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月間30億円超の取引額に成長したビットコイン取引所

「勝算はないからやめておけ」猛反対の中でビットコイン市場を開拓したcoincheck

2016年02月19日 07時00分更新

ビットコイン取引所から決済へと

店頭でのcoincheck決済可能を示すステッカー

 話を元に戻そう。国会議員や関係省庁などとの交渉は、レジュプレスを含むビットコインサービス事業者であるbitFlyer、Kraken Japan、コインパス(現Orb)、レジュプレスの4社が、一般社団法人日本価値記録事業者協会(JADA)を設立して対応した。サービスの利用者が5万円以上の取引をするときは本人確認を行うことや、レバレッジの範囲を決めるなどの自主規制を設け、健全な業界を育てていく道筋をつくるためでもあった。

 「法律上のグレーゾーンが多く、サービス事業者のやりたい放題とも言える状況だったため、事業者同士が大人の対応を取ろうということで結束し、セーフティーネットを設けるなどの取り決めを行った。背景には、FXの歴史から学んだことが大きく影響している。FXには以前、無法地帯とも言える時期があり、大損をした人が多く生まれ、イメージが悪くなっていた。ビットコインではその二の舞を踏まないようにしたかった」(大塚氏)

 1つずつハードルをクリアしてスタートした新サービスcoincheckでは、主に2つの機能を提供することに注力した。1つは日本円とビットコインを交換する「取引所」。もう1つはビットコインを支払いの手段として使ってもらう「決済」である。

 ニーズとして先に立ちあがったのは取引所だ。ビットコインを為替の一部として見るマーケットであり、投機的な目的で利用されている。

 レジュプレスにとって取引所で得られる収益は手数料である。ビットコインを売りたい「メイカー」が価格を提示し、その提示価格でビットコインを買いたいという「テイカー」がいる。レジュプレスはこのテイカーから取引所としての手数料を得る。利用者が増え、取引額が増加するとレジュプレスの収益も向上する仕組みだ。

 「あまり知られていないことだが、FXをする日本人は多くいる。そういう投資家たちにとってビットコインは、FXや先物取引と同じ位置にすえられてきている」と大塚氏は分析する。

 ただ、取引所を単体で見れば、その機能は最終的にコモディティ化してしまう。差別化要素がなくなったサービスは価格競争におちいりうる。それはFX業界の歴史が教えてくれている。そこでレジュプレスは選ばれる取引所を維持するために、STORYS.JPの運営で培ってきたユーザーエクスペリエンス向上のためのノウハウを磨いている。

ユーザーからの声に応えて、coincheckのブログでは最新アップデート情報を日々配信している

 例えば、ユーザーインターフェース(UI)。レジュプレスの取引所のUIはシンプルで使いやすいといった評判を得ており、APIもエンジニアフレンドリーに仕上がっている。「将来的に取引所として選ばれ続けるのは、ユーザーフレンドリーな方だという考えがある。そのためにユーザーエクスペリエンスの質を高めている」と大塚氏は語る。

 現在は取引所のマーケットが先に立ちあがった形だが、大塚氏らが将来に狙っているのは決済だ。クレジットカードの加盟店にとってカード決済の手数料は3~5%かかるが、coincheckが提供するビットコイン決済(coincheck payment)ならば1%で済む。こうしたことが評価され、すでに1,000を超える店舗でcoincheck payment を利用してもらえるようにもなった。2月末には数千万のユーザーを抱えるEコマースへの導入も決まっている。

 また、ユーザーに対するサービスにも自信を持つ。「スマートフォンのアプリを使い、ビットコインで支払えるような仕組みを持っているのは国内で当社のアプリだけだ」と大塚氏は胸を張る。

 ただ、ビットコイン決済が向いているのは、リアルな店舗よりもEコマース(EC)だと大塚氏は考えている。ビットコインがボーダレスな通貨だという点を考慮すると、ECの中でも海外からビットコインで支払いを受けるというビジネスモデルを持っているところが最も向いており、そういうところで利用が増えていくと普及が進むのではないかと見ている。

IT・スタートアップ業界で有名なawabarなどには早々からcoincheckが導入されていた

銀座にある回転寿司酒場「銀座沼津港」も導入店舗の1つ。外国人の来訪が多いため過ごしやすい環境作りにこだわっている

ビットコインは新しい市場を創る

 サービスの開始から1年以上たった今、周囲の対応が当初とは大きく変わってきているという。

 「『フィンテック』という大きな流れの後押しもあり、以前は金融関係者の中にも『ビットコイン=MTGOX=怪しい』と考える人が多かったが、ビットコインとMTGOXの破たんを一緒くたにして話す人はほとんどいなくなった。今そんなことを言う人は、金融業界では笑い者にされてしまう。銀行の口座を開設しようとしても、事業の説明をすると『様子を見させてください』と言われ断られていたのが嘘のよう」(大塚氏)

 だが、多くの日本人がビットコインで日常での決済を行うようになるまでにはまだ時間がかかると認識している。

 「現状では、圧倒的に取引所で得られる収益の方が多い。決済は人件費の面でも得られる利益は少なく、現在は数年後を見据えた投資時期だと考えている」

 将来を見据え、決済だけに注力すればいいという考え方もあるが、レジュプレスはその選択をしない。決済の機能しか持たない場合、ほかの企業が開設する取引所に依存することになる。そうなるとビジネス上の力関係が弱くなり、取引所側に命運を握られることになる。

 「僕たちにできるのは、良いサービスを提供し、ユーザーさんに支持され続けること。サービスのバージョンアップを繰り返し、ユーザーさんが僕らのサービスに価値を見出してくれれば、同業他社を圧倒できるようになる。その戦いは、2016年中には決着が付くと読んでいる」

 「ビットコインは旧来の銀行ビジネスを打ち崩す」などとあおるメディアもあるが、大塚氏らはそう考えてはいない。敵対する意識はなく、銀行では手が届かないところを受け持ち、共に繁栄していくことが合理的だと認識している。実際、金融機関とのアライアンスの話も数多いという。

 「今あるものは、一部解体・再発明されるが、大部分はそのまま成り立っていくのでは。ビットコインは新しい市場を生む可能性を秘めたものだと考えている」

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