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第2回将棋電王戦・第3局もプロ棋士敗れる!山崎バニラさん観戦記

2013年04月08日 16時30分更新

 第2回将棋電王戦・第3局は、184手まででツツカナが勝利を収めた。手数が物語るように死闘だった。逆転に次ぐ逆転。船江恒平五段も勝つチャンスはあったと思うが、ツツカナの攻めと守りを柔軟に切り替えて戦いきった。そんな第3局の観戦記を、第2局に続いて山崎バニラさんにお願いした。

第2回将棋電王戦・第3局

お互いを尊重し正々堂々戦った名局に感動・山崎バニラ

 毎年5月に開催される世界コンピュータ将棋選手権。なぜ“将棋ソフト選手権”ではなく“コンピュータ将棋”なのかと言いますと、ソフトの性能だけでなく、使用するマシーンの性能とともに競っているからです。昨年の大会で優勝したのはコンピュータを数百台もつないだGPS将棋でした。

 ところが、4月6日に開催された電王戦第3局に登場したコンピュータ将棋『ツツカナ』はパソコン一台で操作されます。将棋ソフト『ツツカナ』と言っていいほどソフトが優秀ということです。

 開発者の一丸貴則さんはブログ『コンピュータ将棋開発中』(関連サイト)で「宅急便で送るため途中で故障するかも」と事前に書いていました。なんとそれが現実になってしまいました。故障した場合はノートパソコンで臨むつもりだったそうですが、運命のいたずらか、前日の5日にツツカナを使ってエキシビジョンマッチが行なわれていたのです。

第2回将棋電王戦・第3局
エキシビジョンマッチにて伊藤真吾四段と。イトシン先生のモノマネ芸をスタッフさんに教えておいたのは私(笑)。

 『【勝てたら100万円】石田純一が電王戦コンピュータ「ツツカナ」に挑む』と題して行なわれたエキシビジョンマッチには、私もゲスト出演。将棋バラエティーとして大いに盛り上がりました。この日はドスパラから提供された高性能なパソコンにツツカナがインストールされていました。このインストール方法にも興味があります。将棋ゲームとして市販されていないにも関わらず、ほかのパソコンで問題なく動作するということからもソフトの高性能ぶりがうかがえます。

 そのようなわけで、急遽第3局本番もこのとき使ったドスパラのパソコンが使われました。本来使われる予定だったCPUはcore i7-3930K(一丸さんのブログより)。それがi7-3970Xに変更。スピードが2割程度速くなったそうです。つまりコンピューターの性能が少し上がった状態で戦うことになったのだから、なんともドラマチック。ちなみに代わりに使う予定だったノートパソコンはCPUがcore i7-2630QM。一丸さんのブログによると「演算速度が半分になるが見た目ほど影響はないはず」とのこと。要するに、ツツカナはノートパソコンでもこれほど強いという画期的ソフトなのであります。

第2回将棋電王戦・第3局
今回の対局に使われたドスパラ提供のマシン『ガレリア ZX-e カスタム』。

 2006年にノートパソコンで鮮烈デビューを果たしたBonanza(ボナンザ)を彷彿とさせます。ツツカナも今回出場のほかのコンピュータ将棋と比較すると、突如強くなったコンピューター将棋です。Bonanzaの登場以降、ほとんどのソフトですべての指し手を評価する全幅検索をしますが、どこまで読んでどこで切り捨てるかはソフトによって違います。ツツカナは「どの手をどの程度深く読むかをプロの棋譜をもとに自動調整している」(一丸さんのブログより)ため、より人間に近い指し方をするとプロ棋士の間でも評判でした。

第2回将棋電王戦・第3局
「検討している様子を撮らせてください」とお願いしたらこうなった。左から遠山雄亮五段、伊藤真吾四段、門倉啓太四段。自然体を撮影する難しさを知る。

 Bonanzaはその後ソースを公開し、昨年、Bonanzaをベースにクラスタ化した『ボンクラーズ』が第1回電王戦で米長永世棋聖に勝つなどの発展を遂げています。今後、ツツカナはどのように展開していく予定があるのかないのか興味がありましたが、これはとてもデリケートな質問ですので、さすがの私も終局直後の記者会見の場では質問を自重しました。

第2回将棋電王戦・第3局
検討室から中継する安食総子女流と窪田義行六段。エキシビジョンマッチの前に、窪田六段には「将棋は文化だ!」という一発芸を仕込まれていたが、石田純一さんの前で披露する勇気はなかった。

 とはいえ素人目から見れば、もし、一丸さんのパソコンが壊れていなかったら、はたまた前日にエキシビジョンマッチがなくノートパソコンでの対局となっていたら結果はどうだったのか……なんてこともつい考えてしまいます。演算速度の問題だけだとしても、ツツカナは1分未満を切り捨てていなかったため、持ち時間残り33分あたりから1分将棋に入っていました。こればかりは神のみぞ知るということなのか、プログラマーさんの目から見たら明白なのか。

 船江恒平五段は今回の対局者のなかで唯一、昨年の電王戦からすでに第2回電王戦への出場が決まっていました。ですから昨年は検討室で米長永世棋聖とボンクラーズの局面を解説していただくなど、私もたいへんお世話になりました。その時の様子はこちらをご参照ください。

 引退していた米長永世棋聖と違い、今回の出場者は全員現役のプロ棋士です。第2回電王戦の記者発表後、船江五段に「通常の対局スケジュールに配慮はあるのか」質問したところ、とても前向きな考えをお聞かせいただきました。そのときの様子はこちら

 また、先週行われた電王戦第2局の検討室で船江五段は「コンピュータ将棋と日々練習対局をするようになって、人間との対局の際も特に中終盤がよく見えるようになった」とうれしそうに語り、ほかのプロ棋士の先生方が「へ~」と驚きながら話を聞く様子が印象的でした。

 そんな陽のオーラを持っている船江五段ですので、対局開始前から最初の数手、つまり報道関係者の入室が許可される時間帯の対局室の雰囲気は先週よりずっと穏やかでした。4手目、ツツカナが7四歩とついた手は私でも「あれ?」と思うくらい意外で、指された瞬間、船江五段は思わず微笑んでいました。なんとこの4手目までは一丸さんの作戦だったそうです。

第2回将棋電王戦・第3局
いーじまさんが別現場と行ったり来たりお忙しかったので、終局後の記者発表の写真も撮っておいた。

 184手に渡る死闘。年に一度選ばれる将棋大賞、プロ棋士どうしの名局賞にも匹敵するような対局に感じられました。終局後も船江先生には笑顔が見られました。いろいろな思いが交錯したでしょうが、やりきった笑顔だったのだと思っています。

終局後の記者会見のおもな質疑応答

第2回将棋電王戦・第3局

一丸貴則氏・ツツカナ開発者
 ちょっとまだ実感がわいてこないんですが、この電王戦に至るまでの船江五段の姿勢ですとか一貫した言動ですとか、そういったものを鑑みるに今回の勝利の価値というものは非常に高いものだと思っています。いずれその価値というものを気づいたように思い出すというか感じたり将来できたらいいと思います。

船江恒平五段
 負けてしまったのは残念というか、自分の弱いところが出てしまったと思います。優勢な局面も悪い局面も難しい局面もいろいろと山あり谷ありの将棋だったと思うんですけど、優勢な局面で勝ちきれなかったのは自分が弱いからだと思いますし、ツツカナは強かったです。

小谷善行・コンピュータ将棋協会副会長
 非常に感銘を受けたのですが、私は第1回電王戦のときの立会人として観させていただきましたが、米長永世棋聖のときは、戦わないで真ん中を盛り上げていって、ジリジリと行くというのが、途中までよかったのですが、そういうやり方がいいのだと私も思っていて、いろんなところで言ってきました。しかし、今日はそうではなく、ふつうの戦い方で、かなり有利なところもで行けたことに感銘を受けました。もう一つ言わせていただくと、コンピューターと人間が対戦すると非常に変なことが起きる可能性があるので、我々の方でルールを結構しっかりつくったのですが、特殊な状況にならなくてよかったとルールをつくる側から感じていました。

堀口弘治七段・立会人
 ほんとに、壮絶な戦いで、立会人ですから公平な立場で言いますが、将棋は184手、入玉将棋でもないのに、ホントに序盤から戦い始めてから184手ですから、観戦していても長く感じ、見応えのある対局でした。ツツカナの積極的な序盤の作戦に、正直びっくりしたのですが、こんな攻めがあるのかと調べてみたら結構大変だったと、改めてコンピューターの感覚はすごいなと思いました。しかし、終始戦いは船江五段のペースだったと思いますし、もちろん中盤の難しい局面はあったにせよ、後半からはまずふつうは逆転はないのではないかと言うぐらい差が付いたと思いますが、そこからのコンピューターの相手に決め手を与えない強さ。控え室ではターミネーターと言われてましたが、撃たれても撃たれても蘇ってくるようなそのような強さを感じました。歴史的な第3局で正直プロ棋士としては残念でしたけれども、両者とも得るところは得られたのではないかと思います。

田中寅彦九段・専務理事
 一言で言うと大変残念な勝負だったと思います。前局もそうですが、最初に行なった米長前会長が戦ってきた戦い方とは、だいぶ違ってきたと思います。それでいて、コンピューターの弱点を、特に今日の船江五段もうまく突いてくれたのかなと、さすがと思いました。ただ、ツツカナは絶対諦めない。コンピューターですから当たり前なのですが、生身の人間だとそこからもう勝負は終わりという、形づくりになるところがない。私、弱いときの羽生三冠を思い出しました。まさにそう言うような逆転劇だったと感じていました。羽生×森下戦などをちらっと思い出してしまいましたが、前局の佐藤四段もそうですが、再戦を期待したい残念な勝負だったと思います。将棋に勝って勝負に負けた気がします。ただ、執行部としましては、コンピューターもすごいところまできましたが、まだまだ強くなるかと思いますが、でもまだ弱点が残っているなぁと思っているのがプロ側の気持ちですので、ぜひ次の塚田九段をはじめ、三浦八段にはがんばってほしいと期待しています。

塚田泰明九段
 船江五段は残念で、途中まで優勢、必勝という感じの局面まであったと思うのですが、やはり人間は持ち時間が減ってくると焦ってくるので、私は持ち時間は長い方がいいと言ったのですが、聞いてもらえなかったので、そこは文句言えないのですが(笑)。終盤で1回は人間が優勢になると思うんです。そのときに時間がいかに残せて、冷静でいられるか。今日も相当冷静だったと思うのですが、最後のところでちょっと間違えてしまったので。今日は残念な結果でしたが、いい勝負でした。

 

――船江五段が実際に対局して肌で感じたことを何か塚田九段に伝えることはありますか?
船江五段 塚田九段に言えるようなことはありません。今日のような逆転負けだけはしないようにしてください。

――本日急にマシンが変更になりましたが、詳細なスペックを教えてください。
一丸氏 Core i7-3970X(3.5GHz)でメモリーは32GBのドスパラが提供しているマシン(関連サイト)です。

――当初使う予定のマシンに比べどの程度の差がありましたか?
一丸氏 使った感じでは、2割増しぐらいで速かったです。レーティング的にはわからないですが、対局を重ねていけば差が出ると思います。

――今回の対局に向けて改良や対策した点はあります? また7四歩は作戦ですか?
一丸氏 7四歩は作戦です。▲7六歩△3四歩▲2六歩と進んだ局面でどんな手を指すかとずっと考えていて、その局面ではいろいろ有力な作戦があるのですが、疑心暗鬼になってどれも対策されているような気がして、その局面では△7四歩と指して力将棋にもっていこうと考えました。また対策としましては、時間の使い方でしょうか。私が分析した限りでは、船江五段は終盤が非常に強いので、序盤で差をつけられたらまず勝てないだろうと思い、ふだんより序盤で時間を使うようにしました。

――△7四歩を指されて船江五段はどのように感じましたか?
船江五段 予定している形にはならなかったですが、ふつうに指されても自然に指そうと思っていたので、△7四歩は少ないですが実践例もある将棋なので、自分も研究会で対人間ですが指したことがあったので、そんなに戸惑うこともなく、そんな作戦できたかというか、自分の力を試せるというか、むしろ定跡でさすよりそういう将棋を指したかったのでうれしかったです。

――中盤の△5五香は、ニコ生解説では本局いちばんの名手ではないかと言ってましが。
船江五段 そうですね、いい手だと思いました。私はまったくその手を考えていませんでしたが。指された瞬間はよく意味がわからなかったのですが、考えていくうちになるほどと。その手の前ぐらいまでは、自分が優勢だと思っていたのですが、その手以降はちょっとよくわからなくなってきて、持ち時間をすごく使ってしまったので△5五香はすごくいい手だと思います。

――コンピューターと対戦して、どのあたりが強くて手強かったか?
船江五段 対策していた頃からわかっていたことですが、最後の粘り強さというか、そこがいちばんの強みであるし、そこで自分がもっと粘り強く指していれば、逆に言うと自分の弱いところとツツカナのすごく強いところが最後に出て、逆転されてしまった。ソフト通して全般的にそうですが、すごいなと思いました。

――残り33分から1分将棋になっていましたが、どうしてか?
一丸氏 内部の計算の問題です。本対局は1分未満は切り捨てなのですが、プログラム的には切り捨てないので、誤差が積み重なってそうなったと思います。

――船江五段としては、ペース配分と実際の対局とではどうだったか。
船江五段 基本的には序盤を1時間、中盤を2時間、終盤を1時間で指したいと思ってました。今日はだいたい予定通りの時間の使い方でしたが、ただ終盤が予想以上に長かったので、最後は足りなくなってしまいました。あと、今日は30分以上の長考は1回だけ(33分)しましたが、30分以上の長考はしないようにしようと決めてました。

――終局直後に一丸さんは勝った気がしないとおっしゃってましたが、その意味は?
一丸氏 船江五段が優勢だった局面から時間が一気になくなってしまい、それが急転直下で形勢が一気に逆転しまったのが、一瞬のうちに起こったので、何となく認識できない状態だった。

――一丸さんはソフトを貸与されていたと思いますが、なぜ貸与したのか、船江五段は貸与されて活用できたのか?
一丸氏 ソフトを貸与したのは、船江五段が常々全力を出し切りしたいと記者会見でおっしゃっていて、最初から古いバージョンのソフトを貸し出そうとは思っていたのですが、やっぱり力を出し切りたいのであればできるだけ新しいバージョンの方がいいと思い、そのようにしました。

船江五段 ソフトを貸与していただき、数十局、指定局面を合わせるとかなりの数を指したので、長所短所を自分なりにつかめたので、その点においては大変ありがたかったです。3ヵ月間、ツツカナを使って指していたことで、自分の将棋の力も少し上達したというか、考えたかも変わってきて、電王戦では残念な結果になってしまいましたが、自分の将棋の実力としては、ツツカナとかなり指すことができたことで非常に大きかったというかありがたかったです。

――船江五段は去年からすでに対局が決まってましたが、電王戦に向けてこの1年間はどのように過ごされましたか?
船江五段 この1年以上前から決まっていましたが、正直昨年の夏まで現実感がなかったので、対策も立てていなかったですし、コンピューター将棋の知識は少しずつ増えていったのかもしれませんが、まだまだ自分は甘かった。緊張感もなく、ほかのみなさんと同様、対戦相手が決まってから対策しだしたので、もっと危機感を持って取り組まなければならなかったと思います。今日の対局は棋士の方たちには申し訳なく思いますが、自分にとっは大きな経験だったと思います。

――弱いところが出てしまったとおっしゃってましたが技術面ですか、精神面ですか?
船江五段 どちらもありますが、どちらかと言えば精神的な部分が大きかったと思います。いろいろ小さなミス、大きなミスと一局をとおしていくつかあったと思いますが、途中まではミスを立て直しながら行けたのですが、終盤になって時間がなくなりミスしてしまったところで、自分の気持ちを切り替えられなかったことが大きな敗因だったと思います。

大熱戦から見えてきた今回の戦い

第2回将棋電王戦・第3局

 ここからは、いーじまが観戦して感じたことをつづっていこうと思う。

 これまで対コンピューター将棋の対策として、人間側が序盤で定跡を外した手を打ちコンピューターに考えさせるというのが定説だった。第1回電王戦ではそのことを信じて米長永世棋聖の初手が大きな話題となったが、結果としては負けてしまった。しかし、今回の電王戦では人間側が外すのではなく、コンピューター側が定跡を外して自ら考えて指していくという手法をとっている。特に第2局、第3局は開発者が作戦としてそのようにさせているのだ。これは、すでにコンピューターは定跡が無くても自分の考えて指せることを意味する。第1回の『ボンクラーズ』の開発者・伊藤氏も当時のインタビューで「定跡を外されても大して変わらない」とおっしゃっていたが、定跡外しが勝利への第一歩という定説はすでに崩れ去っているということだ。
 

第2回将棋電王戦・第3局
控え室では塚田九段も検討中。次戦ではがんばってほしい。

 今回の『ツツカナ』のすごいところは、最新版をプロ棋士側へ提供し、自由に研究させていたことにある。第1局はバージョンが古いもののソフトを提供し、研究した阿部四段が癖を見抜いて勝利を収めた。第2局はプロ棋士側に提供せず、ブラックボックスの状態のママ対局。いい勝負だったがあと一歩のところでプロ棋士側が敗北した。そして今回である。プロ棋士が研究すれば、そのソフトの長所短所を短時間で見抜くことは第1局で示したとおり。そんな状態で対局に臨んだとき、やはりどう対策されたのか、開発者はいろいろ悩んだことだろう。今は棋譜を自動的に読み込ませて学習し評価関数を鍛えるのが当たり前。このためどう指すか、開発者自身もわからないし、調整もすぐには難しい。そこで、定跡を外してプロ棋士側の対策を崩す作戦に出た。そうである。今まで対コンピューター対策として定説だった作戦を、対人間対策として用いたのだ。
 

第2回将棋電王戦・第3局
第2局の勝者であるponanzaの開発者・山本一成氏(手前)も控え室にて検討していた。

 正直、序盤は手が広い。それなのに序盤からコンピューターに考えさせて、ふつうの対人戦と同様の差し回しをしていくツツカナの能力は、すばらしかった。しかも、マシン1台1CPUである。複数台のマシンを用いてクラスタ接続し、より深く読むようにしたソフトではない。このことから、このソフトの強さには開発者も自信があることが伺える。
 

第2回将棋電王戦・第3局
終盤でツツカナ優勢から船江五段優勢になったときのツツカナの画面。

 逆転に次ぐ逆転。ただ、ツツカナは大きく崩れたという印象はなかった。このソフトのアルゴリズムにクラスタ並列処理を併せ持たせたら、最強なのでは? と思うほどだ。
 逆に船江五段は、中盤から終盤にかけて、評価値上大逆転させている。評価値が1000近くから逆転させるのは、さすがというほかない。顔を真っ赤にして読み続ける船江五段の姿を見て「人間の能力ってすごい」ととても感動した。第2局同様、持ち時間がなくなり力尽きてしまった感じだが、コンピューターと人間との大きな違いは時間配分だ。コンピューターは序盤に長考するが、終盤はそんなに長考しない。逆に人間は序盤はそんな時間かけずに指せるが終盤はさすがに深読みするため考える時間がほしい。今回、コンピューターは手元の時計では残り時間があったが、1分将棋をしていた。それでも問題なく指せることを考えると、終盤で大きく引き離さないと人間が勝つのは難しいのではないだろうか。人間対人間だと相手が考える時間も考えられるが、対コンピューターだとほとんど時間がなく自分の手番になってしまう。それも不利な要因のひとつだと思う。さらに、人間なら体勢を見て投了してしまう場面でも我慢強く指し続ける。今回184手と壮絶な戦いになったが、持ち時間があと1時間多ければ……と考えてしまう。
 

第2回将棋電王戦・第3局
記録係がつけた棋譜も2枚に。壮絶な戦いだった。

 特に人間が勝つようなルール改正である必要はないが、第3回がもしあるならば今回の対局を踏まえて、ソフトの貸し出しの義務の明確化や1分未満切り捨ての対策(コンピューターは実質持ち時間が少なくなるため)、持ち時間の見直しなどが必要なのではないだろうか。

 次回の第4局、プロ棋士側はあとがなくなってしまったが、相手は旧ボンクラーズなだけに米長永世棋聖の雪辱を果たしてほしい。

第2回将棋電王戦・第3局
終盤混迷していて、検討している人たちもどうなっているのか、すぐに結論が出なかった。
第2回将棋電王戦・第3局
ツツカナの最終局面の画面。評価値のグラフが逆転に次ぐ逆転を示している。

<<第2回将棋電王戦 大盤解説会概要>>

●日 時:3月23日(土)~4月20日(土)までの毎週土曜日
 午前9時開場/午前10時より大盤解説開始~対局終了まで
 ※9時45分より解説者・聞き手が登場し、対局前の
 現地(東京・将棋会館)の様子をレポート

●会 場:ニコファーレ
●料 金:一般1500円、大学生以下1000円
      (当日チケットのみ・税込)

  ※1局あたりの料金となります
  ※全席自由・立ち見あり
  ※学生の方は、チケット代金支払い時に学生証をご提示ください
  ※ニコファーレのエントランスホールでのモニター観覧は無料
  ※ニコニコ生放送の視聴は無料
●対局者および解説者/聞き手:
 第1局 (3/23):○阿部光瑠四段 vs 習甦(しゅうそ)【終了】
 ◆解説者:阿久津主税七段/聞き手:矢内理絵子女流四段

 第2局 (3/30):佐藤慎一四段 vs ponanza○【終了】
 ◆解説者:野月浩貴七段/聞き手:山口恵梨子女流初段

 第3局 (4/6):船江恒平五段 vs ツツカナ○【終了】
 ◆解説者:鈴木大介八段/聞き手:藤田綾女流初段

 第4局 (4/13):塚田泰明九段 vs Puella α
 ◆解説者:木村一基八段/聞き手:安食総子女流初段

 第5局 (4/20):三浦弘行八段 vs GPS将棋
 ◆解説者:屋敷伸之九段/聞き手:矢内理絵子女流四段

●持ち時間:各4時間(1分未満切り捨て)
 先手番は、第1局 阿部光瑠四段
 (2局目以降は先手番・後手番が交替)
●主 催:株式会社ドワンゴ、公益社団法人 日本将棋連盟
●詳 細:「第2回将棋電王戦」公式ホームページ

●関連サイト
日本将棋連盟
山崎バニラオフィシャルサイト

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