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起業準備者を後押しする「かながわ・スタートアップ・ガイダンス」最終回

創業7ヵ月後でKDDIと業務提携 凡人でもイグジットできる起業法

2019年04月26日 08時00分更新

文● MOVIEW 清水

 これから起業する方のための起業啓発イベントである「かながわ・スタートアップ・ガイダンス」。当イベントでは起業家や投資家などをゲストに、さまざまな体験談やノウハウなどを聞くトークイベントを開催してきた。その最終回となる第5回目が、みなとみらいにあるWeWorkオーシャンゲートみなとみらいで2月26日に実施された。

 今回は特許庁 総務部企画調査課の貝沼憲司氏による知財セミナー、日本政策金融公庫 南関東創業支援センターの関谷善行氏による融資制度の案内、StartPoint社 代表取締役の小原聖誉氏による大企業へのバイアウトの体験談を語るセミナーが開催され、予定時間を大幅に超える情報量でトークイベントが開催された。

「かながわ・スタートアップ・ガイダンス」は、起業家コミュニティーを作り、起業しやすい環境作りを行なっている

なぜ今“Startups×知財戦略”か

 「企業価値は知的財産権に集約されていると言われている」と語り始めたのは特許庁 総務部企画調査課の貝沼憲司氏。このセミナーでは、お金や信用が足りないスタートアップになぜ知財が必要なのか、そして特許庁がそうしたスタートアップをどう支援しているかについて語られた。

特許庁 総務部企画調査課 課長補佐(ベンチャー支援班長) 貝沼憲司氏

 日米でスタートアップに関する表彰を受けたスタートアップがどれだけの数の特許を持っているかを調査したところ、アメリカでは設立時から特許取得を始め、各社が数十件の特許を持っているの対し、日本では知財が大事だと言われているLife/Bio分野で10~20件、IT系やサービス系では1件か2件しか特許を取得していない。貝沼氏は、数多く持っていればいいものではないが、そうした知財に対して意識があるかどうかが重要と語る。

日米のスタートアップ比較。横軸が創業からの年月、縦軸が特許取得数となっている

 日本では創業期に知財について考えている企業は2割と低く、後回しとなっているのが大半というのが現状だが、知財を持つことで独占的な取引ができ、他企業の参入を防ぐことができる点でとても重要だ。知財の役割はおもに連携と信用にあり、大企業とスタートアップが連携する際、大企業の知財部はスタートアップがどのような知財を持っているかを必ずチェックする。そのとき、第三者からのお墨付きである特許を持っていることは、スタートアップの信用となるので、連携を強化することができる。また資金調達においても、その知財によってどこに強みがあり、ビジネスにどう役立つかを説明するのは重要である。

 ここで貝沼氏は知財活用で成功しているスタートアップへのヒアリングによる知財戦略の例を紹介。3回タップするだけで株を購入できるサービスを行なうOne Tap BUYは、当初特許を取得していなかったため、サービス開始してすぐに真似をされて優位性を失ったという。それからは新しいサービスを立ち上げる際、まず特許を取得して参入障壁を築いてからサービスを開始するようにしているという。

 しかしなんでもかんでも特許を取得すればいいというものではない。特許を取るということはその技術を公開し、その代償として一定期間独占できる権利を得ることだ。公開されれば真似をされ、もっといいUIやUXなどが出てきたり、それをもとに新しい特許を取得されたらなにもならない。誰が見てもわかることについては権利を取得し、その構造がわかりにくいものは営業秘密として保持する、オープンクローズ戦略をとり、権利化するか秘匿化するかを区別することが重要である。

知財戦略の例。どの戦略が正しいというわけではなく、自社のビジネスにあった戦略を取ることが重要

 また、ほかの企業がどのような特許でどのような開発をしているかわかるパテントマップを作り、自社がどこを攻めていけばいいかを探すことができるようにしているのがFLOSFIA。このように知財戦略といっても各社その方法は異なるが、どれが正しいということもなく、自社にあった知財戦略が重要だが、スタートアップはその重要性に気付いていないと貝沼氏は語る。

 スタートアップで知財に意識を持っているのは2割ほどであり、貝沼氏はその割合をもっと上げたいという。また、スタートアップの課題には知財専門家に出会えない、自分にあった専門家がわからないという点もあるが、弁理士は1万人いるがこうしたイベントに参加する人が少ない、あるいは権利化などには長けているがビジネスに沿ったコンサルティングなどは苦手という状況があり、知財もわかってコンサルティングもできる弁理士を増やしていきたいと考えている。

スタートアップの知財への課題。特許庁ではこれを解消する取り組みを進めている

 そうした現状の中で特許庁はスタートアップを支援する取り組みを進めている。その柱は「情報提供」「スピード」「知財戦略」「海外展開」「カネ」の5つ。情報提供としては国内10社に海外の事例なども集めた「一歩先ゆく国内ベンチャー企業の知的財産戦略事例集」を提供。知財に注力している企業がどのように弁理士を活用しているか、またその活用事例などを収録している。

特許庁のスタートアップ支援。5つのテーマでの支援に取り組んでいる

 スタートアップはスピードが大事であるが、これまでの特許申請ではその取得に14ヵ月もかかっており、スタートアップの資金調達の間隔に合わない。そこで、すぐ権利がほしい人に対し、スーパー早期審査を開始した。これにより14ヵ月かかっていた審査期間が平均2ヵ月半となり、スピード感を持ってビジネスに活かすことができるようにした。また、面接活用早期審査という、審査官に会って話をする審査も開始。実際に話をすることで紙の上で審査するよりも理解しやすくなり、説得力も上がる。

特許取得までの期間を大幅に短縮するスーパー早期審査を開始

 また特許庁では、アクセラレーションプログラムを開始し、スタートアップに専門家を派遣し、チームを組んで支援する取り組みを開始している。出願業務や権利化に長けている弁理士に加え、ビジネスについての専門家を派遣して支援する。実際には、すでに権利を持っているスタートアップに対しては特許の穴がないかといったチェックや契約の不利な条件の見直しなどを行っており、創業期のスタートアップにはなるべく早い段階で知財戦略を持ってもらうように促すプログラムとなっている。

知財メンタリングチームを作ってスタートアップを支援するアクセラレーションプログラム

 海外展開についてのサポートでは日本でブートキャンプを行ない、海外でアクセラレーションを受けて最終的にピッチに参加するプログラムを実施している。講師やメンターは海外の現地アクセラレーターが当たる。地域としては2019年度はアメリカのシリコンバレー、ヨーロッパのバルセロナ、中国のシンセン・上海、アジアのタイを予定している。

海外展開のサポートも実施。メンターは現地アクセラレーターが担当する

海外サポートの2018年度の実績と、2019年度の予定

 費用面ではスタートアップは手数料が3分の1となる支援を実施している。また特許庁の公式サイトにスタートアップ向けのページとして新しいポータルサイトを作成。イベント情報や知財情報などをまとめている。公式サイトは今後弁理士の検索機能を付けて、自社に合う人を探せる仕組みを作りたいとのことだ。

スタートアップは特許申請に掛かる費用が3分の1となり、出願しやすくなる

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