EVはソフトの産業だが、日本で自動車を作るのは8割が工学部出身者
話題は、新たなテクノロジーの活用についても広がっていった。
志賀会長は、「日本全体で見ると、テクノロジーの活用はまだまだである。経営者自らが、生成AIやWeb3、メタバースは使いこなす必要はないが、世界の潮流としてなにが起きているのか、そこに高い関心を持ち続けてほしい」と要望。「日本のDXが遅れている原因は、デジタルダメオヤジが邪魔をしているからだ。たとえば、リスクを考えて、顧客データを自社サーバーからクラウド化するという検討が始まると、それを平気で邪魔をするデジタルダメオヤジがいる。意思決定をする立場であれば、テクノロジーでなにが起きているのかをしっかりと捉えるべきである」と、強い口調で批判した。
そして、志賀氏が長年携わってきた自動車産業が、100年一度の大変革が起きていることについても言及。「EV化に対しては強い危機感がある」と述べた。
しかし、ここでも志賀会長ならではの見方を示してみせる。
「日本はEV化が遅れていると言われるが、そうではない。中国でEVが売れているのは、EVそのものがスマホ化しており、アップデートすることで、購入した時よりも進化しているのが理由である。日本の自動車産業は、そこに追いついていない。たとえば、テスラは、ほとんどがソフトウェアエンジニアで構成されているのに対して、日産自動車では8割が機械工学出身のハードウェアエンジニアである。ソフトウェアに入り込んでいかないと、新たな価値観に対応することが難しい」
だが、こうも続ける。「日本の自動車メーカーは、ハードウェアエンジニアが8割であるため、これからの時代は生き残れないということではない。在籍しているハードウェアのエンジニアが、ソフトウェアを学べば、どちらのスキルも持ったエンジニアになれる。そこが日本の自動車メーカーのこれからの強みになる。大学で数学や物理を学んでいるエンジニアたちである。ソフトウェアにもすっと入れる。リスキリングして、それを力にして、変わっていくことができる。企業も変革が必要であるように、個人もリスキリングしながら変革していくことが重要である」と語った。
志賀会長は、「自動車業界は、正解がわからないVUCAの時代に突入しているのは明らかだが、これは自動車産業に留まった話ではない。あらゆる産業が同じ状況にある」と前置きし、「先に進まなくてはいけない。新たな領域に踏み込む覚悟と強いリーダーシップが望まれる時代になってきた」と指摘する。そして、山口社長も、「社員だけではなく、経営者も変わらなくてはならない時代に入っている」と述べた。
今回の対談では、本音を吐露する場面や、日本企業の経営者に対して、厳しい言葉がでるシーンが目立った。日本IBMの山口社長は、INCJの志賀会長と、よく議論する機会があるという。そうした2人の間柄だからこそ、本音が多く出る対談になったといえる。
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