2019年03月06日09時00分

ABEJAがSIX 2019で訴えた「テクノプレナーシップ」の思想

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 2019年3月4・5日、ABEJAはAIの最新事例や活用を披露するカンファレンス「SIX 2019」を開催した。2回目にして登録8000名という大規模イベントに成長したSIX 2019の2日目、基調講演でフォーカスされたのは「ゆたかな世界を、実装する」ための「テクノプレナーシップ」という考え方だ。

革新的な技術革新を遂げつつあるディープラーニング

 基調講演の冒頭、ABEJA 代表取締役社長の岡田陽介氏が訴えたのは、日本企業のAIへの投資の低さだ。GDPを成長させ続けている米国に対して、日本は投資金額が同等にもかかわらず、4%台と低迷している。経済誌で報じられているとおり、最新の企業時価総額ランキングからは日本企業は一掃され、AmazonやGoogleなどAIに投資しているIT企業が軒を連ねている。AIへの投資が少ないというのが、岡田氏の問題意識だ。

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ABEJA 代表取締役社長 岡田陽介氏

 1950年代からスタートしたAIの研究は先人たちの努力により、探索・推論、エキスパートシステム、非線形SVM(サポートベクターマシン)などの成果を得たが、2012年以降は進化がますます加速している。ディープラーニングの革命は、2012年にトロント大学が画像認識にディープラーニングを採用し、10%以上の精度向上を実現したところからスタート。その後、画像認識で人間よりも高い精度を実現するまで3年、AlphaGoがプロ棋士を破るまで4年で実現している。

 2012年9月に創業されたABEJAも、こうしたディープラーニングの真価に歩調を合わせて研究開発に注力してきた。「当時、ディープラーニングの可能性に気づいている人は本当に少なかった」と振り返る岡田氏だが、ABEJAは先行者メリットを活かして研究開発からサービス化まで進め、幅広い産業分野でのAI実装をリードしてきた。こうしたアグレッシブな事業展開をGoogle、NVIDIA、Salesforce.comなど名だたるプレイヤーからも資金調達を受けている。

 ABEJAがフォーカスしているディープラーニングはガートナーのハイプサイクルで幻滅期にさしかかっているが、真価はすでに理解されつつあり、むしろ本格的な活用がスタートすると岡田氏は期待する。ビデオレターで登壇した東京大学の松尾豊特任准教授は、ディープラーニングの分野で2018年にさまざまな技術革新が進み、同氏が理事長を務める日本ディープラーニング協会(JDLA)の会員や検定・資格保持者が大きく増えたことをアピール。一方で、「ディープラーニングの可能性はいまだに過小評価されている」と述べ、「ディープラーニングは事業戦略に直結する。企業の売上を5~10倍に伸ばす可能性すらある」と会場に訴えかけた。

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ビデオレターでディープラーニングの可能性を訴えた東京大学の松尾豊特任准教授

 松尾氏の指摘するとおり、2018年はディープラーニング分野において、さまざまな技術革新が起こった。1月には単純なタスクのモデルを自動生成するGoogle Cloud AutoMLが発表され、写真のような画像を生成するフォトリアリスティックという分野でも、「BigGAN」というプロジェクトでは類似画像ではない自由な画像の学習に成功した。その他、教師なしでも強力な初期パラメーターを得られる「BERT」やタンパク質形状をアミノ酸配列から予想する「AlphaFold」などが登場し、2019年に入ってからはTensorFlowの2.0がリリースとなった。ディープラーニングの進化は今も途切れなく続いている状態だ。

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止まらないディープラーニング分野の進化

SaaSとPaaSの間にMLaaSのレイヤーを挟み込む

 「ディープラーニングを活用したAIの社会実装」を掲げるABEJAは、研究開発の成果をサービス化しており、2015年には小売業向けの店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」をリリースしており、カメラの画像から来客人数、入店数、買い上げ率、来客属性、店前の通行量や属性、滞在率などさまざまなデータを収集できる。2018年はリピーターの推定や店舗の導線分析などの機能が追加された。

 2018年には、さまざまな業種でのAIの実装を加速するコアサービスとして「ABEJA Platform」をリリースしている。そもそもAIの実装は非常に手間がかかり、データの取得や蓄積、確認を経た後に、教師データ作成やモデル設計などに移り、学習や評価を得て、本番環境にデプロイされる。その後は本番環境で推論と再学習が繰り返され、必要に応じてモデルがアップデートされることになる。このプロセスを容易にするのがABEJA Platformで、岡田氏は「AIの工作機械」と表現。すでに150社以上の本番運用実績を誇る。

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ABEJA Platformが容易にするAI実装の10のフェーズ

 業界向けのSaaSは現在は小売業のみ提供されているが、他業界向けのソリューションはこのABEJA Platformをベースにパートナーとともに開発・提供されている。基調講演では製造業のAI活用についてダイキン工業、医療分野でのコラボレーションに関してはトプコンが登壇。その他、サイバーエージェントと共同で作ったCA ABEJAは、クリエイティブ画像の効果を予測するモデルを開発し、日立物流とABEJAはドライバーの走行中の車両データからヒヤリ・ハット状態の検出するモデルを共同開発している。2月末にはシンガポールの大手鉄道会社SMRTとディープラーニングの活用推進での協業も発表し、グローバルでの取り組みも本格化。製造業や物流、ヘルスケア、運輸などの領域でも、AIの社会実装を着実に進めているわけだ。

 これまでカスタマイズが可能なPaaSであるABEJA Platformを提供してきたが、今回は教師データの作成を容易にするABEJA Platform Annotationを強化。10万人を超えるアノテーターや品質向上の仕組みを導入することで、精度の高い教師データをスピーディに生成できるようになるという。「AIで必要なデータをAIで作っていく」というコンセプトだ。

 今回は「MLaaS」というコンセプトで、AIの知識のないユーザーでも利用しやすいPaaSとSaaSの中間に位置するサービスレイヤーが追加された。今回発表された「Accelerator」という呼ばれるMLaaSでは、対象データをアップロードし、アノテーションを施した後、AIモデルは選択。あとは評価レポートをダウンロードすればよく、差別化につながるAIを非エンジニアがABEJA Platformより容易に作れるのが売りになるという。

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MLaaSにより、AIの民主化をさらに推進する

 さらにポストAIのチャレンジとして、「ABEJA X」という研究開発事業も発表された。第一弾として量子アニーリングのソフトウェア開発に着手し、東京工業大/東北大准教授である大関真之氏との共同開発にも乗り出すという。

基調講演の主役は「テクノプレナーシップ」

 基調講演ではディープラーニングの動向やABEJAの新サービスが紹介されたが、全体を通じて何度もアピールされたのが、「テクノプレナーシップ」という考え方だ。今回のSIXというイベント自体も、マーケティングやブランディングという目的よりも、むしろこのテクノプレナーシップの思想を認知させ、共創できる人や組織を増やしていくという目的があったように思える。

 ABEJAはテクノプレナーシップを「ゆたかな世界を、実装する」というABEJAのタグラインのための行動精神と位置づける。アントレプレナーシップを原動力に、リベラルアーツによる問いかけとテクノロジーによる実装を循環させることで、非連続なイノベーションを実現するというコンセプトで、ABEJAのサービスや事例もこうした精神から創出されているという。

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テクノプレナーシップの概念

 テクノプレナーシップは同社の組織形態にも影響を与えている。企業は旧来型の階層組織からフラット型な組織に移行し、個人やチームをエンパワーメントしていく方向性に向かっているが、今後はこれもコモデイティ化していく。これに対して、テクノプレナーシップでは、社会的な問いを解決すべく、多種多様な人材がプロジェクトごとに出入りするような離散的な状態を作る。あえて不安定な状態を仕込んで、「よいカオス」を作るという。実際、現在ABEJAの社員は64人だが、200近い法人や個人とチームを組んでプロジェクトを動かしている。先述したAcceleratorやAnnotationなどの新サービス、会場でも披露された仮想通貨プロジェクトの「Abecoin」は、現場発で生まれたイノベーション。論文やオープンソースというアウトプットでも貢献を進めていきたいという。

 テクノプレナーシップはABEJAの根幹となるリーダーシップの概念でもあり、組織形態であり、他のテック企業との差別化要因でもある。共創相手に求める条件でもあり、AIの社会実装に向き合う彼らの本気度を示すアティチュードでもある。ここからは私見もかなり入るのだが、彼らが数々のAIプロジェクトでビジネスとテクノロジーの分断を見た結果として、こうした「フレームワーク」にあたるものを中心に据えた方がよいと考えたのだろう。多くのサービス開発が、受託開発からリスクとメリットをシェアする共創型へシフトする中、ABEJA Platformをスケールさせる1つの指針として、テクノプレナーシップは基調講演でも強く打ち出されていた。5000人以上の参加者には、単にディープラーニングへの期待だけでなく、こうした新しい思想への期待感があったのではないだろうか。

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