週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

平井卓也IT・科学技術担当大臣による基調講演:AI/SUM 2019

人間中心のAI社会を実現するために必要なものとは

2019年4月22日から24日の3日間、東京・丸の内で人工知能(AI)の活用をテーマにしたイベント、「AI/SUM 2019」が開催された。各種企業や研究団体のAIへの取り組み紹介に加え、今後の可能性についての講演やシンポジウムなど、内容は盛りだくさん。本記事ではイベント中日である23日、IT・科学技術担当大臣である平井卓也氏による基調講演の模様をお伝えする。

AIに社会が振り回されないために

 講演で最初に語られたのが、AI戦略に先立ってAI社会原則が定められた、という報告だった。この原則は「目指すべき社会像」を明確にする目的だ、と平井氏。なぜ戦略より原則を先に定めたのか。その理由は変化のスピードにある。

 近年のAI発展はすさまじく、これまでとはまったく違うスピードで、中国、アメリカ、ヨーロッパでは破壊的イノベーションが起ころうとしている。それに合わせて世の中は大きく変わるだろう、と日本政府でも予想しているというのだ。

 「すごいことが起きそうだ」という世界の共通認識において、これまで何度かあったAIブームとの違いは、研究や特殊な分野だけでなく、社会に実装される、という点にあると指摘した。

 技術の発展の歴史を見ると、手段と目的が容易に入れ替わる。本来、目的をかなえるため手段が存在するが、技術の発展は往々にして手段が目的を追い越してしまうというのだ。そのため、技術的な面でいかに発展させていくか、という戦略ではなく、実現すべき未来の形を先にさだめることで、AIに振り回されない環境を作ろう、というのである。

教育を充実させれば世界に伍するAI社会を実現できる

 このAI社会原則とは、どのような内容だろうか。それは、「AI-Readyな社会」で尊重すべき3つの基本理念と、「AI-Readyな社会」実現のための7つの原則からなっているという。

 3つの基本理念は、人間の尊厳、多様性・包摂性、持続可能性であり、人間中心の社会を原則としている。そしてその目的を達成するための具体的な内容として、以下、7つの原則が定められている。

人間中心の原則
教育・リテラシーの原則
プライバシー確保の原則
公正競争確保の原則
セキュリティ確保の原則
公平性、説明責任及び透明性の原則
イノベーションの原則

 このAI社会原則を定めることで、日本は「あくまでも人間中心のAI社会を目指す」とし、人がAIによる恩恵を受ける、と宣言したのである。

 その上で、3つの理念を実現するために日本の取るべきAI戦略が語られた。産業競争力や技術体系については、数値目標を掲げ、日本として着実に達成できることを目指す、という。アメリカや中国の巨大プラットフォームと同じ土俵で戦うのではなく、「長年培ってきた現場のデータとAIの組み合わせ」にこそ日本の強みがある、と指摘。

 最後には教育について改めて触れ、「(AI)教育は必ずやらなければならないし、それなしでは(人間中心のAI社会は)実現できない。逆にこれができれば、短時間である程度のポジションを得ることができ、世界と伍していくことができる」と述べ、締めくくられた。

電話でのコミュニケーションをAIで数値化

 「AI/SUM 2019」会場ではAIに関わるさまざまな企業がブースを展開。大企業からベンチャー企業まで、自社の開発したシステム等の紹介を行なっていた。そのなかからいくつか興味を惹かれたものを紹介したい。

 AIを使って電話営業をデータ化し、可視化させたのが、株式会社RevCommのMittelというシステムだ。電話営業をシステム上に録音し、話す速度、声のトーン、沈黙の秒数や一回の会話の秒数などさまざまな側面から解析。数値化することでトップセールスをあげる人と、なかなか営業成績が上がらない人を比較することで、問題を把握し、セルフコーチングツールとして活用することができるという。

リアルタイムに人の動きを計測・解析

 AIは大量のデータを解析し、分析する必要がある。そのため高速で大量のデータをやり取りできる環境との相性が良い。それを活用したのが、東京大学中村・山本研究室のVMocap:ビデオモーションキャプチャだ。

 これまでモーションキャプチャを行なうには、身体にマーカーを装着し、その動きを計測していた。しかしこのシステムを使えば、場所や服装を問わず、簡単な準備でモーションキャプチャができる。

 そこから得た大量のデータを、学術情報ネットワーク「SINET5」で東大の中にあるシステムに送り解析。筋肉がどのように動き、どこに力がかかっているのか、などまで一目で把握することができる。この技術はスポーツの科学的トレーニングやリハビリテーションの見える化、ひとり暮らしのお年寄りの見守りなど、応用の範囲は広いだろう。

画像診断で医療の負担を大きく軽減

 AIの活用で大きな成果が期待されているのが医療分野だ。AIを使った画像解析で医療を支援するシステムを展示しているブースが2つあった。1つがメドメイン株式会社だ。

 メドメインは、患者から採取した細胞組織を顕微鏡で観察するなどして疾患の有無を判断する病理診断に着目。これを行なう病理医は専門的な知識が必要で、慢性的に不足傾向にある。しかしメドメインは、スーパーコンピューターを利用しAIへの高速学習を行ない、ディープラーニングと独自の画像技術によってスピーディーな病理診断を可能とするシステム「PidPort」を開発。

 これまで日本でも3週間ほどかかっていた画像診断を、1分以内で完了できるようにしたという。現在はガンの7割を占める胃と大腸の疾患に対応しているが、これを順次拡大していくという。

 一方で、画像の診断とデータの管理・連携に着目したシステムを展示していたのが、株式会社MNESだ。

 医療検査では大量のデータが生まれる。脳のCTで600枚、肺のCTだと1000枚以上になることも。それをこれまでは人間が1枚1枚確認していたが、診断する医師の負担は大きく、行なえる医療施設も限られてくる。当然、チェックミスなども生じるリスクがある。

 そのような課題をAIによりサポートする。画像データをクラウド上に集め、他社のAI・アルゴリズムと連携し、画像をチェック。大量の画像を処理することができる。また、クラウドなので、遠隔地での画像診断を行なうこともできるようになり、さらに人の目で診断したものに見落としがないか、をAIでチェックすることも可能だという。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この特集の記事