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勉強へのやる気に満ちた泥臭いEdtech・センセイプレイスが気になる理由

2016年01月15日 07時00分更新

先生自身の看板で稼げる場をつくりたい

 センセイプレイスが解決を目論むのは生徒の勉強面だけではない。「先生が稼げる場をつくりたい」という考えもプラットホームのベースにある。

 塾講師の離職率は、飲食サービスなどと並び他業種と比べ高い水準となっている。生徒にかける指導以外での時間外業務の多さや、拘束時間の長さ、掲げる理想の教育とのギャップ、業界構造の面では個別指導型でのビジネスモデルが増えたことによる学生講師の増加、合否の評価が直接塾の評価に結び付くことからの経営の不安定さなどが理由に挙げられる。

 「優れた指導で生徒を何人も東京大学に送っているようないい先生でも、結果は塾の合格実績の数字に入ってしまう。がんばって生徒を合格させても、先生自身の看板にはならない」と庄司代表は問題点を指摘する。

 場所を選ばないこともあり、いい先生がどんどん指導できるのがセンセイプレイスのポイントだが、より最適なマッチングでの指導機会の増加、そして一人ひとりの先生へのフィードバックは、今後の課題となってくる。

 現在のセンセイプレイスでは、生徒側がログの投稿や経歴、生徒からの評価が書き込まれたレビューなどから先生を決めることになる。60分の無料体験指導をLINE@から申し込んだあと、保護者確認のうえで指導契約が結ばれている。

 1回の授業料はコマ単位での金額で、売り上げの15%がプラットホームの収益となるが、料金設定は調整中の段階だという。大学生講師だった先生に評価がたまって、プロとして継続できるような形がプラットホームとしての目標だ。

Twitter勉強アカウントの裏事情

PCを通して行う先生側の指導風景。

 サービス開始から1年にも満たない現在の流入は、Twitterが主。生徒からのアクションは”Twitterの勉強アカウント”からが中心となっている。

 勉強アカウントは、受験生同士がSNS上で励ましあってお互いのモチベーションを上げたり、学校の友人に隠れて自分の勉強の成果や勉強方法をTwitterやInstagramで共有するもの。高校生のTwitterユーザーのうち62.7%が複数アカウントを所持しており、それらは恋愛や学校、友人などアカウントによって使い分けが行われている。

 一部の先生は、センセイプレイス上での情報発信だけではなく、Twitter上で勉強アカウントに向けた情報発信を行っている。もともと講師として有名だった個人の先生や、勉強アカウントを持っていた先生は人気が高い。

 「友達同士で、勉強やってる?と聞かれて『やってねーよ。余裕だよ』と返事をしていても、心の中では『全然やってねー。まじあせる……勉強しないと』といったやりとりは、いつの時代でもあるもの。それがTwitter上の別アカウントに変わっているだけ。リアルではないつながり方だと、より本音が見え隠れする」と庄司代表は語る。

 実際勉強アカウントを作っている生徒は、親にも友達にも言えない悩みのはけ口をTwitterの勉強アカウントに求めるケースもあるという。中学校で勉強ができたが、高校で追いつけなくなったケースなど、理想と現状とのギャップが強い場合は何をすればいいのかわからなくなってしまう。

 「常に理想があるが、計画倒れになってしまい、できない自分につぶれていくケースを見てきた。彼らはがんばりたいが、周囲に言えない空気がある。そのような本当にがんばろうとしている子を応援したい」(馬場氏)

 生徒の熱量を引き出していくことを重視する同社だが、そこにはかつてオンライン上で同様の指導経験と、そこで感じた限界があった。

2ちゃんねるきっかけでの開塾とその限界

 庄司代表と馬場氏には、センセイプレイス以前に学生時代に起業したオンラインでの「道塾」という同じくSkypeを使ったオンライン指導を行う塾の運営経験がある。

 開塾のきっかけは、馬場氏による匿名掲示板2ちゃんねるへの投稿だ。「2003年当時、勉強の方法をネット調べてみると、集約されたものがほとんど出てこなかった。受験生を応援したいという気持ちから『早稲田への道』というスレッドを立てた」(馬場氏)

 ハンドルネーム”uさん”としてスレッド内の“生徒たち”への書き込みを続けていき、大学4年末に個人事業として馬場氏はオンライン私塾・道塾を起業する。2ちゃんねるの中で自然にできていた教え子たちの存在や、サークルの後輩が実際に「早稲田への道」を見て入学していた事実が後押しとなっていた。

 道塾は受験生を対象に、2007年からの6年間で約1000人の生徒をネット上で指導。先生は現役大学生がほとんどで、多いときには50名をリアルな校舎に抱えていた。売りは8カ月で志望校に合格させるというもので、集めた生徒は学校をやめたようなドロップアウト組が中心。当時、珍しいストーリーでできあがった塾は大手マスコミにも取り上げられ生徒の流入も増えた。

 だが、事業を継続していく過程で変化が起こる。当初は志望校に合格させるゴールだけを追い求めていたが、一方で学ぶことそのものの姿勢を生み出すこと自体も重要なのではという”ブレ”が馬場氏ら経営陣のなかで生じた。ビジネス的には黒字の無借金経営を続けていたが、社内でのぐらつきによって道塾は2013年に終わりを迎える。

 また一方では、合格の喜びを伝え合うようなコミュニケーションの広がりも見えなかったという。「集まった生徒は、(ドロップアウト組が中心だったため)そもそも合格したことを周囲に言いたくないため、口コミがまったく広がらなかった」(馬場氏)

 センセイプレイスは合格という結果にフォーカスするのではなく、勉強する過程そのものを共有し、広げようとしている。「一般の塾や個別指導とは持っている視点が違う。結果ではなくプロセスにフォーカスしてみると、自然と指導法が変わっていく。結果、どう考えていけばいいのだろうか、と生徒自身が変わる」(庄司代表)。

(次ページ、運営経験の先にある教育での課題とは)

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