を両立させた電子楽器である。西洋音楽から民族音楽まで、あらゆる音律を演奏できる。すでに実用レベルのウダーは完成しているが製造コストが高くウダー発展への大きな妨げになっている。本プロジェクトでは低コスト化と高性能化を狙うため、これまでとは方式を大きく変えた電子楽器ウダーを開発する。ウダーが普及すれば西洋音楽とそれ以外の音楽の融合や、まったく新しい音楽の創造への貢献が期待できる。
・名前:大嶋 泰介さん
・技術課題名:かたくてやわらかい/やわらかくてかたい物質をつくる(構造であらゆる弾性特性をつくるための情報環境)
・内容:剛性の高い物質に構造を加工することで、かたさとやわらかさの2つの性質が両立する物質をつくることができる。本プロジェクトでは、やわらかさとかたさの2つの性質を同時に持つ物質の弾性特性を構造によって設計・製作するためのシステムを構築をする。具体的には、次の2つの課題に取り組む。
[1]2次元弾性体の弾性特性を構造によって設計・製作するシステム
[2]弾力をともない展開する剛体折り紙の設計・製作システム
提案するシステムが実現すれば、3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーション機器を用いて直接的に狙った弾性特性を持つ“かたち”(構造)を出力することができる。
・名前:堅山 耀太郎さん(協力・協賛企業マッチングプログラムは欠席)
・技術課題名:生物に着想を得た分散アルゴリズムの構築と実装
・内容:個々の細胞が独立して意思決定を行ないながら全体として機能を保っている生物の情報処理を参考に、P2Pシステムやウェブサーバー群などの効率を向上させるアルゴリズムの研究を行なう。生物の情報処理には、情報伝達の制限がある中で賢い振る舞いを行なうことができる仕組みが備わっている。これらの情報処理は長い進化を経て処理の複雑性によるコストと性能のパフォーマンスが最適化されていると考えられる。一方、インターネットやP2Pシステムはアーキテクチャの設計上の理由から、巨大なウェブサービスを支えるサーバー群は規模の拡大によって、生物と同様に個々のノードがすべての情報を把握できないようなシステムになっている。幾つかの生物の情報処理のモデルから、コストとパフォーマンスのバランスのとれた実用的なキャッシュアルゴリズムを考案・実装し、実際にシステムのパフォーマンスを向上させることを目指す。
・名前:川口 一画さん
・技術課題名:次世代の異能を育てる。誰でもハードウェアの仕組みを学べるモジュール型玩具の開発。
・内容:本提案では、“誰でも簡単に”ハードウェアの仕組みを学べるモジュール型玩具を開発する。これにより、子供を中心としてハードウェアへの関心を向上させ、ハードウェア開発の裾野を広げていくことで、次世代の異能な人材を育てるきっかけとする。具体的には、ハードウェアを機能単位に分解したモジュールを組み合わせて、様々な機能を実現可能な玩具「Hikari×Tsumiki(ヒカリツミキ)」を開発する。このようなモジュール型玩具としては既にいくつかの先行事例があるが、本提案ではモジュール間の通信に目に見える有色光を用いることで、小さな子供から高齢者まで、誰でも直感的に理解できるインターフェースを実現する点を特徴とする。異能vationにおいては、音や光、加速度などの複数モダリティーの情報を、光を媒体として伝達するプロトコルの実装を中心に、これまでの試作で見られた課題の改善を行っていく。
・名前:久保 友香さん
・技術課題名:シンデレラテクノロジーのための、自撮り画像解析による、女性間視覚コミュニケーションの解明
・内容:リアル世界で個人は組織に守られることが多いのに対し、バーチャル世界では個人が公にさらされ、危険である。しかしそれを苦ともせず逆に楽しみ、物理的・社会的制約の少ないバーチャル世界で手に入れた成功で、リアルな夢を実現している、若い女性たちが日本には多くいる。古くは“平仮名”、インターネット時代の“絵文字”や“自撮り”など、日本の若い女性たちは、どんな困難に直面してもしたたかに、シンプルで普遍的なコミュニケーションを、編み出してきた実績を持つ。そこで本課題は、まずフィールドワークとインターネット上のデータ解析の2種類のアプローチから、バーチャル世界とリアル世界をうまく渡ることに成功している、日本の若い女性たちのコミュニケーションを観察、モデル化、分析を行なう。彼女たちのコミュニケーションの法則を定量的に抽出し、それを再構成した新しいコミュニケーション技術の設計をする。
・名前:土谷 健一さん
・技術課題名:ハエトリグモの視覚特性を応用したコンピュータビジョン
・内容:地球上には多様な生物が存在し、それらすべての生物が人類と同じ世界を見ているとは限らない。
本研究の目指すところは、生物多様性という視点に立ち多種多様な生物の視覚情報処理について理解することで、新しい画像処理アルゴリズムを創造し、問題解決アプローチの足がかりとなること。
その1つとして、今回はハエトリグモの視覚特性に注目し、その正確な奥行き(距離)検知メカニズムをコンピュータビジョンを用いて模倣することで、先端技術への活用を図る。
・名前:中村 正裕さん
・技術課題名:遺伝子発現量やエピゲノムデータを画像化し、細胞らしさの識別や検索を可能とするプラットフォームの開発
・内容:本研究では、生命科学研究データを誰にとってもより親しみやすいものにするため、多くの研究者が扱う「遺伝子発現量」やその制御をつかさどる「エピゲノム」を対象として、データを分かりやすく画像化し、検索を可能とするプラットフォームを開発する。「遺伝子発現量」や「エピゲノム」のデータは行列情報で表されるが、大量のデータを概観し調べることは困難で挑戦すべき課題だ。データを画像情報に変換し、データが織り成す画像を美しく表現することで、生命現象の新たな理解に挑む。また横断的な検索を可能にして、研究データを楽しく理解するだけではなく、細胞本来の健康な状態(細胞らしさ)を識別できるようになる。研究者にとっては、他研究者のデータを再発見し、再生医療やがん治療といった難解な課題を解決する糸口となりえる。このプラットフォームを活かし、より具体的な健康状態の把握や治療の提案が行えるようにしたい。
・名前:神田 沙織さん
・技術課題名:FAB OF/FOR/BY THE GIRLS—3Dプリントに特化した表面加工技術のレシピ化—
・内容:3Dプリント市場の多様性を広げるため、主に女性ユーザーにとっての参入障壁の原因を「完成(感性)度の欠如」つまり「仕上げの差異」といった視点から検証し、10種の3Dプリント材料と10種の仕上げ加工を組み合わせ100通りの標本を制作する。
仕上げの技術には塗装や磨き、削り、転写といった分類があるが、特定のプロダクトに限定され、3Dプリントに試すチャンスがないものも多くある。このプロジェクトでは、個人でも取り組むことのできる張り子や顔料塗装といった仕上げ加工や、町工場で行われている小ロット加工法などの中から、3Dプリントに適した表面加工技術をレシピ化する。
各レシピでは仕上げに必要な材料や器具、工場などをできるだけ具体的にまとめ、ワークショップや展覧会で体験の場を作り、幅広いジャンルのクリエーター個々の感性による、身近なユーザーのための共感的ものづくり文化を誘発する。
・名前:古澤 洋将さん
・技術課題名:高信頼性組込OS
・内容:ロボットや生体等への適用が可能な、高信頼性組込OSを開発する。
従来の組込OSと異なり、超軽量実装と超小型MPUへの適用を意図し、これまでOS(プラットホーム)の存在しなかった分野への進出を目指す。
この極めてシンプルかつ実用的な組込OSによって、ロボットだけでなく 医療・福祉分野や農業・畜産分野の新規事業と雇用創出を目指す。
・名前:保坂 聡孝さん
・技術課題名:音の謀略を解明する
・内容:音は過去から現在まで普遍的に"存在"している。それは自然界の木々が風に揺れる音や、動物が発する鳴き声から、シンセサイザーのような極めて人工的な音だったり、12音階でできた素晴らしい音楽であったりする。このように進化した音は映画やゲームを大きく盛り上げたり、音楽療法としても"使用"されるに至っている。それら音は使用される事によってヒトにいつの時代も大きな影響を与え続けていた。 本研究はそのような「音がヒトに与える影響を解明する」というこれまでありふれた研究ではなく、それを更に洗練、進化させ既存とは異なるアプローチ方法と、先進的な計測方法で影響を測定し解明する。 それによってもたらされる技術は、人がヒトでなくなり、人類の行き詰まった文化を大きく飛躍させる可能性と、文明を崩壊させる可能性すらも示唆する。この技術が前者の未来を描くことができるよう、お祈りいただきたい。
・名前:松本 光広さん
・技術課題名:空間を感じる超人化スーツの実現
・内容:人が、人に及ぶ物体を介した危険を回避するために、人の周りの全方向にある 様々な物体と物体までの距離を、人の皮膚における触覚を通して全方向同時に瞬時に認識できる、空間を感じる超人化スーツを実現する。
・名前:湊 雄一郎さん
・技術課題名:量子コンピュータと人工知能。量子アニーリングアルゴリズムのディープラーニングへの応用。
・内容:2011年カナダにて世界初の商用量子コンピュータが発表された。超電導技術を使って冷却しながら計算を行うこれまでとは全く違う概念でできているこのコンピュータを構成する理論およびデバイスには1980年、90年代に日本で生み出された多くの基礎技術がベースとなっている。過去日本が行ってきた超電導技術・半導体技術・ナノテクノロジー・材料科学などの技術開発や先行投資が世代を超えて21世紀に活用され、そして新しい世代が持つ情報通信技術を組み合わせることで初めて量子コンピュータは実現する。具体的な技術課題として、量子コンピュータの制約から導き出された論理回路を元に実産業の要請と課題解決において的確な解法を提供し、そして「組み込みグラフ」や「QUBO」など新しい学術分野を活用して機械学習への応用を人工知能と組み合わせることで自動車・ロボティクスなどの製造業を効率化し実生活に対して貢献を行うことを目的とする。
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