ひさびさに家に帰ると、昔の思い出がそのまま残っていたりします。
先日、実家に帰ると、自分の部屋がきれいに片付けられていました。いつ帰ってきても、僕が使えるようにするため(作業をしたりベッドで寝たり)という親の配慮です。ふと机の横を見ると、なにやら大きいダンボールが、どっかりと存在を主張していました。それが目に入った瞬間、僕は思わず声を上げてしまったのです。
「あっ、iMacだ!」
ボンダイブルーの未来が家にやってきた
1998年、12歳の誕生日プレゼントに買ってもらったのが、ボンダイブルーの初代iMacでした。
雑誌ではじめてiMacを見たときの衝撃を、忘れることはできません。コンピューターといえば地味なグレー系……という固定観念を破壊するような、ボンダイブルーと半透明の白のツートーンカラー。パソコンともテレビともつかぬ、近未来的で、キュートな形状。
なんだこれは? パソコンなの? 「あいまっく」? マッキントッシュってやつか? しかし……とにかく……これは……欲しい……!
実家が歯科医だったので、家には事務用のコンピューターがありました。それを見るたびに、自分のパソコンが欲しいとうっすら思っていたのです。そこに現れたのが、あまりにも斬新なiMacでした。WindowsとMacintoshの違いすらよくわからない自分にとっても、ただただ「欲しい」パソコン。
子供に買い与えるには、決して安いものではありませんでした(確か18万円弱だったと記憶しています)。しかし僕は、両親の前で必死に拝み倒し、これからパソコンの時代だ、いろんなことに使い倒すから……と頼んで、頼んで、やっとOKをもらったのです。
そして誕生日の当日。帰宅した僕の部屋の上に――おそらく両親が子供には難しいと判断し、電器店のスタッフがやってくれたのでしょう――セットアップ済みのiMacが置いてあったのです。
あの瞬間のワクワクは、未だに忘れられません。オレンジ色の夕日が、カーテンの隙間から射し込んで、iMacのボンダイブルーを照らしています。僕は急いで駆け寄り、電源ボタンを押しました。「ジャーン!」というMac特有の起動音が、鼓膜を小さく、しかし確かに揺らしました。
もう、夢中になりました。フォルダーを作る、ゲームをプレーする、壁紙を替える。それだけのことが、12歳には新しかった。初めてインターネットに繋ぐときに、電話線を挿して、スピーカーから「ピーヒョロロー、ビィーンビィーン……」という音が聞こえた瞬間など、自分が新しい世界に繋がっていくような感動さえ覚えたものです。
こんなこともできるんだ。あんなこともできるんだ。丸いマウス(iMacのマウスは本当に丸かったんです)とトランスルーセントのキーボードがくたくたになるまで、毎日、触っていました。
もっとも、当時の僕は、何も知りませんでした。スティーブ・ジョブズの名前も聞いたことがありませんでしたし、フロッピードライブがないことも、インターフェースがUSBしか見当たらないことも、「そういうものか」としか思っていませんでした。幼かったですね。
そんな過去を思い出しながら、28歳の僕はiMacを箱から出し、軽く二、三度撫でたあと(そういう気分にさせるデザインなんです)、母親に聞きました。どうして、これはそのままにしてあるの?
「だって、これはねえ。捨てられないでしょ。かわいいもの」
母も、iMacを無機質な機械ではなくて、なんだかかわいいもの、という認識を持っていたようでした。コンピューターに興味がない家族にも、特別な印象を与える外見なんですね。
ワクワクするお買い物を、ひさびさに
それから、20年近く経ちました。iMacは銀色になり、自分のメインマシンはMacBook Pro。おそろしい進化です。でも、あのボンダイブルーの輝きは、今も自分の中で色褪せません。
アスキーで働いていると、膨大な量のPCを目にします。もちろん、スマートフォンも、タブレットも、周辺機器も、その他たくさんのモノも……。そして、いい製品、アツい製品を見たときには、ワクワクします。欲しい、と思います。触りたい。いじってみたい。自分のものにしたい。
その気持ちは、iMacを初めて見て、買って、使っているときの12歳のときの僕と、変わらないように思えます。そんなワクワクを探して、今もアスキーで仕事をしているといってもいいかもしれません。
実家でひさびさに触ったボンダイブルーのiMacは、ひさびさに当時の感動を思い出させてくれました。あれは単なるパソコンではなくて、12歳の少年に夢を見せてくれた、半透明の未来だったのです。
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