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現代版"藩札"がもたらす共存の自然的経済システム

地方創生にブロックチェーン活用 Orbが挑む独自通貨システムとは

2016年02月26日 07時00分更新

 ここ半年ほどの間で国内でも急激に認知度が高まっている"ブロックチェーン"技術。折しも金融ITのイノベーションを象徴するFinTechブームにも乗り、IT業界のみならず広く一般社会からの関心を引いているのは周知の事実だ。つい先日(24日)には、ビットコインなどの仮想通貨について、国内の貨幣として財産的価値を定義する法案が国会提出へ動いたというニュースが駆け巡ったばかりだ。

 だがその一方で、ブロックチェーンに対し懐疑的な視線を向ける人々も少なくない。理由はおそらく「ブロックチェーン=ビットコイン」というイメージがかなり強く刷り込まれているからではないかと推測する。貨幣という現物をもたないビットコインのような仮想通貨は、ただでさえ疑いを呼びやすく、一般からの理解を得ることが難しい。その上、2014年に起きたMt.Gox(マウントゴックス)の一連スキャンダルは「ビットコインは詐欺まがいの技術」という印象を植え付けるには十分なインパクトをもっていた。

 だが、もし、人々が信頼しきっている貨幣経済システムこそが実は戦争や環境破壊などの要因になっていると仮定したらどうだろうか。「金融の世界を知れば知るほど、現在の貨幣経済システムには問題があり過ぎるという確信に至った。世界には新しいかたちの経済システムが必要」、こう語るのは現在、ブロックチェーン技術を利用したクラウドベースの仮想通貨プラットフォーム『SmartCoin』をベータ展開するOrb(オーブ・旧コインパス)の仲津正朗CEOだ。

 「ソフトウェアの力で人類に共存をもたらす自然経済システムを構築する」という大きな目標を掲げ、スタートアップとして新たな市場の開拓に挑む仲津氏に、ブロックチェーンと仮想通貨システムの可能性、そしてOrbが現在取り組んでいる地域通貨構想についてお話を伺った。

Orbの仲津正朗CEO

祖父のDNA、シリコンバレーでの経験
起業へと導いたいくつもの要因

 大学で金融を学び、卒業後は金融機関に就職、3年目にはウォール街に転勤になるなど、順調にキャリアを積んでいた仲津氏だったが、大学時代から抱いていた貨幣経済システムへの疑問は、金融の世界の中心にいればいるほど強くなっていった。

 現在の金融システムは中央集権型であり、それがゆえに競争原理が強く働き過ぎるきらいがある。力なきものを淘汰するような対立型ではなく、無限に横へ横へと拡がっていく共存型の経済システムを作りたい――そう考えるようになった仲津氏は、金融業界を離れ、大学に戻るか、起業に踏み切るかの選択をすることになる。

 最終的に起業の道を選んだのは「あまり勉強が好きなタイプじゃなかった(笑)」ことに加え、祖父・仲津甚九郎氏が起業家(国内で唯一、金属製の笛を製造していた仲津製作所の創業者)だったことが影響したという。

 もっとも、金融業界を辞めてすぐに起業したわけではない。世の中の仕組みを変えるようなイノベーションに挑む場合は「どのタイミングで起業するかが非常に重要」(仲津氏)になってくる。タイミングを間違えてしまえば、どんなに高い理想を掲げていても市場に受け入れられる可能性は低くなる。また、新しいかたちの経済システムを作るなら、テクノロジーに関する幅広い知識も求められる。

 当時、まだ自分には起業のノウハウもITの知識もないと判断した仲津氏は、セブンネットショッピングで3年ほどプロダクトマネージャーとしての経験を積み、その後、シリコンバレーでキュレーションサイトの会社を立ち上げている。

 仲津氏がOrbの前身であるコインパスを起業したのは2014年。ビットコインの考え方に初めて触れたのは、それより以前のシリコンバレー滞在中の2012年に読んだサトシ・ナカモトの論文だった。

 「検索エンジンもソーシャルメディアもシリコンバレーで生まれた技術。シリコンバレーが本気でかついだ技術は必ずグローバルにマーケットが形成される。直近なら電気自動車のTeslaがいい例。今や大手自動車メーカーも製造に乗り出している。ビットコインの論文を読んだとき、”ついに通貨システムの問題を解決できるチャンスが来た”と強く思った」(仲津氏)

 起業の決意を固めた仲津氏だが、市場として選んだのは高く評価するシリコンバレーではなく日本だった。その理由を聞くと「グローバルで勝つため」だという。グローバルで勝つことが目標なら、なおさらシリコンバレーのほうが優位だったのではないだろうか。

 「重要なことは、北米市場を如何に取るかということ。2013年にNASDAQ上場を果たしたCriteo(クリテオ、リターゲティング広告のスタートアップ)はフランス発の企業。情報戦略によって、プロダクトの情報を北米の潜在競合に漏らさず、競争の少ないヨーロッパ市場で鍛え、さらにしっかりとした収益源を確保し、チームの体力を十分引き上げたうえで、北米市場開拓に必要なトップティア人材を現地で獲得し、一気に攻める」と仲津氏は答えている。

 最初から激しい競争に揉まれてビジネスを疲弊させるよりも、おだやかな市場でローンチし、徐々に世界を目指していくアプローチを選んだのだ。現時点ではその狙いはうまく進んでおり、資金調達なども順調に運んでいる。

 だが日本で仮想通貨技術の会社を起業するというのはかなりリスクが高いように思える。これについて仲津氏は「セブンネットショッピングでの経験が役に立った」と振り返る。「マーケットオポチュニティーのないところではさすがに起業できない。だがセブンアンドアイでE-Commerceや電子マネー事業に関わった"土地勘"が起業の判断を後押しした」(仲津氏)

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