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〈後編〉アニメの門DUO TRIGGER取締役・舛本和也さんと語る

深刻なアニメの原画マン不足「100人に声をかけて1人確保がやっと」

■もう1つのボトルネックは……

まつもと ちょうど良いタイミングなので、先ほど聞き忘れた話をここでおうかがいします。

 前編で話題になった、動画・仕上げがボトルネックになっているという問題ですが、国内で作業をされている方にお話をうかがうと、紙の原画ないし動画をスキャンしてデジタルデータにした後、仕上げの作業に入る際、線が拾えないとか、4Kなど高い解像度に十分に対応しきれず、結局もう1回仕上げの段階で線を引き直している、というようなことが結構起こっている、と。

 つまり、「動画・仕上げの海外依存」がボトルネックになっていることは事実だけれども、決してそれだけでなくて「アナログ率がまだまだ高い原画や動画」そのものだってボトルネックじゃないか、という指摘もあったんです。

 この点についてはどうお考えでしょうか? 先ほどのお話では、作画のデジタル化はだいぶ進んでいるとのことなので、解像度問題も解決されつつある?

舛本 進んでいるというのは事実で、以前より浸透しているという言い方ができます。ただ厄介なのは共通ルールが存在せず、各社ごとに異なるルールで作っていることです。たとえば解像度の考え方も会社によって違います。

デジタル化は進んでいるものの、業界共通のルールのようなものは存在していないとのこと

まつもと TRIGGERさんは、たとえば『サイバーパンク エッジランナーズ』でNetflixに納品したご経験がありますが、Netflixの要求仕様は高いことで知られています。高い仕様にも合わせられる制作工程、ラインが組まれてルール化もされているという理解でよろしいのでしょうか?

舛本 はい。まず最終的なアウトプットを高解像度で高品質な映像の納品フォーマットに合わせるということであれば、制作工程もおのずと決まりますので、最初からそれを前提としたスケジュールやラインを作ることになります。これが大前提です。

 その後、高品質に足り得る解像度で線画を描いているかというと、じつはやっていないんですね。ある意味、アニメって特徴抽出されたものでもあるので、高解像度にしても意味のない部分があります。そのためアップコンバートをかけて最終的に引き上げる、という方法を採用しています。

まつもと それは高解像度で配信する大手とも、アップコンでOKですよという取り交わしがある?

舛本 契約によるところなので、全部が全部そうなっているという言い方はできないですね。最初の交渉や、ご依頼があったときに規定も教えてもらい、それに沿って僕らは納品している、という言い方ができます。

まつもと なるほど。単純に映像の解像度などで比較するのはナンセンスだと思いつつも、横に並べて見たとき、たとえばリコメンデーションで海外のアニメを見ていた人が日本のアニメにたどり着いたときに、なんかちょっとレトロな感じがするというか、違和感を覚える心配ってないんでしょうか?

舛本 今は感じられないとしても、5年10年経って、もっと高品質な映像が求められるようになると、その心配は出てくるかもしれません。

■現在は「100人に声をかけて、やっと1人見つかる」レベル

まつもと お話を戻しますと、スケジュール管理方法や工程そのものに変化が起きると、制作進行というお仕事の中身も変わっていくのでしょうか?

 まず、「共有」ができるようになったことで、これまではスケジュールや最新素材は制作進行が握っていて、制作進行こそがすべてを管理する立場にあったわけですが、みんなが同時にデータ共有できるのであれば、制作進行の仕事も変化せざるを得ないのでは、というのが1点ですね。

 あともう1つは、前編で話したような「制作進行がいくら頑張ってもスケジュールを守りきれない状況が発生しがち」であること。この2点にどう対応していけば良いのかな、と。

舛本 そうですね。まず2022年末のような状態はもうお手上げするしかありません。上司に報告するしか手がないレベルです。

まつもと 『SHIROBAKO』で言うところの「万策尽きた」ということですよね。

舛本 はい。そこはもう、制作進行が気負いしても仕方ないよねと言うしかないと思います。で、もう1つの役割の変化ということですが……アニメはたくさんの人の手を伝って素材をビルドアップしていく仕事なので、どうしても遅延は起こります。ですので、マネージングする人間がいないと前に進まないという側面は全然、変わっていません。

まつもと 遅れていたら「早くしてください」だし、最悪、ほかの人を当てて対応する。そして、意思決定があるということですよね。

舛本 そうですね、ある意味の意思決定ですね。あと、もう1つだけでっかい役割が。

 ここ1~2年、急速に人手不足が進んでいます。よくネットでも言われる「アニメーターを捕まえることができない」という言葉がときどき出てきます。具体的には100人に声をかけてやっと1人見つかるという状況なのです。制作進行としては、100人に声をかけるだけでかなりの作業量になってしまいます。

アニメ業界に求められるスキル・人材とは?

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