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「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」が始動

実物大ガンダムを動かす! アニメのかっこよさとリアルのせめぎあいを技術的観点から探る

2020年01月03日 09時00分更新

 2020年夏、山下埠頭にて開催予定の「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」で、実物大ガンダムを動かすプロジェクト「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」がいよいよ実現する。

 今回、企業の研究開発拠点が集積する横浜みなとみらい21地区で行なわれたイノベーションの交流イベント「横浜ガジェットまつり2019」において、このプロジェクトについて現実のテクノロジーと結びつけた際の課題を技術者視点で語る「技術~機動戦士ガンダムに見るアニメーション表現に必要な設定とリアル」が開催された。

 このトークショーでは「ガンダムGLOBAL CHALLENGE」に携わるクリエイティブディレクターの川原正毅氏、テクニカルディレクターの石井啓範氏、それから株式会社サンライズの佐々木新氏が登壇。アニメにおけるガンダムの動きを実物大ガンダムで再現するための技術や課題が語られた。

登壇された川原正毅氏(左)、石井啓範氏(中央)、佐々木新氏(右)

実物大ガンダムを動かす「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」

 生誕40周年を迎える「機動戦士ガンダム」。いまから10年前の2009年、18mの実物大ガンダムがお台場潮風公園に登場し、期間限定で公開され、415万人の方がその見学に訪れた。その披露目パーティーの際、富野由悠季監督から「次は絶対動かせよ。せめて屈伸くらいはしろ」と言われたという佐々木氏は、この40周年でどこまで動くかわからないがリアルなガンダムが動くことにチャレンジしてみたいと考えたという。

 そこで動き始めたのが「ガンダムGLOBAL CHALLNGE」。2014年7月にスタートしたこのプロジェクトは、18mの実物大ガンダムを動かすアイデアをグローバルに募集。2015年2月までに行なわれた第一次募集の結果を踏まえ、オープンイノベーションによる第二次募集を実施した。そして昨年実施された機動戦士ガンダム40周年プロジェクト発表会では2020年夏から1年間、横浜・山下埠頭で「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」を開催し、その中で実物大ガンダムを動かすことが発表された。

「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」

「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」©創通/サンライズ

 「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」のイメージビジュアルではガンダムが片足を上げて歩いている様子が描かれているが、これはこうなるといいなというクリエイターからの発信であり、これを実現するかどうかはヒミツだそうだ。今回のトークイベントでは、動く技術を担当している石井氏を中心に、現実のテクノロジーで実物大ガンダムを動かす場合の課題などについて語られた。

「機動戦士ガンダム」で見る検討材料

 トークショーでは川原氏をファシリテーターに、技術関連を石井氏、アニメの観点からの意見を佐々木氏が答える形で進行された。まずはアニメ「機動戦士ガンダム」のアニメ映像を観ながら、それをリアルに登場させた場合の技術的側面について語られた。

クリエイティブディレクター 川原正毅氏

テクニカルディレクター 石井啓範氏

株式会社サンライズ 佐々木新氏

 ここでは「機動戦士ガンダム」第1話「ガンダム大地に立つ!!」の映像が映し出され、アムロがガンダムに搭乗し、トレーラーから立ち上がる有名なシーンについて佐々木氏が解説。このシーンでは輸送用のトレーラーに積まれたガンダムが上体を起こして立ち上がるが、この動きは人間ではほぼ無理であり、足を伸ばしたままでは立てないし、制御が難しいという。また、人間の関節の可動域は広いが、そのくらいの可動域がないと立ち上がるという動作を実現できないそうだ。また、よくよく観てみると、アニメでは実際に起き上がるところは描かれておらず、途中をうまく省いており、このような点がアニメの演出であり、実際との違いとなる。

 さらに立ち上がったガンダムは目の前にいるザクをバルカンで威嚇した後、平然と歩いているが、ここはさらっと描かれている。起き上がる制御と歩くための制御は技術的に別の課題であり、実現するのはすごい技術が必要だ。

かなりの尺を使ってガンダムを立ち上がらせているが、顔のアップなどのカット割りでどう立ったかはうまく省かれている

 ガンダムが立ち上がった後は、ジーンの操縦するザクがガンダムのバルカンの弾切れをみて、ザクマシンガンを構えながらガンダムに迫っていく。そこでガンダムはザクの口元についている動力パイプをつかみ、引きちぎり、ザクを後ろに突き飛ばすシーンへと続く。ここで佐々木氏が注目したのはガンダムの指の動き。金属製のパイプをつかんで引きちぎることのできるガンダムの握力、そしてこうした動きでは指に何十トンというパワーがないとできないと語る。

 指先の可動については、第2話「ガンダム破壊命令」で登場する、ガンダムの手にセイラが乗るシーンも紹介された。このシーンでは18mのロボットが人を包んでつぶさないことに言及。何十トンから何キロという力の制御ができているということが技術的にすごい点で、佐々木氏は油圧を使って力を制御する研究はあると思うがこれだけの幅があるのは桁違いの技術ではないかと語った。

金属製のパイプを引きちぎるパワーを持ちながら、人を包み込む繊細さも持ち合わせているガンダムの手

 また、第1話のパイプを引きちぎられたザクはその後つきとばされるが、ザクのコクピットは地表から約10メートルくらいのところにあるはずで、それが倒れるのは、その高さから落ちているのと同じだという。つまり、立体駐車場の3、4階から車と一緒に落ちるくらいのイメージであり、パイロットが普通にしているのはコクピットのショック防御がすごいのかも知れないといって会場を笑わせた。

 トークショーではほかにも「シャアザクが宇宙空間でガンダムを蹴るが、実際にやったら支えるものがないのでガンダムとザクがスゥーと離れていくはず」、「100メートル以上の高さからガンタンクが噴射だけで地上に降りるが、重さを考えると地表では隕石レベルの衝撃がある」などが紹介され、アニメで描かれたシーンとリアルの間をどう両立させるかがこのプロジェクト全般の課題。佐々木氏は「リアルすぎるとつまらないし、見に来てくれたお客さんも楽しめない。アニメからどうリアルに近づけられるかでたいへん苦労しているが、そこがたいへんであり見どころでもある」と「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」の取り組みの大変さと挑戦についてコメントした。

実物大ガンダムを動かす場合の課題はさまざま

 トークショーでは現時点ではどのような開発をしているのかは明かされなかったが、プロジェクトの概要と課題について簡単な解説が行なわれた。課題の中で注目したいのは、やはり自由度だろう。プラモデルなどでは40~50自由度となっているが、それをすべて乗せることはもちろんできない。これをどこまで再現できるかが課題だという。

 また安全性という点では、動かしたときの力、非常停止したときの力、また昨今大きな被害をもたらした台風などの強い風の想定しながら設計を行なっているという。風についてはクレーンの国際規格を基準にしているが、全高が18mあるので、風荷重だけで数トン~数十トンになる。ほかにも展示期間内に蓄積される疲労、動かしたときに揺れてしまうと印象がかわるのでそのたわみ量をどのようにするかなど、多くの課題があり、デザインとの両立も含めて苦労しながらも順調に進んでいると報告された。

実物大ガンダムを動かすための多くの課題

 最後に佐々木氏から「アニメサイドからの提案をしつつ、アニメと現実がからまりあったようなガンダムになっている。2020年をお楽しみに」とコメントがあり、石井氏からは「2020年に公開された際には苦労話を披露したい。お台場の立像を観て感動したように、今度は作る立場として10年前より感動していただけるようにがんばっている。期待して待っていてください」と語られ、イベントは終了した。

 なお、ガンダム公式 YouTube チャンネル「ガンダムチャンネル」では、40周年記念特別コンテンツとして「機動戦士ガンダム」を毎週追加配信中で、トークショーで語られた第1話・第2話を無料配信中。また、「動くのか?ガンダム 夢への挑戦!」として「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」のメイキング映像も配信されている。

(©創通・サンライズ)

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