「答えるAI」から「行動するAI」へ AMDが提唱するフィジカルAI時代の新たな性能指標
2026年10月20日 17時30分更新
AMDは、クラウド上で問答を行なうAIの時代から、現実世界で物理的に自律動作する「フィジカルAI」の時代への移行を見据え、ロボティクスにおける新しい性能の考え方を発表した。同社でアダプティブ&エンベデッド・コンピューティング・グループのSVP兼GMを務めるサリル・ラジェ(Salil Raje)氏がオピニオン記事で明かした。
従来、AIの性能指標としては演算処理能力を示す「TOPS」や推論速度(ベンチマーク)が重視されてきた。しかし、現実空間で人間に混ざって動作する人型ロボット(ヒューマノイド)や産業用ロボットにおいては、単なるピーク性能ではなく、システム全体における「決定論的なリアルタイム制御」と「応答の予測可能性(決定論性)」が何より重要になると主張する。
ピーク計算量(TOPS)だけでは実世界のロボットを動かせない
フィジカルAIでは、単にAIモデルが素早く思考(推論)するだけでは不十分だ。センサーで異常を感知してから物理的なアクション(回避動作やモーター制御)を完了するまでの「エンドツーエンドの応答性」が求められる。
もしAIモデルの計算がいくら速くても、データ転送やスケジューリングの遅延によりミリ秒単位の制御ウィンドウを逃せば、それは単なる処理遅延ではなく「衝突」や「転倒」といった深刻な安全上の障害に直結する。そのため、平均レイテンシーではなく、遅延のばらつき(ジッター)や最大遅延(テイルレイテンシー)の抑制が必須となる。
人体の構造になぞらえた異種統合コンピューティング
AMDはこの課題に対し、ロボットを「人間の身体構造」になぞらえた分散処理アーキテクチャーを提案している。
脳(知覚・推論・計画):高いスループットが必要なモデル処理(GPU / NPU)
神経・脊髄(決定論的通信):リアルタイム通信・統合(Adaptive SoC / FPGA)
関節・手(緻密な運動制御):時間制約のある確定的なモーター制御(SoC / FPGA)
感覚器(センサー):エッジでの一次処理(FPGA)
すべてのアクションを単一のプロセッサーに頼るのではなく、処理に応じた最適な演算エンジン(Right compute for the right workload)を配置することで、帯域幅や電力、レイテンシーの限界を克服できるという。
AMD Kria AIソリューションでロボティクス市場を刷新
AMDはこの設計思想を具現化する製品ポートフォリオ「AMD Kria AIソリューション」を展開している。
Kria AI SOM / ロボティクス・キャリアカード:「AMD Ryzen AI Embedded X100シリーズ」プロセッサーを搭載。
AMD Kria AI Robotics Developer Platform:CPU、GPU、NPU、FPGAの計算資源を融合したオープンな統合開発プラットフォーム。
ソフトウェア環境:ROS 2およびAMD ROCmをベースにした「AMD Robotics Software Suite」を提供し、PyTorchやONNX、MoveItなどをサポートする。
第三者機関によるテスト結果によると、Kria AI SOMは1秒間に8000回の制御決定を持続しつつ、100ミリ秒未満でAIの推論・判断を実行できる性能を示したという。また、Ryzen AI Embedded構成では、競合となるNVIDIA Jetsonシリーズと比較してリアルタイム信頼性が向上している点もアピールしている。
「ピーク性能は印象的なデモを作るのに役立つが、製品として成立させるのはシステムレベルのパフォーマンスだ」とラジェ氏は締めくくっており、同社はハードウェアとソフトウェアが密接に連携するオープンなエコシステムを通じて、フィジカルAIの実用化を推進していく構えだ。
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