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現代版"藩札"がもたらす共存の自然的経済システム

地方創生にブロックチェーン活用 Orbが挑む独自通貨システムとは

2016年02月26日 07時00分更新

SmartCoinは現代の"藩札"

 ここでOrbが現在、事業の核にしようとしているソフトウェア基盤『Orb』について簡単に触れておこう。

 Orbは非中央集権型、つまりピアツーピア(P2P)型のクラウドプラットフォーム(PaaS)だ。コア部分にはブロックチェーン技術を採用しており、その上にゲートウェイとしてAPIとSDKが配置されている。PaaSの上のレイヤにはSaaSとして、だれでも簡単に仮想通貨を発行・運用できる『SmartCoin』があるように、今後はその他のサービスも計画中だ。

 Orbが非中央集権型にこだわるのは、中央という強力な認証機関をベースにした一極集中型の経済システムでは「勝者と敗者がつねに生まれ、世界から対立構造がなくならず、不安定」だという仲津氏の強い信念に基づいている。もし、さまざまな地域経済圏が独自通貨をもちながら自律分散的に共存共栄していけば、対立ではなく共存を成長ベクトルとする経済システムの一助になるというのが仲津氏の持論だ。

 よく言われるように「金融は社会の血液」という言葉が本当ならば、人間の血液と同様に金融(貨幣)も減価償却されるべきではないのか。長期間に渡って使われたモノの価値は自然と減じていくはずなのに、貨幣だけがその理(ことわり)を拒否している現在の経済システムはやはり問題があると仲津氏は語る。「非中央集権型」の基盤ソフトであるOrb上で稼働する「自然減価型」通貨ソフトウェアのSmartCoinは、その問題解決に向けた一手段だ。

 「すでに日本は江戸時代に藩札という地域通貨のシステムを確立していた歴史がある。各藩は、自藩内のB2C、及びB2B決済を藩札で行うことで経済を囲い込み、自給自足率を高め、自藩内の産業育成を実現していた。Orb上で稼働するSmartCoinはいわば”電子版藩札”としてデザインしている。うまく活用すれば地域通貨がふたたび日本でも実現する可能性は非常に高いと思っている。現在でもドイツやスイスにおける自然減価型地域通貨の取り組みが知られており、それらは一定の成功を収めている」(仲津氏)

 江戸時代に発達した藩札は、世界でもまれに見る地域経済圏の成功例として知られている。江戸幕府という中央集権政府が発行する通貨と並行して、各藩が引き換えを保証する紙幣としての藩札が流通し、地域経済・産業育成を活性化させていた。ブロックチェーンのような"横の信用"をベースにするP2P型ネットワークが日本人のメンタリティになじみやすいことを示しているとはいえないだろうか。

 OrbのSmartCoinのように、ブロックチェーン技術をベースにした仮想通貨システムに興味を示す金融機関は少なくない。とくに地方銀行からの問い合わせが増加していると仲津氏は語る。

 現在、地方銀行も含め、国内のすべての銀行系システムは「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」につながっている。全銀システムのホストコンピュータを真ん中にし、放射線上に多くの銀行が接続されているという、非常に強力な中央集権型のシステムだ。地方銀行が、自ら地域通貨を実現するために、新たにこの仮想ホストコンピュータとなるバックエンドを作りこむのは彼らの体力/技術力では難しい。

 そこで注目されているのがブロックチェーンに代表されるP2P型の技術だ。Orbもこの動きを受け、利用者に向けたインセンティブ設計を仕込みながら「マクロな地域通貨ネットワーク実現」に一役買おうとしている。

 地方創生が叫ばれて久しいが、ヒトもモノも東京への一極集中が続く時代に地方が独自性を出していくことはかなりハードルが高い。だが現代版"藩札"となる地域通貨が普及すれば、さまざまな可能性が生まれる。

 前述の欧州の成功例のように「円ではなく地域通貨を使えば税率が安くなる」といったインセンティブなどでの工夫を取り込めば、人材の定着にも効果が出ることが考えられる。

 「地域通貨を普及させるにはバックエンドが作りこまれていることが絶対条件になる。Orbがその基盤になれるようにさらに開発に注力していきたい」と仲津氏は改めて強調する。

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