プロデューサー&ディレクターの高橋宏典氏にもインタビュー
限られた手段で少女と意思を伝え合い、危機を脱せよ!VR脱出ゲーム「Last Labyrinth」試遊会レポート
プロデューサーインタビュー
慣れるにつれ長考する癖が付く?
試遊終了後、本作のプロデューサー兼ディレクターを務めるあまた株式会社代表の高橋宏典氏に話を伺った。
――今回の試遊会が本作初プレイだったのですが、独自言語で喋るカティアなど、「ICO(イコ)」、「ワンダと巨像」を彷彿とさせる演出と雰囲気が印象に残りました。制作に当たって、やはり意識されたのでしょうか?
高橋宏典氏(以下、高橋氏):実のところ、私はどちらもプレイしたことはないんです。私自身、元SCE(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント/SIE)出身で、ICOを制作していたころに在籍していたので、その当時から存在は知っています。ただ、所属部署が別だったので、プレイする機会がないまま現在に至っていて、制作にあたってもそれほど意識はしていません。
ただ、スタッフに福山敦子という、ICOでヨルダのモーションを担当したアニメーターがいまして、本作でカティアのモーションも手がけています。それもあってか近い雰囲気を感じやすいのかもしれませんね。他にデモを体験された方からも同様のことはよく言われるんです。けど「全然違いますよ、ああいったリリカルな雰囲気を期待するとショックを受けますよ」と伝えていたりします(笑)。
――確かに謎解きなどに失敗した際、カティアを危機が襲う様子を見ると大きなショックを受けそうです。プレイしていて、カティアの動きは本物の少女っぽさに溢れていましたが、あれはモーションキャプチャーで表現しているのでしょうか。
高橋氏:いえ、実は手付けです。一部のイベントシーンは補助的にキャプチャーを使っているんですが、キャプチャーのデータも、手作業でほとんど調整、作り直されているので、99%くらいは手付けアニメーションとなります。これはアニメーターの福山のセンスによるものですね。
ディレクターの私から見ても、どうやって表現しているのかが分からないぐらいです。データ上だと全然リアルではないのですが、彼女なりに誇張する表現を施していて、それがあの動きに繋がっています。ICOでヨルダのモーションを担当された時の経験が活かされていると言いますか、同じ人が動かしているがゆえの遺伝子を受け継いでいる感じですね。
――ゲームの雰囲気としても怖い感じですね。実のところ、今回のデモを遊ぶ前まで「怖いらしい」との話を聞いていて、実プレイではおっかなびっくりな進行になってしまいました。
高橋氏:音と映像でバーンと驚かせる、いわゆる「ジャンプスケア」はありません。私もあの表現は苦手で、そういう類の恐怖体験は作らないようにしています。Last Labyrinthは嫌な空気の中での緊張感、不安が継続する形ですね。そっちの方が嫌だ、という声もあるんですが(笑)。
基本的にこのゲームはプレイヤーが何かしない限り、ゲームとしての進行はないんです。自分がやったことに対してリアクションがあるという仕組みなので、起こるべくして起こるんです。なので自分の行動には責任が伴う。カティアが死んでしまうのも、全部あなたのせいです、というゲームデザインですね。
――本作は9月に開催された「東京ゲームショウ2019」に、PlayStation VR版が出展されていましたが、体験された方の感想で印象に残ったものはありましたか?
高橋氏:「カティア可愛い」「え?」「酷い!」「死ぬとは思ってなかった」などの感想が多かったですね(笑)。とりあえず試してみようと操作した結果、大変なことになってしまうのが多かったみたいです。昨今は良くも悪くも親切なゲームが多いので、そのギャップに驚かれたのかもしれません。あと、ビジネスデイでは当日整理券が無くなるのが早くて、一般参加日も多くの方に並んでいただいて、VRタイトルの中でも注目していただいているのがありがたいです。
――東京ゲームショウ以外にも本作は試遊イベントが何度か行われていますが、そちらで印象に残ったことはありましたか。
高橋氏:一度、今回の体験版より長いものを一般のユーザーさんに体験してもらうことがあったのですが、濃い目のゲーム好きの方が多かったですね。あと、プレイスタイルがどんどん変わっていったというのがありました。最初は普通のゲーム、脱出アドベンチャーの感覚で押せるような所をためらいなく押してはやられてしまうんです。
慣れてくると、「ゲームだから死んでもいいや」みたいな感じになってくるのかなと思っていたんですが、むしろ罪悪感で嫌な気持ちになるから、ノーミスで行きたいという気持ちが多くのユーザーさんに芽生えるみたいです。最初は部屋に入ったらボタンをすぐ押してみる、だったのが、入るなりずっと悩んで長考に入るスタイルになっていくのがすごく印象深かったですね。
あと、メモを取りたいという意見もありました。特に記憶力と思考力を同時に使う仕掛けに対し、そうしたいとの声がありますが、そもそも全身を拘束されているのだからメモは取れないですね(笑)。
――まさしく(笑)。実際、拘束の設定は異彩を放っていると感じました。
高橋氏:VRは自由である体験を志向されている作品が比較的多い傾向にあるんですよね。こちらとしてはVRである自由というよりは、VRでしかできない体験とはなんだろう、というテーマを掲げていまして、自由に動けるだけがVRではない、普段できない体験・経験ができることもVRにはある、立ち上がったり、歩き回ったりはしないけど独自の体験が得られることに注力しています。
自由に動ける場合、現実感が損なわれやすくもあるんですよね。物を取ろうとした時、距離感がズレていたりとか。中には遠いものをひょいっと取ってくれるものもありますが、現実感があるかと言われると違和感の方が強くて。自分がそこに居るという感覚を損ねているように思えるんです。そういうのを少なくしたVR体験ってなんだろうと考えた末、逆に動かなければ矛盾は起きないよね、という逆説的な考えから拘束された主人公という設定が生まれています。
――設定に関するところでは物語も気になるところですが、全体のボリュームとしてはどれぐらいになるのでしょうか。
高橋氏:エンディングは複数ありまして、全てのエンディングを見る場合、長いと16時間以上はかかるかもしれないですね。また、物語に関しては基本的に文字が出てきません。こちらで考えている設定はあるんですが、全て映像の形でユーザーさんに体験してもらって、意味を考えていただくというスタンスです。
――いわゆるベストなエンディングみたいなのは……?
高橋氏:どれが一番、真のエンディングというのはないです。体験した方が自分が好きなのが本当ならいいな、と思っていただく形ですね。
――色んな意味で11月13日の発売を楽しみにしています(笑)。開発はもう佳境でしょうか。
高橋氏:現在、マスター作業中です。グローバルでマルチプラットフォームの同時リリースになりますので、今日はあれのマスターを入れ、明日はこれのマスターを入れ……という感じですね。
――製品版発売後にシナリオの追加などのアップデートなどはあるのでしょうか?
高橋氏:追加の予定はないですね。ただ、バグフィックス等のアップデートは予定しています。それ以外で発売後に関しては……エンディングへの反応に対し、覚悟の上でいます(笑)。
あと、開発中にはこれまで、クリエイターの方々にもプレイいただいているのですが、「これってどういうジャンルなんだ」と聞くと、みんな黙ってしまうというのがありまして、どんな風に伝えたらいいのかと悩んでもいるんです。なので、メディアの方々が紹介するに当たってはぜひ、お知恵をおかしくださいとお伝えしておきます(笑)。
――頑張って考えます(笑)。本日はありがとうございました!
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