「CapCut World」で聞いたAIとクリエイターの現在地
AIでデザインが簡単になっても残る仕事 AIで変わる4人のクリエイターの仕事と人生
2026年11月03日 11時00分更新
テンプレート作りから1万6000人のコミュニティへ、Erinatiさんの人生が変わった
インドネシアから参加したErinatiさんが語ったのは、テンプレート制作をきっかけに事業を立ち上げ、人生を変えていった経験だった。2021年、友人がSNSに投稿した動画の仕上がりに驚き、CapCutを使い始めたという。最初に作ったのは、流行曲に合わせて文字を表示したり、スローモーションや画面の切り替えを使ったりする、ごくシンプルなテンプレートだった。
使い続けるうちに編集方法を教えてほしいと頼まれるようになった。そこで2022年に立ち上げたのが、Editing Room Agencyの略である「ER Agency」だ。自分だけでなく、ほかのクリエイターにも一緒に成功してほしいと考え、初心者が学び合い、腕を磨ける場所を作ろうとしたのが出発点だった。
転機となったのは、自作のAIテンプレートが国境を越えて広まったことだ。何百万人ものユーザーに使われ、SNS上ではパロディーも作られたという。CapCutのプログラムで制作技術を学び、コンテストでも受賞を重ねた。だが、Erinatiさんにとって大きかったのは、賞の数より生活の変化だった。
「経済的にも生活が大きく変わりました。家計を支え、自分の家を建て、両親の家をリフォームできました。想像もしていなかったことですが、自分が作ったテンプレートの収入で結婚することもできたんです。私の助言を実践してテンプレートが流行したクリエイターからも、心を動かされる話が届きました。特に印象に残っているのは、費用の問題で何年も帰省できなかった方の話です。テンプレートが流行したことでお金を貯め、故郷に帰って家族に会えたそうです」(Erinatiさん)
ER Agencyは当初、家族や友人を中心に70人ほどの集まりだった。それが現在は1万6000人を超え、6人のスタッフが運営を支えている。ワークショップや動画講座、電子書籍で編集方法を教えるほか、英語を使って海外へ届くテンプレートにする方法も助言している。
最初は友人の動画を見て始めたCapCutだったが、いまでは自分がほかのクリエイターを育てる立場になった。1本のテンプレート制作から始まった挑戦は、多くの人が創作で収入を得るための事業へと広がっていたのだ。
15秒の映像を3分の物語に、AI映像作家Henri Kangさんの作品づくり
シンガポールのAI映像作家Henri Kangさんは、マーケティング分野のクリエイティブデザイナーとして働き、2022年から生成AIを使った作品づくりを続けている。画像生成から始まり、今では短編映画まで手がけるようになったという。
代表的な作品の1つが、CapCutの映像制作チャレンジで作った短編「The Last Tide」だ。参加者に渡されたのは共通の15秒の映像。それを起点に、3分以上の物語へ発展させるという課題だった。
Henriさんが考えたのは、悲しみと記憶、そして喪失を受け入れる物語だ。海に沈んだ村。失われた人々の命の光を納めた絹の箱を持つ、たった1人の番人。彼は光を灯台へ運び、その光で海底を照らす。すると、かつての村がよみがえり、人々の記憶が安らぎを得る。映像は全編、CapCut内のSeedanceで生成したという。
AIを使えば映像を生成できるものの、一度で思い通りの仕上がりになるとは限らない。Henriさんも1シーンにつき通常2回、多くても3回ほど生成し直し、納得できる映像を選んでいるという。ただ、全体がうまくできていても、一部分だけ修正したくなることがある。そんなとき、シーン全体を作り直さずに済むかどうかが重要になる。
「1つのシーンのために何度も生成し直して、ベストショットを選ぶことがあります。完璧なショットができたと思っても、どこかがおかしい。でも、全体をもう一度生成し直すリスクは取りたくないんです。Edit Pilotなら動かしたい部分や変えたい部分を指示するだけで済むし、インタラクティブ編集なら一部分を選んでそこだけ変えられます。時間もクレジットも節約できます」(Henri Kangさん)
今回の取材で印象に残ったのは、同じCapCutを使っていても、創作との向き合い方や仕事への生かし方がそれぞれ違っていたことだ。より面白い映像を追求する人、デザインの課題解決に役立てる人、テンプレート制作をきっかけに仲間の活動まで支えるようになった人など、AIの便利な使い方だけでなく、仕事の工夫や人生の転機にまで話が広がったのは興味深かった。
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