本連載は生成AIをこれから活用しようとしている方たちのために、生成AIの基本やコピペしてそのまま使えるプロンプトなどを紹介。兎にも角にも生成AIに触り始めることで、AIに対する理解を深め、AIスキルを身に着けて欲しい。第76回は、ChatGPT・Gemini・Claudeに実装された電子透かしについて解説する。
生成AIで作った画像や動画には、すでに目に見えない電子透かしが使われている。AI生成物の出所を確認し、偽情報やなりすましなどの悪用を抑えるための技術だ。そして、最近では文章にも電子透かしを入れる動きが広がっている。画像と違って、ただの文字列にどうやって透かしを入れるのだろうか。
2026年10月5日、OpenAIは文章向けの電子透かし技術「textGrain」を発表した。すでにGoogleのGeminiやAnthropicのClaudeも対応しており、主要な生成AIサービスへの導入が進んでいる。気になるのは、これからAIが書いた文章は簡単にバレてしまうのか、透かしを付けずに使う方法はあるのか、という点だろう。
Googleが先行していた文章の透かし、EUの規制で普及が加速
最初に導入したのはGoogleだ。2024年5月、独自の電子透かし技術「SynthID」をGeminiの文章にも導入すると発表した。同年10月には文章向け技術をオープンソース化し、ほかのAI開発者も利用できるようにしている。
当時の目的は、AI生成コンテンツの出所を確認できるようにし、偽情報などへの悪用を防ぐことだった。その後、業界全体の対応を後押ししたのがEUのAI法だ。2026年8月2日から適用された透明性に関する規定では、生成AIの提供者に対し、AIが作った文章や画像、動画などを識別できるようにすることが求められた。従来から提供されているAIシステムには12月2日までの経過措置があるものの、大手各社は対応を進めている。違反した場合の制裁金は最大1500万ユーロ、または前年度の全世界売上高の3%のいずれか高い額とされ、巨大IT企業では天文学的な金額になりかねないためだ。
Anthropicは2026年8月14日、Claudeの文章にも電子透かしを導入する方針を発表した。OpenAIも10月5日に独自技術の導入を発表している。Googleが自主的に始めた取り組みが、EUの法規制によって業界全体に広がったのだ。ただし、EU域内だけで透かしを付けるのか、日本を含む全世界で適用するのかは、企業によって方針が分かれている。
文章に隠された電子透かしの仕組みとは? AIが選ぶ言葉に秘密のパターンを残す
画像なら画素の色をわずかに変えることで、見た目を変えずに情報を埋め込むことができる。文章の場合は発想が異なり、文字や記号を追加するのではなく、AIが文章を作る際の言葉の選び方に、目に見えない特徴を残すのだ。
生成AIは文章を一度に完成させるのではなく、「トークン」と呼ばれる単語やその一部を1つずつ選びながら作っている。例えば「会議は予定どおり」に続けて「始まった」「開始された」と表現できるように、同じ内容を伝えるにも言葉の選択肢がある。AIは候補ごとに確率を計算し、次の言葉を選んでいく。
電子透かしは、この選択に秘密のルールを加える技術だ。OpenAIのtextGrainでは、次の言葉の候補を秘密鍵に応じて複数のグループに分け、グループごとの確率をもとに、優先するグループが異なる確率の組を複数作る。そして、秘密鍵で選んだ組に従ってグループを選び、その中から次の言葉を選んでいる。元の確率分布を保つように設計されており、文章の品質をほとんど変えずに特徴を埋め込めるという。検出ツールは同じ秘密鍵を使って文章を分析し、偶然では生じにくいパターンがどの程度現れているかを調べる。生成前の文章や元のAIモデルがなくても判定できる仕組みになっているのだ。
しかも、文章を少し修正した程度では電子透かしは簡単には消えない。GoogleはSynthID Textについて、一部を切り出したり、数語を変更したり、軽く言い換えたりしても検出できると説明している。もちろん、コピーしてWordやメールに貼り付けても、言葉の選び方に残された特徴はそのまま維持される。
OpenAIが英語で実施した試験では、誤検出率を1%に設定した場合、心理学に関する200トークンの文章で約80%、400トークンでは約95%を検出できた。別の編集耐性の試験では、400トークンの文章に含まれる単語の10%を同義語に置き換えても66%、25%を置き換えた場合は17%を検出した。短い文章や数学の回答などでは検出しにくいものの、ある程度の長さがある文章なら、軽い手直しを加えても電子透かしが残ることがわかる。
日本のChatGPTには付かない? 3社の対応と検出ツールの現状
GoogleのGeminiは、2024年からウェブ版とアプリ版の文章にSynthID Textを導入している。日本を対象外とする説明はなく、一般ユーザーが設定でオフにする方法も案内されていない。開発者向けのGemini APIでも透かしが付くことが、2026年8月19日にGoogleの担当者によって確認されている。
AnthropicのClaudeも、日本を含む全世界で電子透かしを導入している。地域別に適用を切り替える仕組みが整っていないため、世界共通で実装したという。対応モデルならウェブ版やアプリ版だけでなく、Claude CodeやAPI経由でも透かしが付く。ただし、Sonnet 4.6など一部の旧モデルは未対応で、順次対応を進めている段階だ。
OpenAIも独自技術のtextGrainによって、ChatGPTとCodexの文章に電子透かしを導入する。ただし、2026年10月21日時点で自動適用の対象はEU域内に限定されている。日本で通常のChatGPTを使う場合、電子透かしは標準適用されていない。OpenAIのAPIも10月5日から電子透かしに対応した。対象地域は全世界だが、標準設定はオフのままで、開発者がプロジェクトや組織の設定で有効にした場合にのみ、生成した文章に電子透かしが付く仕組みとなっている。
AIに論文を丸投げしたり、十分に推敲していない小説を大量に投稿したりする行為は、もちろん問題だ。ただ、電子透かしの普及には懸念もある。文章の内容は自分で考え、表現を整えるためにAIの補完機能を使っただけでも、「AIが書いた文章」と判断される可能性があるからだ。透かしが検出されても、AIがどの程度関わったかまではわからない。判定結果だけで書き手を疑うような風潮が広がれば、正当なAI活用まで萎縮させかねない。
では、透かしが付いた文章は誰でも簡単に見破れるのだろうか。実は、検出ツールの公開はまだ限定的だ。OpenAIは研究者や専門組織向けに利用申請を受け付け、Anthropicも研究者や報道機関などを対象に限定提供している。一般ユーザーが自由に使える状態ではない。
Googleは2026年10月7日に「SynthID Detector」を一般公開したが、現在の検証対象は画像、動画、音声だ。文章向けの検出機能は一般公開されていない。インターネット上のAI文章判定サービスも、文章の特徴からAI生成の可能性を推測するものが中心で、公式の電子透かしを検出しているわけではない。
文章への電子透かしは普及し始めたばかりで、対応するモデルや地域、検出できる条件もまだ限られている。今後は検出技術が進化し、AIが生成した文章かどうかを簡単に判別できるようになる可能性が高い。ただし、透かしが検出されても、人間がどれだけ考え、手を加えたかまではわからない。
いずれにせよ、重要なのは文章の中身だ。AIをどこまで活用するかは人それぞれだが、何を伝えるかを自分で考え、完成した文章の内容や正確性をしっかり確認するという基本は変わらないだろう。
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