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「しょせんノーコード」を覆す、IT部門不在で挑んだ内製DXの道のり

クリーニング屋が人手不足を“人手以外で”解決 一度は手放したkintoneを復活させ、AIで販管費を半減するまで

きらら 代表取締役 筒井洸気さん

 斜陽産業の渦中で“沈みかけの船”だった、地方の布団クリーニング店であるきらら。働き方を改善してくれたkintoneを一度は手放すものの、離れたことで「成長基盤」としての価値に気づくことに。そこから始まった「出戻りkintone×AI」の仕組みづくりで、販管費の半減を達成している。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2026 matsuyama」を開催。4番手に登壇したきららの筒井洸気さんが語ったのは、IT部門不在の中で成し遂げた内製DXの歩みと、人手不足に悩む中小企業に対するエールだ。

華々しい成果から一転、「所詮ノーコード」と手放した理由

 山口県防府市にある、従業員4名の小さな布団クリーニング店であるきらら。専門工場を操業し、業界に先駆けて立ち上げた宅配布団クリーニング「きららWASH」は、顧客の半数以上を東京が占めているという。

 今回登壇した筒井さんは、大阪から山口に流れ着き、バイトとして同社に入社。現在では工場長を務め、本イベント後には事業承継で代表取締役に就任している。

 筒井さんは冒頭、「入社当時のきららは“沈みかけの船”でした」と振り返る。直近の決算は3000万円の純損失。ただ、苦境に立たされていたのは同社だけではなく、クリーニング市場自体が斜陽産業化していた。2020年までの30年間で市場規模は3分の1に落ち込み、2025年1月から9月期だけでも52社が倒産・廃業に追い込まれるなど、今なお厳しい状況が続いている。

過去最多ペースでの倒産・廃業が続くクリーニング業界

 さらに当時のきららを襲ったのが、サポート終了するWindows 7や基幹システムの更新問題だ。「更新に200万円かかると言われましたが、シンプルにお金がなかったのです。そんな折、展示会で出会ったのが、ドラッグ&ドロップでアプリを作れるというkintoneでした」(筒井さん)

 「めちゃくちゃええやん」とすぐにkintoneの契約を決めたのが2019年のことだ。そこから4年、kMailerなどのプラグインを活用しながら、着実に営業改善を進めていった。

 その結果、平均年収や有給取得率は業界水準を大きく上回るまで改善。自社ECの売上も4倍に急増した一方で、労働時間をピーク時から6000時間も削減した。さらに、山口県から働き方改革で表彰され、新聞に取り上げられるという快挙も達成している。

ピーク時から6000時間(250日)も所定勤務+残業時間を削減

 ただここまではあくまで第1章、事例の入り口に過ぎない。2025年2月、きららはkintoneを使うのをやめたのだ。

「『これだけ改善したのになんでやめたの?』と思うかもしれません。ただ、プラグインも含めると月額5万円ほどかかっていました。経営陣は、外では『内製化してすごいやろ』と得意になりつつ、社内では『毎月えらい(費用が)かかってんな』と言うのです。私の心はすり減っていきました。『もうプロの作ったCRMに乗り換えた方がええんちゃうか。所詮、kintoneはノーコードで、素人のツギハギやんか』ということで、やめてしまいました」(筒井さん)

こんなに成果を生んだのにやめてしまったkintone

出戻りkintoneとAIで自作した「作業の手を止めない」クリーニング専用UI

 第2章がkintoneとの別れだとすれば、第3章は「帰ってきたkintone」である。

 筒井さんはkintoneから離れることで、気づいたことがあったという。自分たちが本当に価値を感じていたのは、ツールとしてのkintoneではなく、非エンジニアがデジタル領域で業務改善ができる「成長基盤」としてのkintoneだったのだ。

「われわれはクリーニング屋です。もちろんIT部門や情シスはなく、エンジニアもいません。だからこそ自分たちでできる環境が大事でした。そして出戻りkintoneによる新しい物語が始まりました」(筒井さん)

kintoneはきららの成長そのものだった

 この新しい物語では、ずっと一人で開発を続けていた筒井さんに、心強い仲間が加わった。それは進化著しいAIである。

 振り返ると、これまでのきららのkintone活用は、分断されたアナログとデジタルの情報をつなぐ「翻訳機能」としてのバックオフィス運用だった。「それをもう一回作るのは面白くない」と考えた筒井さんが挑戦したのは、kintoneとAIを活用して、バックオフィス機能を「現場に組み込む」ことだった。

 その際に意識したのは、UXならぬWX(ワークエクスペリエンス)という設計思想だ。クリーニングの現場での理想的な環境を追求していった結果、キーボードやマウス、それに付随する一連の動作はすべて「邪魔なもの」だと気づいたという。

 そこで利用したのがHTMLやJavaScriptでレコード一覧を独自なものに変えられるkintoneの「カスタマイズビュー」の機能だ。目指したのは、作業と連動してkintoneの情報が編集・保存されていくUIであり、業務特化型のアプリを作るのではなく、業務特化型のUIに業務の複雑さを吸収させるアプローチだ。

業務特化型のUIで業務の複雑さを吸収する

 例えば、入荷検品用のUIでは、音声で検品内容を入力でき、AIによる文字起こしを経由してkintoneのレコードが更新される。注文内容の読み上げや写真の取り込みにも対応し、作業者がkintoneの画面を見る必要は一切ない。梱包作業UIでは、バーコードで注文内容との照合して誤梱包を防止しつつ、RFIDプリンターと連動させることでラベルの自動印刷も実現した。

入荷検品用UI

梱包作業UI

 他にも、APIによる自動レコード作成で毎朝のCSV取り込みをゼロにし、ワンボタンで帳票印刷する仕組みもスクリプトで構築。各チャネルの問い合わせはkintoneに集約し、AIに下書きを任せることで返信時間を削減するなど、AIやAPIを駆使して自動化を進めていった。

 そして、筒井さんはこう語る。「僕たちは、事例をひけらかしたくて登壇したわけではありません。伝えたいのは、これらの仕組みが『決して特別ではない』ということです。僕たちは、特別ではありません。従業員は30代が2名、60代が2名。設備もなければ、お金もありません。それでも、ここまでできるのです」

 また、ベテラン社員がいることも変革を止める理由にならないという。「『60代の2名が足かせになるか』と言われれば、もちろんなりますが、デジタルが苦手なことは言い訳になりません。彼らは、TikTokで推しにいいねをして、Netflixで韓国ドラマを見て泣いているわけです。『めちゃくちゃデジタル使ってますやん』という話です。実際に僕は、AIを前提としつつ、ドラッグ&ドロップとコピー&ペーストだけでこれらのUIを作っています」(筒井さん)

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