第361回
同じCore i5-12400でも2種類ある?
Alder Lake-Sの廉価モデル、Core i5-12400&Core i3-12100の実力を検証!エントリークラスの覇者となれるか
H670/B660はZ690とどう違う?
検証に入る前に、K無しモデルに合わせて投入された新チップセット「H670」「B660」「H610」が、Z690とどこが違うのかもまとめておきたい。
まず、CPU倍率やBCLKのOCに関してはZ690のみ対応となるが、メモリーのOCに関してはH670やB660でも可能である。ただ、RyzenのようにメモリークロックがInfinity Fabricのクロックと連動するような仕掛けはインテル製CPUにはないので、単純にちょっと速いメモリーを使いたい時にだけ役立つといったところだ。またH610はメモリーのOCにも非対応となる。
OCより重要なのは足回りの違いだ。まずグラフィック用のPCI Express Gen 5対応は共通だが、Z690とH670のみが1x16を2x8に分岐(bifurcation)できる。ただ、今の時代マルチGPUの重要性は相当に低くなっているため、PCI Express Gen 5対応の拡張カードを経由してGen 5対応のNVMe SSDを使いたい時に制約が出てくる(B660だと内蔵GPU使用が必須になる)程度だろう。
次にUSBのポート数にも注意が必要だ。USB3.2 Gen 2x2(20Gbps)はZ690では4ポート分確保できるのに対し、H670やB660では2ポート、H610では非対応となる。10GbpsのUSB3.2 Gen 2はZ690で10ポートだったものがH670やB660では4ポート、H610では2ポートとなる。チップセットから出るPCI Express Gen 4のレーン数もZ690>H670>B660の順で少なくなるため、オンボードデバイスの搭載量や拡張スロット構成等に制約が出るだろう。
また、H670やB660マザーではCPUの電源回路のフェーズ数が全体的に少ない。第12世代CoreのK付きモデルはMTP(PL2)を常時維持できるような設計が推奨されていたのに対し、K無しモデルでは従来と同様にMTPはキープしなくて良いためだ。Core i5-12600KをH670マザーで使うことは十分可能だが、フェーズ数の少なさゆえにZ690マザーよりも性能が下がることは十分に考えられる。
ただ、この原稿を執筆している時点(1月4日)では各メーカーともB660を主力にしており、H670は出すにしても少数にとどめるような動きを見せている。H670でもスペックを盛ればZ690の下位モデルより価格で上回ってしまうから、というのがその理由らしい。B660のデメリットはNVMe SSDでのRAIDアレイ構築ができないこと、SATAのポート数が少ないなどストレージ面に集中している。スタンダードにM.2 SSDを単独で運用するような場合は、無理にH670にする必要もないのだ。
検証環境は?
今回用意した検証環境は以下の通りだ。Core i5-12400はC0ステッピングとH0ステッピングのパッケージ版を、Core i3-12100はES版を準備した。比較対象は1つ上のCore i5-12600K、前世代のCore i5-11400FとCore i3-10105、さらにRyzenからはRyzen 5 5600XとRyzen 3 3300Xをそれぞれ準備した。
わざわざCore i5-12600KをH670マザーで使うというシチュエーションはあまり考えにくいが、Eコアの存在やMTPの違いが性能にどこまで影響するかチェックすることとしたい。Core i5-12400でもDDR5は使えるが、検証に耐えるH670マザーとして調達できたのがDDR4版のみであったため、今回はDDR5検証は見送っている。
また、CPUクーラーはCore i5-12600Kを混ぜていることと、まだ筆者が良い塩梅のLGA1700対応空冷クーラーを持っていない点から、クーラーは360mmラジエーターを備えたハイエンドAIO水冷とした。
また、OSはWindows 11であり、仮想化ベースのセキュリティー(VBS)は有効、BIOSの設定はメモリークロックとResizable BAR、Secure Boot設定以外はデフォルトとした。
【検証環境:LGA1700】 | |
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CPU | インテル「Core i5-12600K」 (10コア/16スレッド、最大4.9GHz)、 インテル「Core i5-12400(C0)」 (6コア/12スレッド、最大4.4GHz)、 インテル「Core i5-12400(H0)」 (6コア/12スレッド、最大4.4GHz)、 インテル「Core i3-12100(ES版)」 (4コア/8スレッド、最大4.3GHz) |
CPUクーラー | ASUS「ROG RYUJIN 360」 (簡易水冷、360mmラジエーター) |
マザーボード | ASRock「H670 Steel Legend」 (Intel H670、BIOS 4.01) |
メモリー | G.SKILL「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」(DDR4-3200、16GB×2) |
ビデオカード | NVIDIA「GeForce RTX 3080 Founders Edition」 |
ストレージ | Corsair「Force Series MP600 CSSD-F1000GBMP600」(1TB M.2 SSD、PCIe 4.0、システムドライブ) Silicon Power「PCIe Gen3x4 P34A80 SP002TBP34A80M28」(2TB M.2 SSD、PCIe 3.0、データドライブ) |
電源ユニット | Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」 (80 PLUS PLATINUM、1000W) |
OS | Microsoft「Windows 11 Pro」 |
【検証環境:LGA1200】 | |
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CPU | インテル「Core i5-11400F」 (6コア/12スレッド、最大4.4GHz)、 インテル「Core i3-10105」 (4コア/8スレッド、最大4.4GHz)、 |
CPUクーラー | ASUS「ROG RYUJIN 360」 (簡易水冷、360mmラジエーター) |
マザーボード | ASRock「Z590 PG Velocita」 (Intel Z590、BIOS 1.80) |
メモリー | G.SKILL「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」(DDR4-3200、16GB×2) |
ビデオカード | NVIDIA「GeForce RTX 3080 Founders Edition」 |
ストレージ | Corsair「Force Series MP600 CSSD-F1000GBMP600」(1TB M.2 SSD、PCIe 4.0、システムドライブ) Silicon Power「PCIe Gen3x4 P34A80 SP002TBP34A80M28」(2TB M.2 SSD、PCIe 3.0、データドライブ) |
電源ユニット | Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」 (80PLUS PLATINUM、1000W) |
OS | Microsoft「Windows 11 Pro」 |
【検証環境:AMD】 | |
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CPU | AMD「Ryzen 5 5600X」 (6コア/12スレッド、最大4.6GHz)、 AMD「Ryzen 3 3300X」 (4コア/8スレッド、最大4.3GHz) |
CPUクーラー | ASUS「ROG RYUJIN 360」 (簡易水冷、360mmラジエーター) |
マザーボード | GIGABYTE「B550 VISION D」(AMD B550、BIOS F14e) |
メモリー | G.SKILL「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」(DDR4-3200、16GB×2) |
ビデオカード | NVIDIA「GeForce RTX 3080 Founders Edition」 |
ストレージ | Corsair「Force Series MP600 CSSD-F1000GBMP600」(1TB M.2 SSD、PCIe 4.0、システムドライブ) Silicon Power「PCIe Gen3x4 P34A80 SP002TBP34A80M28」(2TB M.2 SSD、PCIe 3.0、データドライブ) |
電源ユニット | Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」 (80 PLUS PLATINUM、1000W) |
OS | Microsoft「Windows 11 Pro」 |
差があるとも言い切れなかった「CINEBENCH R23」
最初に試すのは定番の「CINEBENCH R23」だ。テストはデフォルトの10分のウォームアップの後にスコアー計測に入るモードで計測した。
スコアートップはCore i5-12600Kであり、これはコア数が多くMTPも高いので当然の結果だ。2番手はCore i5-12400のC0ステッピングだが、H0ステッピングは4%ほど下につけている。この程度の差はCINEBENCH R23ではブレの範囲内な気もするが、複数回計測してもC0ステッピングでは11000ポイント以上は出るのに対し、H0ステッピングは11000未満が中心となった(グラフの数値は3回計測した後の中央値)。本当に差があるかを検証するには統計的なアプローチが必要になるが、これについては後々の課題としたい。
Core i5-11400Fから見るとCore i5-12400のマルチスレッド性能は18〜23%の向上、シングルスレッド性能では約32%の向上となる。当初は「EコアのないAlder Lake-Sは単なるRocket Lake-Sではないか」という疑念もあったが、特にシングルスレッド性能の向上が著しい。Core i3-12100についても、Core i3-10105から見てマルチスレッドが約23%、シングルスレッドで約32%向上と、こちらも良好な伸びをみせた。
Ryzen目線で見ると、今回のCore i5-12400は「Core i5の1番下」でありながらRyzen 5 5600Xにマルチスレッド性能で並び、シングルスレッド性能においては14%弱上回っている。K付きの第12世代Coreは同格のRyzenをことごとく打ち負かした存在だったが、無印でも劇的な勝利とまではいかないものの、第12世代Coreの強みはなんとか出せているようだ。Core i3-12100対Ryzen 3 3300Xに関しても、14%/24%(マルチ/シングル)上昇と、こちらも大きく差をつけた。
ライトユースを想定した「PCMark 10」では?
次はPCの総合性能ベンチマーク「PCMark 10」を利用する。テストは“Standard”テストを実施した。
総合スコアー(青)でトップに立ったのは、Core i5-12600K、続いてRyzen 5 5600X、Core i5は3番4番手になったが、Core i5-12400(H0)の方がCore i5-12400(C0)よりわずかに総合スコアーで上回っている。とはいえ、この程度は誤差の範囲内であるため、ここでは明確な差があると断言できるものではない。
注目したいのはCore i3-12100とCore i5-11400Fで、総合スコアーではCore i3-12100が上回っており、各テストグループ別のスコアーではCore i3-12100のDCC(Digital Content Creation)が微妙に劣るだけで、特に大きな欠点はなく速いことを示している。もちろん4コア/8スレッドなのでマルチスレッド性能が問われるシーンではCINEBENCH R23のスコアーに近い性能比に収束することが予想されるが、ライトユースでは第12世代のCore i3のエントリーモデルは前世代のCore i5のエントリーモデルと大差ないフィーリングで使えるといったところだ。
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