週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

【後編】新潟国際アニメーション映画祭プログラムディレクター数土直志氏インタビュー

新潟で「日本基準」のアニメ映画祭が始まった!

2024年03月14日 18時00分更新

今、高畑勲を特集する理由

数土 また、新潟では大きな特集として《レトロスペクティブ》を設けています。これは「過去の作家とムーブメントの再評価をする」というものです。第1回は「大友克洋監督特集」で、第2回の今年は「高畑勲監督特集」をやります。

―― 高畑監督に決めた理由は?

数土 海外で評価を高めた日本アニメ作品には、2つの流れがあると僕は思っています。

 流れの1つは『AKIRA』『攻殻機動隊』『カウボーイビバップ』など、クール・かっこいいという言葉で評価されてきたエッジの効いたアニメです。そのため第1回は大友克洋監督作品特集にして、大友監督にもご来場いただきました。海外から評価された出発点はやはり1989年の『AKIRA』なので、そのリスペクトの意味も込めています。

今年の新潟国際アニメーション映画祭では、日本アニメを世界に広めた功労者として高畑勲監督特集を設けた

―― では、もう1つの流れとは?

数土 細田守監督作品やジブリ作品といった、大人にも子どもにも受け入れられるあたたかいアニメです。その原点を追及すると、やはり東映の長編動画に行き着きます。そこで、高畑勲監督を取り上げたいと思いました。

―― 同じジブリ、東映動画出身ということであれば、宮崎駿監督にするという考え方もあったかと思うのですが。

数土 高畑さんは、とても論理立った作品作りをしています。

 そして、日本で名作中の名作と言われる『太陽の王子 ホルスの大冒険』の監督でもあります。年齢も宮崎さんより上で、かつて宮崎さんは、高畑さんの影響下にあった。そこを考えれば原点と言えると思います。

 高畑さんは、世界中で多くの映画賞を獲っており、代表作『火垂るの墓』もさることながら、『ホーホケキョ となりの山田くん』の評価も高く、ニューヨーク近代美術館に初めてコレクションされた日本のアニメ作品でもあるそうです。

―― 数土さんが海外長編アニメの魅力を紹介する動画では、2010年代に海外でも長編アニメーションを作る作家が増えたのは「デジタル化」に加えて、高畑勲監督の影響が大きかったということでしたね。

数土 高畑さんは生涯をかけて新しいアニメ表現を追求していて、関連著作も多いです。アニメの歴史上、とても重要な人であるという認識が世界的に共有されています。だからこそ、日本でももっと評価されてほしい、と。

映画祭の魅力は「交流の場」であること
新潟で交流が起きた理由

―― 第1回の新潟国際アニメーション映画祭の盛り上がり、良かったポイントなどをお聞かせください。

数土 思った以上にファンの方にも来ていただけてありがたかったです。そして海外も含めてクリエイターや業界の人がたくさん新潟に来てくれて、「業界人の交流」が起きていました。業界関係者同士の交流は、映画祭本来の役割でもあるので、それを果たせたようでうれしかったです。

―― どうして多くの業界関係者が来場されたのだと思いますか?

数土 アニメーション映画祭の面白さを感じてくれたのかな、という気がします。また、新潟という場所の魅力もあるでしょう。東京から新幹線で2時間半程度。近い会場であれば駅から歩いて行ける。複数の会場がコンパクトにまとまっていて、利便性の良い場所ですね。食べ物も美味しいし。

―― 新潟を拠点にした理由は? 世界に発信するなら、東京開催も1つの手だったのではないかと。

数土 街の規模感って、大きいことだけがメリットではありません。映画祭の魅力は、人脈を築けることにもあると思います。

 たとえばフランスのアヌシー。世界最大のアニメ映画祭の開催地で、観光地でもありますが、実は小さい街で人口12万人くらい。そこに世界中の業界関係者が8000人ほど集まります。すると、食事に行くと知り合いとばったり会う、みたいなことになるわけです。だからこそ交流が生まれて、ときにはビジネスも発生しますから、人脈作成の場でもあります。

―― なるほど。アヌシーの盛り上がりを見た数土さんならではの着眼点だと思いました。

数土 そして新潟の方、ファンの方の盛り上がりにも期待したいです。今回は、新潟のマンガ・アニメのお祭りである「がたふぇす」との同時開催です。会場も同じ古町なので何かしら相乗効果があればと思います。

―― 最後に抱負をお話いただけますか?

数土 第1回は、みなさんに応援していただき無事成功することができました。3月15日から始まる第2回 新潟国際アニメーション映画祭についても自信を持ってお届けできる作品が目白押しです。新潟へ来ていただいて、美味しいものを食べて、作品も楽しんでいただければと思います。

前編はこちら → 「映画祭」だと日本アニメの存在感が途端に薄くなる理由

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事