2014年07月09日17時00分

Windows情報局ななふぉ出張所

SIMフリー義務化を“骨抜き”にされないために

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 総務省が6月30日に打ち出した、“キャリアへのSIMロック解除の義務化”についての話題が盛り上がっています。

 これまで業界内では何度も議論されてきたものの、いまひとつ世間一般での認知度が上がっていないSIMロック解除問題について、再び注目が集まりそうです。それと同時に、本当にSIMロック解除に意味はあるのか、との疑問の声も高まっているようです。

■SIMロック解除は携帯電話ユーザーの権利

 キャリアが販売する携帯電話にSIMロックをかけること自体は、世界的に見てもそれほどおかしなことではありません。米国ではVerizonが電波オークションの落札条件としてSIMフリー化したなどの例外はあるものの、珍しい事例といえます。

 ただ、日本ではユーザーの求めに応じてSIMロックの解除に応じるかどうか、という点で違いがあります。現状でロック解除できるのはNTTドコモのみで、人気の高いiPhoneには未対応となっています。KDDIは2010年に総務省による『SIMロック解除に関するガイドライン』を無視しており、ソフトバンクも一部機種の提供にとどまっています。

SIMフリー義務化を“骨抜き”にされないために
↑2010年にもSIMロック解除のガイドラインが示されたが、NTTドコモが対応した以外はほとんど効果がなかった。

 これに対して米国では、SIMロックの解除は携帯電話ユーザーの権利として認められる傾向にあります。2月25日にはSIMロックの解除に関する法律として“Unlocking Consumer Choice and Wireless Competition Act”が下院を通過し、少なくとも個人利用時におけるSIMロックの解除が、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に違反しないことを明文化する、という方向性が打ち出されました。

 ほかにも世界各国のキャリアは、一定の条件下においてSIMロックの解除に応じる傾向にあります。

■SIMロック解除に本当にメリットはあるのか?

 それではSIMロックの解除により、ユーザーにどのようなメリットがあるのかといえば、なかなか微妙なところです。総務省のワーキンググループでは、キャリアとの契約終了後の端末活用や、海外渡航時の現地SIMの利用、他事業者への乗り換え時に既存の端末をそのまま持ち込めること、といった観点を挙げています。

 たしかにキャリアとの契約終了後にSIMロックが解除されれば、中古市場での価値は高まり、MVNOのSIMカードで再利用するといった機会が増えるでしょう。この点については一定のメリットがあると考えます。

 しかし海外での現地SIMは、もう少しハードルが高いものです。SIMの入手や設定にはそれなりに手間とスキルを求められるため、パッケージツアーや海外出張のようにスケジュールがタイトな旅行者にとって、あまり現実的とはいえません。日本からの電話やショートメッセージをどのように受け取るか、といった問題も出てくるでしょう。

SIMフリー義務化を“骨抜き”にされないために
↑海外でプリペイドSIMを入手して使うのは予想外に手間がかかることも少なくない。日本のSIMカードをどうするか、という問題も。

 他キャリアへの乗り換え時にも、独自のサービスやサポートが受けられなくなる可能性が高く、各キャリア共通で使える周波数帯も限定的です。ワーキンググループでは「適切な説明をした上で選択を委ねることが適当」としていますが、やや楽観的すぎるきらいがあります。

 確かに、iPhoneについてはやや事情が異なります。iPhoneはキャリアサービスへの依存度が低く、ハードウェアについて国内共通で、サポートも基本的にはアップルが引き受けています。しかしiPhoneを使いながら他キャリアに移行するという需要がどれくらいあるのかは、疑問が残るところです。ドコモのiPhone向け補償サービスやKDDIによる独自のテクニカルサポートのように、iPhone向けサービスも独自化しつつあります。

■長期利用者は“優遇”されるべきなのか?

 もうひとつ、総務省のワーキンググループの議論の中で気になるのが、「長期利用者はキャッシュバックを受けられないため不公平である」との論調です。

 キャッシュバックの原資をたどれば、長期利用者が支払った料金からも充当されていることになるため、消費者心理として納得できるものがあります。過度なキャッシュバックも健全とは言えません。しかしながら、長期利用者をどのように扱うべきかを、総務省に口出しされる必要があるのでしょうか。

SIMフリー義務化を“骨抜き”にされないために
↑たしかに長期利用者はキャッシュバックを負担しているが、それは総務省が旗振りをして解決すべき課題だろうか?

 そもそも、一部の“有識者”のコメントにみられるような「長期利用者が優遇されないのは不公平」という前提に、どの程度の根拠があるのでしょう。たとえば航空会社やホテルによる上級会員制度では、より多額の利用をした顧客を優遇するものが大半で、長期間利用しているだけで受けられる恩恵というのはほとんどないはずです。

 また、今現在でも、キャリアのパケット定額プランを解約することで毎月の維持費を0円近くまで下げ、代わりにMVNOのSIMカードを用いることで、割安に運用している人もいます。これも“正規料金”を払っている人からみれば、不公平なのでしょうか。

 もちろん、携帯電話会社の事業は有限な資源である電波の利用に基づいており、一定の規制下に置かれることはやむを得ません。しかしその規制は、競争の促進や消費者保護のために必要な、最低限の水準にとどめるべきものです。この点はワーキンググループでも認識されており、キャッシュバックという商習慣を禁止したり、その上限額を定めることは困難であると認めています。

 その上で、まるでさまざまな問題を解決する特効薬であるかのようにSIMロックの解除を推進しているために、議論がややこしくなっている印象を受けます。このような進め方ではキャリアの反発を招き、総務省に対抗すべくSIMロック解除を“骨抜き”にする施策を打ち出すなど、泥沼化してしまうのではないでしょうか。

 今後の落としどころとしては、一定期間の利用後にSIMロック解除に応じることを義務化する程度のものになり、大多数のユーザーにはその意味を理解されないまま、ひっそりと施行されるといった展開を筆者は予想しています。

■“競争の促進”なら海外端末の導入も視野に

 もっとも、各キャリアが2700円の音声定額で横並びになったように、まだまだ競争を促進しなければならない、という点には筆者も同意します。そのためには、海外端末の導入もひとつの手だと考えています。

SIMフリー義務化を“骨抜き”にされないために
↑海外ではトリプルSIM端末も登場している。日本でも複数のSIMカードを使いこなすことが当たり前になる?

 総務省が6月12日に発表した『SAQ2 JAPAN Project』(サクサク ジャパン プロジェクト)では、海外から一時的に持ち込まれた技適を通っていない端末の扱いについて、2014年度中に整理することが盛り込まれています。このプロジェクトは訪日外国人を対象としているものの、外国人が利用できるなら、日本人が利用できないという理由はないはずです。

 国内における電波の安全性を確保しつつ、一定の条件下で海外端末を使えるようになれば、MVNOにとっても選択肢が増え、新たな局面での競争がもたらされることになるでしょう。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

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