週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

始まる違法ダウンロード刑罰化とDRM回避規制 (第3回)

DRM回避規制で録画したテレビ番組の利用に制限は出るのか?

2012年10月22日 10時00分更新

 10月1日から違法ダウンロード刑罰化、そしてDRM回避規制がスタートしている。本連載では著作権に詳しい福井健策弁護士に、私たちの生活にどのような影響があるか、コンテンツのカテゴリー毎に質問をぶつけているが、今回はテレビ番組の視聴や録画などの利用にあたって気を付けなければならない点について聞いた。

(1) CDやDVDなどのディスクメディアのコピーはどうなる?
(2) 音楽や映像のダウンロードなどネット利用への影響は?
(3) 録画したテレビ番組の利用はどうなる?
(4) どうしてこうなったのか? そして今後懸念されることとは?

 

【第3回】
録画したテレビ番組の利用はどうなる?

テレビ組の視聴や録画への影響は?

Q 通常の方法で録画した(ダビング10に対応したハードディスクレコーダー等で録画した)テレビ番組の私的利用は、この10月1日からなんらかの影響を受けるのでしょうか?

A 影響はありません。違法アップロードされたものではありませんし、DRMを回避しているわけでもありませんので、私的な目的ならば、これまでどおり視聴も通常のバックアップコピーも可能です。

Q ある装置で適法に録画した番組を、家庭内のLANを経由して別の端末(パソコンやスマホ、タブレットなど)で視聴するのも問題ありませんか?

A 家庭内での視聴自体は基本的に問題ありません。また、家庭内での視聴のための別な端末へのコピーも、DRM回避がない限りオーケーです。(たとえばiPadの場合、録画済みのダビング10対応の放送番組などを家庭内のネットワーク経由でのストリーミング視聴ではなく、端末自体にコピーしようとすればDRM回避が必要になりそうです。また、個別の利用規約等での制限が設けられている場合もあります。)

Q レコーダーから光ディスクに複製した番組の取り扱いについてはいかがでしょうか?

A これもレコーダーの通常の機能を使い、家庭内での視聴のために複製するならば問題ありません。ただしもちろん、ディスクをネットオークションに出品するなど公衆に譲渡してはいけません。単なる知人に譲渡、貸与するためにディスクに焼くのも、私的複製の枠を超えていますので、実は今回の改正と関わりなく違法です。

著作権法の改正

Q 改造B-CASカードの利用についてはいかがでしょうか?

A 改造カードは、DRM(アクセスガード)の“回避装置等”にあたるでしょう。ただ、表にあるように、著作権法や不正競争防止法の違反はその“譲渡等”であって、“回避行為自体”は違反にはあたりません。購入も同じです。もっとも、放送法などの関連もあるため(罰則にはいかずとも)違法の疑いはありますし、不正視聴がまったくほめられた行為でないことは事実です。また、第4回で述べるようにTPP(DRM単純回避規制)が仮に導入されれば、視聴だけでもストレートに違法となるでしょう。

 他方、先日逮捕者が出たように、出版社が雑誌の付録に回避するためのソフトウェアを添付して販売などすれば、表の“回避装置等の譲渡等”にあたりますから刑事責任を問われ得ます。また、そういったプログラムを公開、販売しているサイトへのリンクを紹介することは、違法行為の幇助にあたる可能性がありますので、避けるべきです。(報道、社会への警鐘等を目的とするケースもありますので、実際に責任が発生するとすれば、相当直接的に違法行為を助長、推奨しているような場合に限られるのでしょうが。)

テレビ組の視聴や録画への影響は?

Q 実験用などとして販売されているハードの利用や販売については今後どうなるでしょうか? つまり、ハードそのものには録画はもちろん、DRMを外すような機能は備わっておらず、有志によって提供されているソフトウェアと組み合わせるとDRMを外せるような場合です。

A まず、DRM回避の機能を持つソフトウェアであれば、表の“回避装置等”にあたりますから、利用して複製すれば違法となり、その販売(譲渡)は罰則の対象にもなります。

 他方、ハードの方は微妙ですが、アクセスガードを回避するために、ハードとソフトとを併用する前提で頒布されているならば、両者をあわせて“回避装置等”とみなされる可能性があるのではないでしょうか。両者の組み合わせが完全に偶然であればその限りではありませんが、両者が同一人物、同一団体によって頒布されている場合などは特に違法の可能性が高まるように思えます。また、別な人物、別の団体だとしてもお互いに同じ目的を持って行動しているなら、“共同正犯”が成立する可能性はあります。このあたりは、事実関係に応じて、ケース・バイ・ケースですね。

Q 録画チューナーのメーカーがDRMが掛かる仕様で出荷したにも関わらず、DRMの回避手段がユーザーによって解明され、改造などの回避手段が出回るケースについてはいかがでしょうか?

A 先ほどの改造B-CASカードやソフトウェアの場合と違い、回避方法の単なる指南は“譲渡等”を直接にも間接にも伴わないので、罰則の適用可能性はやや低いでしょう。ただ、こうした回避による複製自体は違法(罰則なし)なので、広くそうした手法が認知されて、権利者の著作権が著しく侵害された場合は、民事責任(賠償)が問われる場合もあると思います。

Q 地デジチューナーからアナログで番組を録画した場合や、ワンセグのようにDRMが掛かっていない状態の番組は、DRM回避規制の対象にならない、という理解で大丈夫でしょうか?

A 通常、アナログ出力したものの録画ならば、“回避”行為がないため問題にはならないでしょう。他方、ワンセグ放送自体にDRMがかかっていないのは事実ですが、その録画経路は機種や方法によって多様なため、一般論ではお答えしづらいところです。

 

 第4回、「どうしてこうなったのか?そして今後懸念されることとは?」は近日公開です。第1、2回はこちら↓

私的リッピングも違法!? いよいよ改正著作権法が一部施行

ストリーミングは対象か? 違法ダウンロード刑罰化の影響

福井健策
●弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部 客員教授
 1991年 東京大学法学部卒。米国コロンビア大学法学修士。現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。『著作権とは何か』、『著作権の世紀』(集英社新書)、『契約の教科書』(文春新書)、『『ネットの自由』vs. 著作権』(光文社新書)ほか。国会図書館審議会ほか委員・理事を務める。

●関連サイト
http://www.kottolaw.com
Twitter: @fukuikensaku

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう